「今日の昼休みの中盤で私、クラスの子に
 ”七香さん、誰か呼んでるよ?”って言われてさ、最初は気のせいだと思ったんだけど気のせいじゃなくて・・・。
 でクラスから出たら緑ちゃんがいて、
 私、緑ちゃんに呼ばれたのかもしれないと思ったけど、その私の考えは外れていてほしいって願って、
『私、人に呼ばれたから・・・』
 と言ったの。
 そしたら、
『ばっかじゃないの!?
 ・・・というかもとからバカだったね。
 呼んだのは私たちだよ?』
 みたいに言われて。
 それを言われたのと同時に、
『そうだぞ!』
『呼んだのは俺たちだよ?』
 とグループの緑ちゃん以外の人が一斉に周りに来てさ、つれていかれたんだ。
 運が悪くて先生は誰もいないしみんなは見て見ぬふりして・・・
 で、よくわからない真っ暗で人のいない場所にきて、
『どこだと思う?
 ま、お前に分かるはずがないか。
 ここはな、お前と話をするためにわざわざ、探してあげた場所なんだよ?
 感謝しないとだな。
 ハハハハハ』
 っていう風に言われて、その後、
『優笑、お前よくも先生にいじめられたことがあるなんてことを言ってくれたな!
 そのせいで、ほんと俺たちが怒られたんじゃないか!
 どうしていったんだよ。あ?
 こたえろ。』
 って、聞いたことがないくらいの低い声でいわれて。
 私はすぐに”相当怒ってるな・・・”って感じ取ったの。
 でも、多分ここまで怒らせると何を私がいってもどうなるか予想がついて、
 ”だったら・・・だったら、せっかくなんだから私の本音ぶつけてみよう。”
 って考えて、私、勢い任せで思いっきり言い返したんだ。
『は・・・?
 そっちがおかしいんじゃないの?
 私は何をしたっていうの?
 あなたたちをいじめた・・・?
 私は小学生の頃たまたまお前らが私の悪口言っているところを聞いて、それからは関わらないように過ごしてたのにそんなことするわけないじゃん。』
 ってね。
 私は自分の口の悪さに思わず驚いたけど、私の口は止まらなくて。
『ねぇ?
 聞いてる?
 バカなのはそっちだよ!
 作り話を先生や生徒に広め、みんなして私をいじめて何が楽しいの?
 何の意味があるの?
 というか、そもそも私なんかした?
 なんか、お前らは私の性格が気に食わなかったようだけど、そんなん私の個性じゃん。
 私は悪気があってやってるわけじゃないし!』
 っていっちゃったんだ。
 そこから先はもう想像が着くかもだけど、散々いろいろ言われて、叩かれて・・・で、今の状況なんだ。
 あの時、緑ちゃんたちは
『そっちの勝手な理屈なんて知らねぇよ!』
 とか、
『ほんとに、そんなおかしいことが言えるほど優笑っておかしいんだね。』
 とかっていって、とにかく私の言ったことを認めなかったから私、
 ”緑ちゃんたちには何を言っても通じなさそうだな”って思った。
 しかも、最後に
『緑も言ってたように、
 ”また、私たちのグループにいじめられました”みたいに言ったらほんと、今度はもっとひどいから。
 わかったね?』
 ってグループの人にいわれて・・・。

 今回はもう、どうしようのないのかな・・・。」
 私は心から漏れてしまった言葉にハッっとした。
『何を言ってるんだろう。最後まで向き合って解決するって決めたのに・・・。』
 そう思っていると広瀬君が口を開いた。
「そう、だったんだね。
 俺、そんなことが起きてるときに駆けつけられなくてごめん。
 ”力になるとか言っておきながら!”って感じだよね。
 ・・・・・・。」
 そういって、また朝のように頭を抱えた。
「広瀬、くん?」
「ん?」
「いや、朝からそうやって頭抱えてたからさ、大丈夫かなって思って・・・。」
「あ、あー、そ、そうだね。
 心配かけて、ごめん。
 頭がちょっと痛くて、さ、ハハハ・・・。」
 見るからに様子が変だ。
「なにか、あった?」
「え?ううん。何もないよ?
 それより、これからどうする?
 教室、戻る?」
 ―――――明らかにはぐらかされた。
 絶対何か隠してる。
 私はどうにかして広瀬君の力になりたかった。
 だから、
「広瀬君、自分の心の内側のことを詳しく聞かれるのは嫌なこと私もよくわかるんだけど、今だけ許して・・・。
 あのさ、広瀬君本当は何かあるんじゃない?
 さっき私に聞かれて答える時、明らかに変だった・・・。
 私、力になりたいんだ。
 だから、話せそうだったら話してほしい。」
 そういった。
「優笑・・・。」
 広瀬君は下を向いてしまった。
『私、やっぱり言わない方が良かったかな・・・、』
 今そう思っても遅いのに、私はそう思ってしまった。
 すると、
「心配かけてごめん。
 優笑の思ってる通りだよ。
 本当はなにかある。
 でも、優笑に言う自信がなかった・・・。
 怖かった・・・。
 だから言えなかった。ごめん。」
「そっか、無理に聞いてごめん。」
「ううん。大丈夫。
 俺も話さないといけないとは思ってたから・・・今話しちゃってもいい、かな?」
「うん。いいよ。」
「ありがとう。

