今日は12月1日、丁度1年前に私がこのアパートに来た日だ。あの日のことは今も忘れていない。今日はあの日とは違って晴れていて気温も低くないので、駅へ行っておじさんを改札口で待ってみようと思った。
8時過ぎに、おじさんが改札口から出てきた。手にはどこかで買ってきたお弁当のレジ袋を提げている。
「おかえり」
「どうした? 迎えに来てくれたのか?」
「うん。今日がどんなの日か覚えている?」
「未希が家へ来た日だ。丁度1年前だった」
「ここに私が立っていました」
「そうだったな、寒そうにしていた」
「連れ帰ってもらってほっとした」
「連れ帰ったのが、未希には良かったのか、悪かったのか、俺には分からない。俺じゃあなくて、もっといい人だったら良かったとは思わないか?」
「分からない。もっと悪い人だったかもしれなかったから」
「おじさんは私を騙したりしなかった。約束は守ってくれたから、まあ、よかったと思う」
「まあか?」
「良いほうだったと思います。学校にも行かせてもらっているし、今、私は安心して暮らしていられるから」
「それなら、言うことはない。結果オーライだ。帰るか?」
おじさんはアパートへの帰り道、何も話さない、考え事をしているみたいだった。私は去年からのことを思い返している。
この道を歩いておじさんのアパートへ行った。それから、おじさんのいうとおりになるという約束で同居させてもらって、アルバイトをして、学校へ行かせてもらって、勉強もみてくれた。
父が亡くなって、おじさんは私を抱けなくなった。それからは父親代わりのようになって優しくしてくれている。口では身体で返せとか言っているけど、本心ではないことは分かっている。
アパートに戻ると買ってきた弁当を食べながら、おじさんとこれからの話をした。
「未希、来年の4月からどうするつもりだ? 専門学校を勧めたが、行きたい学校は見つかったか?」
「いろいろ考えてみたけど、私にぴったりの資格が分からなくて迷っています」
「例えば?」
「美容師さん、私にはセンスがないような気がして、それにお客さんとうまく話をする自信がありません」
「俺も元々人と話をするのが苦手だったが、やっているうちにできるようになった。そのうちに慣れると思うけど」
「やっぱり自信がありません」
「理学療法士なんかいいじゃない?」
「調べてみましたが、授業料が結構高いです」
「介護士はどうかな?」
「私はお年寄りが苦手、今迄周りにいなかったし、それに細やかな気遣いができません」
「慣れだと思うけど、それじゃあ、栄養士か調理師は?」
「食べ物が相手だから、無難かな? それに自分の食生活にも役に立つと思う」
「人を相手にするよりやっぱり食い気か?」
「食べることは人間が生きていくうえで最も大切なことです」
「それなら、食い気で選んだらどうだ」
「栄養士と調理師ならやっぱり調理師かな、栄養よりも美味しいが優先しますから」
「調理師にするか?」
「私、料理が得意でないけど、勉強してみたいと思います。おじさんに美味しいものを食べさせて上げたい。いつもお弁当ばかりでは身体にも良くないと思います」
「俺のために、将来の仕事を決める必要はない。未希がやりたいこと、手に付けたい資格にすべきだと思う」
「でもやっぱり調理師にしようと思います」
「そうだな。花嫁修業にもなるからいいかもしれない。年内には決めておいた方がいい。調べて、いきたい学校を見つけるといい。授業料は前にも言ったとおり俺が半分出してやるから」
「分かった。探してみる」
その晩、私はおじさんの腕の中に入った時に身体を撫でてほしいと言ってみた。おじさんは言われたとおりに撫でてくれる。優しい撫で方だ。私はおじさんの手を敏感なところへ導いた。
おじさんは私の意図が分かったとみえて、優しく撫でて可愛がってくれた。私は何度も何度もおじさんの腕の中で昇りつめた。おじさんが力いっぱい私を抱き締めてくれる。幸せな気持ちになる。私が「ありがとう」と言ったら、おじさんはとても嬉しそうにしていた。でもおじさんの身体は反応しなかった。
◆ ◆ ◆
私は調理師専門学校について調べた。何か所か候補が見つかったので、時間を見つけて学校へ行って説明を聞いたり、パンフレットを貰って来たりした。そして蒲田にある学校に行くことにした。
12月半ばになって、それをおじさんに話した。おじさんは通学にも便利だし、授業料も高くないといって賛成してくれた。
それで石田先生と相談して、ここに進学することに決めた。希望すればほとんど入学できるみたいでよかった。まずはひと安心だ。これでこれから1年間の見通しがついた。私は安心したし、おじさんも嬉しそうだった。まあ、来年も1年間、おじさんと一緒に暮らせるので心強い。
