次の日。
 私は今、学校の正門をもう少しで通り過ぎるというところを歩いていた。
 もう目の前にどんどんと近づいている正門。
 あれを通り過ぎるともう別世界だ。
「でも、もう大丈夫。」
 そう言って私は正門を通り過ぎていった。
 そして、下駄箱で上履きに履き替え教室に向かった。
 幸い、教室に着くまでの廊下では緑ちゃんたちに会わなかった。
 そして、教室に入った。
 当たり前なことだけど、もちろん、
『私が少し変われたからと言って周りも少し変わっていた・・・』
 なんていう都合のいいことは全くなく、みんないつものように私を変な目で見てきて私と目が合えばスッと違うの方向を見ていた。
 私も私で、少し変われたものの、やっぱりこういうことをされると少し悲しかった。
 でも、そんな気持ちは長く続かなかった。
「優笑、おはよう!
 本当に元気そうでよかった!」
「うん。おはよう!
 元気そうでよかったって・・・。」
 私は心の中で
『昨日、”大丈夫”って言ったはずなんだけどな。』
 とつぶやいた。
 だけど、広瀬君には言わないで、
「でも、昨日は本当に心配してくれてありがとう。」
 と返した。
「ううん。全然だよ!
 でも、もう本当にあんな無茶なことはしないでくれよ?」
「無茶なこと・・・?」
 私は一瞬、何のことかわからなかった。
 でもすぐに、何のことか理解し、
「あ、あのことね。
 うん。もう絶対しない。
 だから安心して。」
「おう!
 それじゃな」
 そう言って去って行ってしまった。
 広瀬君が転校してきたのはつい最近で、あの時は想像できないくらい広瀬君との関係も、自分のことも少しずつ変わったなと思った。
 心の中でもう一度「ありがとう」と広瀬君の方を見てお礼を言った。
 だけど・・・
「あれっ・・・?」
 広瀬君は友達の方に行ったのだと思っていた。
 だけど、彼は自分の席に座って頭を抱え込んでいた。
『どうしたんだろう・・・?』
 急に心配になってきた。
『私のせい、かな?
 それとも頭が痛い・・・とか?』
 と、いろいろ考えたけど、”これだ!”という考えは思いつかなかった。
『いっそのこと話しかけてみようかな・・・』
 そう思ったものの、
『やっぱりやめとくか』
 と思い、やめた。
 だって、近づかないでほしいオーラというか、何というか・・・・・・。
 とにかくあまり話しかけないでおいた方がいい気がした。
 だけど私は広瀬君のことが何となく心配で、自分の席から様子を見ていた。
 すると・・・
「空!大丈夫か?
 体調悪い?頭痛いの?」
 とクラスの人が話しかけてきていた。
 席は近くないけど、その子の声が大きくて聞こえたのだ。
 そのまま聞き耳を立てて聞いていると、
「ううん。全然。
 痛くも何ともないよ!
 むしろめっちゃ元気!」
 そう広瀬君は言っていた。
 おまけに手を丸め、腕を上下に動かして
「元気!元気!」
 と元気なことを証明するかのようにしていた。
 だけど私は、ほんとかな・・・と心配が残っていた。
 そして友達がいなくなると広瀬君はさっきのように頭を抱え込んでしまった。
『やっぱり、絶対元気じゃないじゃん。』
 私はそう思った。
 だけど、ここではなしかけられる自信がない。
 でも、心配・・・。
 そうして困っていると授業開始のチャイムが鳴ってしまった。
『あーあ、私本当に馬鹿だ。
 ろくにまだ決断できないなんて・・・。』
 そうやって自分のことを攻めた。
 だけど、攻めたところで何も変わらない。
『よし。昼休み頑張って話してみよう。』
 私は覚悟を決めた。

「キーンコーンカーンコーン・・・」
 昼休み開始のチャイムが鳴った。
 私は広瀬君と話すために教室で待ってたが一向に来なかった。
「外に遊びに行っちゃったのかな・・・」
 そう思って窓から校庭を見てみた。
 でも、
「いないか・・・。」
 多分、いなかった。
 校庭には人がたくさんいてあまりよくはわからなかったから、絶対にいないとは言えなかったのだ。
 そして、仕方なく教室で本を読むことにした。

 しばらく本を読んでいると、
「七香さん、誰か呼んでるよ?」
 という声がした。
 一瞬、『気のせいだろう。』と思ったが、やっぱり近くから
「七香さーん。」
 と誰かに呼ばれていた。
 その声のする方を向くと、
「ども・・・。」
 といって、私のことを呼んでいた子は下を向いて気まずそうにしていた。
 そりゃそうだよね、一匹オオカミだもん。
 私は自分でそう言い聞かせた。
 でもしばらくの間、その読び名を聞いていなかったからだろうか、違和感があった。
『一匹オオカミ、か。』
 少しそう思ったが、誰かに呼ばれていることを考え、その人を待たせないよう廊下に向かった。
 すると・・・
「優笑ー元気?」
 と目の前の人に言われた。
 顔を見てみると・・・
「え、、緑・・・ちゃん。」
 そう。
 緑ちゃんがいたのだ。
 そして私は、今、一つの嫌な予感がした。
 私はその予感が的中していないことを願いつつ、
「私、人に呼ばれたから・・・」
 と言った。
 すると、
「ばっかじゃないの!?