 優笑にはいってないけど、俺いまお母さんがいないんだ。」
「えっ・・・。」
 言葉を挟んだらいけないところなのについ口から出てしまった。
 だって、広瀬君の話は私がいままで話していたことよりもはるかに重い話で、辛い話なんだってさっき聞いた一言でわかったから。
「俺のお母さん、ちょうど一年前くらいに死んじゃったんだ。
 自殺・・・、でさ。
 それでお父さんと俺はしばらく抜け殻みたいになって、ほとんど何も食べないで過ごしてたんだ。
 だけど、ある時急にお父さんが
『ここにいると思い出してしまう。
 だから、全く違うところに行こう。』
 っていって遠く離れたこの県のこの場所に引っ越したんだ。
 お母さんが自殺した理由は周りからの嫌がらせというか、言葉というか・・・そんな感じの理由みたいなんだよね。
 なんか、職場の人から、
 ”仕事がうまくできてないくせに・・・”とか、”あなたじゃなくて、もっと仕事ができる人を呼びたいな”とかって言われてたらしく、それに耐えられなくなって・・・。
 ってことがお母さんの部屋に置いてあった紙に書かれてたってお父さんが言ってた。
 それでもお母さんは何回も、”仕事ができるようになろう”っていって努力してたんだ。
 だけど、事態は一向に良くならなくて、だんだん心が傷ついて行っちゃったんだって。
 そのお母さんと今の優笑がさ、なんか重なって見えちゃって・・・。
 もう、目の前の人とか身近な人が死んでいなくなってほしくなかったから、一時優笑に
『もう頑張っても難しいかもしれないから、いっそのこと思いっきりキャラを変えるとか、別室登校にするとかしてみたら?』
 って言おうとしたことがあった。
 でも、
 ”優笑なら・・・優笑に俺がついてしっかりサポートしてあげれば乗り越えて、明るい未来を作っていくかもしれない”
って思って、他にも
 ”俺には止める権利なんてないな”とも思って、止められなかった。
 だけど、やっぱりどうしても今みたいに辛いことを吹っ切ろうとして、気持ちを切り替えてまたスタートをきった優笑がまた次嫌なこと、傷つくようなことをされたら今度こそ本当にいなくなっちゃうんじゃないかと思って心配でたまらなかった。
 で、俺はずっと考えてたんだ。
 ”俺のお母さんの話をして、優笑に
『頑張ったのに傷つくこともある。
 だけど、そうなったときはまず自分で何かする前に俺に言って。』
 みたいに言おうかなって。
 でも、よく考えてみたら、俺にその話をされるとまた考えこんじゃうんじゃないかって思って話せなくなったんだ。

 ―――――優笑。
 俺は優笑が頑張っていることについて否定はしない。
 だけど、頼むから俺のお母さんのようになってほしくない。
 俺の身近な人がいなくなったりしないでほしい。
 だから、本当に何かあったら遠慮しないで、どんな時でも話して。」

