自分がニュースになっていることを知ったのは、祖父母の家を訪れた二日後の夜のことだった。



「続いてのニュースです。B市に住む男子高校生、仁科翼くんの行方がわからなくなっていると、翼くんの母親から警察に通報がありました」


金曜ロードショーが終わったあとの、次の番組までのつなぎの時間で流れるニュース。祖父母はすでに眠っていて、居間には俺しかいなかった。


「警察は事件の可能性も視野に入れ、捜査を進めています」


自分の母親と同世代とみられる女性アナウンサーが無機質な声で原稿を読み上げている。

リュックとギターケースを背負って家を出て、電車を乗り継ぎ、二時間かけて祖母の家に来た。
大した理由じゃない。ただちょっと、生きることに疲れてしまったから羽根を伸ばしにきただけだ。


スマホの電源を切ったままにしていたので、ネットニュースやSNSは見ていなかった。バイト先や家族から電話がかかって来ることを予想していたので、あらかじめ遮断することにした。祖父母の家にいる間は、現実に引き戻すような出来事にはなるべく触れていたくなかった。


祖母と祖父は、快く俺を受け入れてくれた。
家出紛いのことをしていることも、学校のことも、何も聞いてこない代わりに、あたたかいご飯と布団を用意してくれた。


母からかかってきたと思われる電話に祖母は「……ええ? 翼が? ……こっちには来ていないねえ」と言っていた。俺から何かを言ったわけじゃない。むしろ、すでに両親に俺がここに来たことを伝えている可能性も考えていて、迎えに来られたらそれはそれだと思っていたのだ。
ありがとうと言うと、みかん食うか? と言われ、笑いながら泣きそうになってしまった。



電話のひとつでも出ておけば、母が警察に届け出ることはなかったのだろうか。
友人のひとりにでも一言くらい弱音を吐いておけば、また違っただろうか?


なんて考えたところで、今更ニュースが無かったことになるわけじゃない。


生まれ育った人口二万人の小さな街は、時々呼吸が浅くなる。
おいしい酸素をたくさん吸って、頭をすっきりさせたい。


俺はただ、少し楽になりたかっただけなのだ。



「……ホントに死ねたら楽なのに」


俺はどうすればよかったのか。こんなふうに逃げ出したくなる前に誰かに上手に頼れたら、とか、弱音が吐ける友人がひとりでもいれば違っただろうか、とか。


どうせ、生きている限り楽になれない。
例えば今抱えている悩みや苦痛が解決したって、日々を重ねていくたびに新しい悩みがやってくる。

全部考えるだけで面倒になって、思わず本音が溢れた。

ホントに死ねたら楽なのに、死ねないから、生きてるだけでただ漠然と辛いのだ。