 ・・・というかもとからバカだったね。
 呼んだのは私たちよ?」
 と言われた。
 それを言われたのと同時に、
「そうだぞ!」
「呼んだのは俺たちだよ?」
 とグループの緑ちゃん以外の人が一斉に周りに来た。
 やっぱり、か。
 私の嫌な予感が当たってしまった。
 今は広瀬君も、先生もいない。
 相当まずい状況だった。
 嫌な、変な汗が頬や背中をつたっているのがわかった。
 冷や汗だ。
 手がだんだん震えていく・・・。
「やっぱりこの人たちは危険だ!」
 と体の警報が鳴っているようだった。
 そんな私を見て、
「ほんとお前は怖がりだな。」
 といって、あざ笑い私に近づき、
「お前はこっちだよ?」
 と、私の手首をつかみ歩き出した。
 とっさに、私は
「やっ、やめて!」
 と小さい声だったけど、そういった。
 そしてつかまれている手を振り払おうとした。
 でも、その私をつかんでいる手は力が増してしまっただけで、私が振り払おうとしてもびくともしなかった。
「離すとでも思ったのか?
 つくづくお前は馬鹿だな。」
 そういわれ、
「なっ・・・!」
 と言ってしまった。
 本当にひどい人だ。
 私の体の中で鳴り響いている警報音がもっとました気がした。
 そうしてなすすべなく、ずるずるとひきずられ、学校か分からなくなるほど真っ暗で誰もいない場所に連れていかれてしまった。
「なに、ここ・・・。」
 私がそういうと、
「ははっ、どこだと思う?
 ま、お前に分かるはずがないか。
 ここはな、お前と話をするためにわざわざ、探してあげた場所なんだよ?
 感謝しないとだな。
 ハハハハハ」
 と言われた。
 ・・・・・・・前までは、というか小学校の時まではただ陰口を言われただけだったのに今はもうあの時とは全くの別人。
 いや。もっと悪者らしさがでていた。
 そして、迫力が先生ほどではないものの普通の人よりかは強い迫力が感じられた。
 手首が離された。
『いまだっ!』
 私はそう思い今来た道を全力で走って逃げた。
 だけど、私はすぐにつかまってしまった。
「逃げようとするなんて、バカとかの以前の問題だな。」
 連れ戻されると、そういわれた。
 もう下を向くしかなかった。
 おとなしく話を聞くことにし、黙ってまってる。
 すると、
「優笑・・・」
 と話が始まった。
「優笑、お前よくも先生にいじめられたことがあるなんてことを言ってくれたな!
 そのせいで、ほんと俺たちが怒られたんじゃないか!
 どうしていったんだよ。あ?
 こたえろ。」
 聞いたことがないくらいの低い声がしてさらに怖くなった。
 相当怒ってるな・・・。
 私はすぐにそう感じ取った。
 多分ここまで怒らせると何を私がいってもどうなるか予想がついた。
 だったら・・・だったら、せっかくなんだから私の本音ぶつけてみよう。
 そうして私は勢い任せで思いっきり言い返した。
「は・・・?
 そっちがおかしいんじゃないの?
 私は何をしたっていうの?
 あなたたちをいじめた・・・?
 私は小学生の頃たまたまお前らが私の悪口言っているところを聞いて、それからは関わらないように過ごしてたのにそんなことするわけないじゃん。」
 私は自分の口の悪さに思わず驚いてしまったけど、私の口は止まらなかった。
「ねぇ?
 聞いてる?
 バカなのはそっちだよ!
 作り話を先生や生徒に広め、みんなして私をいじめて何が楽しいの?
 何の意味があるの?
 というか、そもそも私なんかした?
 なんか、お前らは私の性格が気に食わなかったようだけど、そんなん私の個性じゃん。
 私は悪気があってやってるわけじゃないし!」
「優笑、てめぇ・・・!」
 今にもとびかかってきそうだったけど私は気にせず続ける。
「今私が話したこと、わかった?
 バカだからわからないかもだけど、つまりはね、
 ”私の個性について勝手にそっちがムカついて、悪口とか作り話を流して私を遠くからいじめる”
 みたいなことをしているそっちがバカなんだよ?
 わかった?」
「はぁ・・・!?
 んなの、知るかぁ!」
「そうだぞ!