 話を聞き終わって、私は情報を整理するのに時間がかかった。
 だって本当にびっくりしたから。
 こんなことが広瀬君の身に起きていたなんて想像してなかったから。
 そして、頭にようやく情報が整理されると今度は申し訳のない気持ちでいっぱいになった。
『広瀬君は私にいままでたくさん質問されたり、相談に乗ってくれたりしたけれども、本当はどうだったんだろう。
 ・・・きっと、相当苦しかったんだろう。
 なのに私は、なにも知らず話してしまった。
 しかも、私はついこの間広瀬君のお母さんと同じ終わり方をしようとした。
 広瀬君があの時『すごく心配してくれるな』ってただただ思っていたけど、本当はそれだけ心配した理由があったんだ。
 ”もしあの時広瀬君が来なくてそのまま自殺しちゃってたら、今頃広瀬君はどれだけ落ち込んでいるのかな・・・”そう考えただけで辛くなる。
 だってもし私のお母さんがなくなって、苦しくてそれで引っ越してきて・・・。
 そこで知り合った友達が自殺したって聞いたり、目の前で死んでいくのを見てしまったら、私、立ち直れる自信がない。
 だから本当にあの時死ななくてよかったと思った。
「そうだったんだね・・・。
 私、そんなことも知らずに自分勝手に広瀬君を振り回しちゃててごめん。
 私が死のうとした時も、絶対怖かったよね。
 私だったら、
 ”私と知り合いの人は誰かしら苦しんでしまっているのかもしれない。
 もしかしたらまた死んでしまう人が出てくるかもしれない”
 って考えて相当怖かったと思う。
 だから、本当にごめん。
 でも・・・、でも!
 こんなこと聞きたくないかもだけど、私はこのまま頑張っていろんな問題を乗り切っていく。」
「え・・・。」
「広瀬君の気持ちは十分わかった。
 でも、私はもう逃げたくないの。
 強くなりたい。変わりたい。
 だから、このまま頑張る。
 ただ、約束する。
 なにがあっても死んだりしない。
 必ず広瀬君に言う。
 それに・・・これは私の勝手なことなんだけど、私のこの家族との問題と緑ちゃんたちとの問題をしっかり解決させて、
『私の今までの時とか広瀬君のお母さんのようにうまくいかない人もいるかもしれないけど、絶対にいつかは成功するんだよ』って広瀬君に言いたい。
 そうすれば、なにか変わると思うんだ。
 どう・・・かな。」
「俺はやっぱりまだお母さんのことがあったから、はっきり”賛成!”って言うことは難しいけど、
 確かに優笑は成功させられると思う。
 それに、優笑は今さっき
 ”約束する。なにがあっても死んだりしない。必ず広瀬君に言う。”
 って言ってくれたから少しだけど安心した。
 あと・・・」
「あと・・・?」
「たとえこういう感じで優笑に賛成できてなくても、絶対俺がついてるから、一人じゃないしな!
 あ、ちょっと今俺が言ったこと、つじつまが合わないかも。
 えっと、つまりは”俺はとにかく優笑の味方だよ”ってことかな。」
「たとえ、はっきり”賛成!”って言えなくても?」
「そそ!俺がたとえ優笑に賛成してなくても一応優笑についてるよってこと。
 だから、一人じゃない優笑はもう大丈夫だよ。」
「そっか。ありがとう。
 私、頑張る。
 今はとりあえず緑ちゃんたちのことを先に乗り越えようと思う。
 だから、よろしくお願いします。」
「おう!俺も案どんどん出せるように頑張るな!」
「ありがとう!」
 そういって私たちはそのまま図書室に残り、緑ちゃんたちのことを解決するにはどうすればいいのか考えることにした。

「―――――俺さ、思ったんだけど、言ってもいい?」
「うん。」
「あの、証拠動画・・・みたいなのを先生に見せるっていうのはどうかな・・・?」
「あー、いいね。
 でもその証拠動画はどうするの?」
「・・・・・・!
 たし、かに。
 んー。」
 広瀬君は考え込んでしまった。
 私も一緒に考える。
 癖でつい下に目線が言ってしまう。
 すると、痣のできた自分の皮膚が目に映った。
「あ・・・!」
「なんか思いついたのか?」
「え、あ、いや、思いついた・・・けど。
 ちょっと怖い・・・。」
「どういうこと・・・?
 優笑が思いついた方法ってどんなの?」
「えっと、また私が緑ちゃんたちにいじめられて、それを広瀬君に撮ってもらうっていう・・・方法。」
「んー。確かに怖いな。
 俺も目の前でいじめられてる人を見ながら撮り続けるのは無理そうだな・・・。」
「そっか・・・。
 まあ、そうだよね。
 私も怖いし。」
「うん。」
 そして沈黙が流れた。
 すると急に
「あ・・・!」
 と広瀬君がさっきに私のように声を上げた。
 と思ったら私に向かって、
「やっぱりさっきの方法でやろ!」
 と言い出した。
「え・・・?」
 それってつまり、また叩かれるってことか。
 私が黙っていると、
「あ、ごめん。言い方がまずかったかも。
 あの、俺が考えたのは、―――――。」
 と、いろいろ話してくれた。
 内容はこんな感じだった。

 まず、今回最後に言われた、
『緑も言ってたように、”また、私たちのグループにいじめられました”みたいに言ったらほんと、今度はもっとひどいから。
 わかったね?』
 という言葉を利用して、わざと先生に”また、緑ちゃんたちのグループにいじめられました”といって、私のことを呼び出してもらう。
 そして、つれていかれている私の後ろからばれないように先生と広瀬君でついていき、私に緑ちゃんたちが悪い言葉を言ったり叩かれたりしたところを先生にしっかり見てもらったら広瀬君がすぐに先生と登場する・・・。
 という流れだった。

「こんな感じだったら、良いんじゃないかなって。
 優笑が少しだけ傷つくのは確かだから、ごめん。
 でも、これ以上思いつきそうになかったから口に出したんだ。
 優笑はどう思う??」
「・・・・・・。
 私は・・・。
 私は、いい、よ。」
 そう答えた。
 だって、ここで頑張らないとどうにもならないと思ったし、第一、先生が直接見てくれるなら信じてもらえる確率が一番高い。
 だから、私は”いいよ”と言った。
「本当に、いいの?」
「うん。大丈夫。
 ちょっとくらいなら耐えられるし、広瀬君が見てくれているなら絶対大丈夫だって思えるから。
 だから、それ、やってみよ!」
「そっか・・・。
 ありがとう!
 それで、頑張って先生に信じてもらおう!」
「だね!
 今度こそ成功させよう!」
「おう!」
 そういって、私たちは決意を固めた。