彼女──庄司絢莉と顔を合わせるのは中学校の卒業式以来、実に三年ぶりのことだった。

見た目や雰囲気に多少の変化はあるものの、記憶にいる彼女と一致する。それが、今の俺にとってはとても温かく優しいものに感じられたのだった。


無人駅で再会した俺たちは、一人分の距離を空けて歩いていた。

目的地はすでに決まっているけれど、それを改まって言葉に起こすのはどこか恥ずかしくて、俺は何言わずに駅を出た。彼女は、何も言わずに俺の横をついてきた。


「元気してた?」
「うーん、それなりに」
「はは。俺もそんな感じ」


中身のない会話だったが、嫌いじゃなかった。庄司さんのほうから何か問いただしてくるようなことはなく、俺が他愛のない話題を振って、それにこたえる時間が数分続いた。


「庄司さん、本当に来てくれると思わなかった」
「……ラインしてきたの仁科くんじゃん」
「だよね。言われると思った」


我ながら贅沢すぎる言葉だ。「絶対会いに来てほしかった」くらい言えたらよかったのに、それはそれで我儘すぎる気もして、正しい言葉は見つかりそうになかった。

笑ってごまかすと、庄司さんが「でも」と開口する。



「私も、仁科くんとまた会うことになるなんて思わなかった」



俺と彼女は、友達でも恋人でもない、ただの中学時代の同級生だ。まともに会話を交わしたのは一回だけで、そのたった一回は、俺の偉そうなお説教だった。


「覚えてるかわかんないけど……私、仁科くんに言われたこと今でも覚えてるよ」
「ああ、うん。ゴミみたいなこと言った記憶ある」
「ゴミって。そこまでは思ってないよ。でも、つまんなそうな顔してるって言われたのは今も引きずってるから」
「庄司さんって意外と執念深いんだ」
「最悪。やっぱ中学の時から思ってたけど仁科くんって結構性格悪いよね」
「ごめん、自覚ある」



忘れてなどいない。あれは、一種の八つ当たりのようなものだった。

自分と似たような生き方をしている彼女を見ていると無性にイライラしてしまう、そんな時期だった。



俺達は決して仲良くなかった。それどころか、嫌われていても忘れられてもおかしくない過去の記憶があった。

それでも彼女は、昨晩俺が突然送ったラインにたった一言「いいよ」と返事をして、俺に会いに来てくれた。


「仁科くん」
「うん」
「海、私たちの街にもあったらよかったのにね」



彼女と海に行きたかった。俺の中で、それが一種の区切りのようなものに思えていた。



「生きててよかった」
「……ごめん」



別に最初から死のうと思ってなかった、なんて強がることすらできず、俺はただ、何に対してかもわからない謝罪を返すのがやっとだった。