 そっちの勝手な理屈なんて知らねぇよ!」
「ほんとに、そんなおかしいことが言えるほど優笑っておかしいんだね。」
 といって、まるで何にもわかっていなかった。
 そうしていろいろ言われ、無視しているとたたかれて、「ぼろぼろじゃん」と笑われた。

「キーンコーンカーンコーン・・・」
 と昼休みのチャイムが鳴った。
 私はもう本当にボロボロだった。
 そんな私を見て、
「うん。それじゃ保健室行って。
 スッキリしたよ。
 もうこんなことされたくなかったら素直に先生の言っていることを認めて、”私がやりました”って言うんだよ?
 わかった?」
「保健室行って、”どうしたの”って聞かれたら、なんか校庭にいたら鳥のヒナみたいなのを見つけて、とりあえずって思って端にもっていったらなんかカラスにつつかれて、逃げてたら転んで・・・」
 っていうんだよ?
 あとは知らないからー。
 自分で早退したりとかなんかよくわからないけど勝手にやって。」
「頑張れー。
 緑も言ってたように、”また、私たちのグループにいじめられました”みたいに言ったらほんと、今度はもっとひどいから。
 わかったね?」
 とグループの人たちで言ってきた。
 すると私が何かを言うのを待つわけでもなくスタスタと言ってしまった。
『私も早く保健室に・・・』
 そう思って立った。
 すると、激痛が走った。
「いたっ・・・!」
 さっきたたかれた所だろうか。
 髪の毛もいつの間にかぐちゃぐちゃだ。
 どうにか歩いて保健室に着いた。
「失礼します・・・」
 そう私が言うと顔を上げた先生が
「あなた、大丈夫!?
 とりあえずここに来なさい!」
 そういって座らせてくれた。
 痣のできてしまっているところに湿布を張って冷やしてもらった。
 その冷たさが”スゥー”っと効いてしばらくすると痛みが引いてきた。
 先生は最初に
「何があったの?」
 と聞いてくれたけど、私は噓をつきたくなかったし、でもだからと言って本当のことを言うことはできなかったので、
「いえ、少しいろいろあって・・・」
 というと「そっか。」といってそれ以上は聞こうとしてこなかった。
 私はあまり聞いてほしくなかったから心の中で、”問い詰めないでいてくれてありがとうございます。”とお礼をつたえた。
 そして、そういえば・・・。と広瀬君のことを思い出した。
『広瀬君に”大丈夫?”って言おうとしてたのに私がまた心配かけちゃうな。』
 そう思うと罪悪感が募った。
 私は人を心配させることしかできていない。
 本当に悔しかった。
 すると・・・
「優笑、大丈夫か!?」
 と言って、私が今罪悪感をいだいていた広瀬君が現れた。
 広瀬君は
「失礼します。」
 といって、入室してきてくれた。
「広瀬君・・・。なんで・・・?」
 いや、教室に入る直前で緑ちゃんたちが近くを通って、
『優笑ボロボロで保健室に行くとが面白すぎるよね』
 って言ってるのを聞いて、すぐに保健室に行こうと思ったんだけど、たまたま先生がもう教室にいて、体の向きを変えた俺に対して、
『広瀬ー、どこ行くんだ?』
 って言われちゃってさ、なかなかこれなかったんだ。
 ほんと、ごめん。」
「いや、広瀬君が謝ることじゃないよ・・・!
 私の方こそ心配かけてばっかりでごめん。
 せっかく昨日いろいろ考えたばっかりなのに・・・。」
「そんな、大丈夫だよ。
 優笑、それよりさ何があったの・・・?」
「あ、えっと・・・」
 私が話始めようとした時、近くで「ドンッ」と音がした。
 視野が一気に広くなって、音のした方を向くと先生が気まずそうにしてこっちを見ていた。
「「あ・・・」」
 広瀬君と私の声が重なった。
 そして私はあわてて、
「先生すみませんこんなところで話し始めてしまって・・・。
 湿布ありがとうございました。
 もう大丈夫そうなので、失礼します。」
「いえいえ。でも、無理はしちゃだめだからね?
 また痛くなったら来なさいね。」
「分かりました。
 ありがとうございます。」
 そうして私たちは保健室を出た。
 広瀬君が先を歩いてくれたのでそれについていく。
 私のことを気遣ってくれたのか、歩くスピードがゆっくりに感じた。
 そして、教室から離れた図書室に来た。
 今は先生がいないらしく、ガランとしていた。
「優笑、大丈夫?
 勝手につれてきてごめん。
 でも、今日は図書の先生休みだから、大丈夫だよ。」
 そういって説明してくれる。
「ありがとう・・・!」
 そうして近くの席に座った。
 しばらく沈黙が流れていたが、広瀬君が
「何があったか話せる・・・?」
 と言った。
 私は「うん。」といい、話始めた―――――。