8時過ぎに、おじさんが改札口から出てきた。手にはどこかで買ってきたお弁当のレジ袋を提げている。
「おかえり」
「どうした? 迎えに来てくれたのか?」
「うん。今日がどんなの日か覚えている?」
「未希が家へ来た日だ。丁度1年前だった」
「ここに私が立っていました」
「そうだったな、寒そうにしていた」
「連れ帰ってもらってほっとした」
「連れ帰ったのが、未希には良かったのか、悪かったのか、俺には分からない。俺じゃあなくて、もっといい人だったら良かったとは思わないか?」
「分からない。もっと悪い人だったかもしれなかったから」
「おじさんは私を騙したりしなかった。約束は守ってくれたから、まあ、よかったと思う」
「まあか?」
「良いほうだったと思います。学校にも行かせてもらっているし、今、私は安心して暮らしていられるから」
「それなら、言うことはない。結果オーライだ。帰るか?」
おじさんはアパートへの帰り道、何も話さない、考え事をしているみたいだった。私は去年からのことを思い返している。
この道を歩いておじさんのアパートへ行った。それから、おじさんのいうとおりになるという約束で同居させてもらって、アルバイトをして、学校へ行かせてもらって、勉強もみてくれた。
父が亡くなって、おじさんは私を抱けなくなった。それからは父親代わりのようになって優しくしてくれている。口では身体で返せとか言っているけど、本心ではないことは分かっている。
アパートに戻ると買ってきた弁当を食べながら、おじさんとこれからの話をした。
「未希、来年の4月からどうするつもりだ? 専門学校を勧めたが、行きたい学校は見つかったか?」
「いろいろ考えてみたけど、私にぴったりの資格が分からなくて迷っています」
「例えば?」
「美容師さん、私にはセンスがないような気がして、それにお客さんとうまく話をする自信がありません」
「俺も元々人と話をするのが苦手だったが、やっているうちにできるようになった。そのうちに慣れると思うけど」
「やっぱり自信がありません」
「理学療法士なんかいいじゃない?」
「調べてみましたが、授業料が結構高いです」
「介護士はどうかな?」
「私はお年寄りが苦手、今迄周りにいなかったし、それに細やかな気遣いができません」
「慣れだと思うけど、それじゃあ、栄養士か調理師は?」
「食べ物が相手だから、無難かな? それに自分の食生活にも役に立つと思う」
「人を相手にするよりやっぱり食い気か?」
「食べることは人間が生きていくうえで最も大切なことです」
「それなら、食い気で選んだらどうだ」
「栄養士と調理師ならやっぱり調理師かな、栄養よりも美味しいが優先しますから」
「調理師にするか?」
「私、料理が得意でないけど、勉強してみたいと思います。おじさんに美味しいものを食べさせて上げたい。いつもお弁当ばかりでは身体にも良くないと思います」
「俺のために、将来の仕事を決める必要はない。未希がやりたいこと、手に付けたい資格にすべきだと思う」
「でもやっぱり調理師にしようと思います」
「そうだな。花嫁修業にもなるからいいかもしれない。年内には決めておいた方がいい。調べて、いきたい学校を見つけるといい。授業料は前にも言ったとおり俺が半分出してやるから」
「分かった。探してみる」
その晩、私はおじさんの腕の中に入った時に身体を撫でてほしいと言ってみた。おじさんは言われたとおりに撫でてくれる。優しい撫で方だ。私はおじさんの手を敏感なところへ導いた。
おじさんは私の意図が分かったとみえて、優しく撫でて可愛がってくれた。私は何度も何度もおじさんの腕の中で昇りつめた。おじさんが力いっぱい私を抱き締めてくれる。幸せな気持ちになる。私が「ありがとう」と言ったら、おじさんはとても嬉しそうにしていた。でもおじさんの身体は反応しなかった。
◆ ◆ ◆
私は調理師専門学校について調べた。何か所か候補が見つかったので、時間を見つけて学校へ行って説明を聞いたり、パンフレットを貰って来たりした。そして蒲田にある学校に行くことにした。
12月半ばになって、それをおじさんに話した。おじさんは通学にも便利だし、授業料も高くないといって賛成してくれた。
それで石田先生と相談して、ここに進学することに決めた。希望すればほとんど入学できるみたいでよかった。まずはひと安心だ。これでこれから1年間の見通しがついた。私は安心したし、おじさんも嬉しそうだった。まあ、来年も1年間、おじさんと一緒に暮らせるので心強い。