「ユモトちゃんは年齢の割には才能も実力も充分あるほうよ、でもまだこの杖は早いかなぁ」

「いえ、ありがとうございます」

 人から褒められる事に慣れてないユモトは少し恥ずかしそうに下を向いた。そして前を向いてすぅっと息を吸う。

「いつか…… その杖を使いこなせるぐらいに、強く…… 強くなりたいと思います!」

 言ってからハッとし、また恥ずかしさがこみ上げてきた。

「いいよユモトちゃん、その調子だよ!」

 ルーはまたグッと親指を上げた、そんな様子を見てモモはフフッと笑う。

 アシノは忘れていた眠気を感じ、あくびを1つして言った。

「とりあえず今日は夜も遅いしもう休むか、部屋割りはどうする?」

 この家には小さいが部屋が複数あるので1人ずつ個室で寝ることができる。

「私はどこでも大丈夫です」

 モモがそう言うとユモトも「僕も特には」と続いて言った。

「私はこの地下室で寝るわ」

「地下で寝るなんてアンデットみたいな奴だな」

 うーんとルーが背伸びをしながら言うとアシノは呆れて思わずそんな事を口にする。

「そうよー、太陽は天敵。地下室バンザーイ。ってなわけでみんなは上の部屋へどうぞー」

「わがりまじた、それじゃあルーさんおやずみなさい!」

 ムツヤの後に続いてみんながルーにおやすみの挨拶をして地下から出ていった。

「さてっと、空き部屋は充分あるから適当に好きな所で寝るか」

 アシノが眠そうに言うとムツヤも「そうでずね」と相づちを打つ。

「私はご主人様から魔力を頂かないといけないので、ご主人様と同じ部屋が良いです」

 モモは少し不服そうだったが、正当な理由の為に何も口出しは出来ない。だが1つ気になることを聞いてみた。

「その、魔力の補給はどうやってしているんだ?」

「手を繋ぎながらご主人様と一緒に横になります」

「なっ」

 それを聞いてモモはワナワナと震えだした。そこに追い打ちをかけるようにヨーリィは言う。

「寝ている間に手が離れてしまった場合、後ろから抱きつかせてもらって魔力を補給させて頂いてます」

「わ、わざわざ後ろから抱きつく必要は無いんじゃないのか? な、なぁユモト」

「えっ、あー、うー」

 ユモトは思い出してしまった。森の中でいつの間にかムツヤの背中に抱きついて寝ていたことを。

「あーもー、私はそこの部屋にするから痴話喧嘩は後でやっててくれ」

 頭をかきながら面倒くさそうにアシノが言った。

「アシノ殿! 違いますこれはそういった事では!」

「はいはい、おやすみー」

 アシノは一番近くの部屋に入りドアを閉めた。うーっと照れながら下を向いてモモは唸る。

「それじゃ僕はこっちの部屋にしようかなーなんて、皆さんおやすみなさい!」

 ユモトも過去の痴態を思い出し、そそくさとその場を離れるようにアシノの向かい部屋に入っていった。

「それじゃあ俺もそろそろ休むのでモモさんおやすみなさい」

「あっ、はい、おやすみなさいませムツヤ殿……」

 モモは1人廊下に取り残されてしまった。

 ムツヤはヨーリィと共に部屋へと入る。ベッドが1つと棚があるだけの質素な部屋だ。

 窓から照らされる月明かりで元から色白のヨーリィが更に青白くぼうっと浮かんで見えた。

「それじゃ疲れたし寝ようかヨーリィ」

「はい、お兄ちゃん」

 ヨーリィは2人で寝るには少し狭いベッドにちょこんと座った。そしてムツヤを見つめる。

 ムツヤがベッドに潜るとヨーリィは一緒に入り、手を握った。ムツヤの手には少し低めのヨーリィの体温が伝わってくる。

 そうして数分経つとヨーリィがポツリと話し始めた。

「私は、サズァン様が仰っていた通りに、お兄ちゃんから魔力を貰い続ければ感情を取り戻すことが出来るのでしょうか」

 ムツヤは仰向けのまま、首を左に動かしてヨーリィの顔を見た。紫色の目は僅かな明かりを反射してキラキラと輝いている。

「きっと大丈夫だよ、ヨーリィ」

 その瞬間、寝る前に外しておいたムツヤのペンダントから紫色の光が飛び出し、慌ててムツヤは上半身を起こした。

「はーい、ムツヤにヨーリィ元気にしてた?」

「サズァン様!?」

 現れたのはサズァンの幻影と。

「マヨイギ様……?」

「あっ、ヨーリィ! 元気にしてる?」

 木と同化している迷い木の怪物だった。

「ムツヤーヨーリィ、私の言ったこと疑ってるの?」

 サズァンはみじんも怒ってはいなかったが、わざとらしく両腕を腰に当ててむくれていた。

「そんな、疑ってなんていませんよ!」

 ムツヤは慌てて邪神に弁解する。その様子が可愛いものに思えてサズァンは目を細めてクスクスと笑った。

「っていうかあんた、何でヨーリィと同じベッドで寝てるのよ! 大丈夫ヨーリィ? 変なことされてない?」

 マヨイギが心配そうに言うとヨーリィはふるふると首を横にふった。

「マヨイギ様、これはお兄ちゃんから魔力を貰っているだけです」

 そうは言われてもマヨイギは心配でならない。

「マヨイギ様もご無事なようで何よりです」

 彼女達は互いに心配をしあっていたようだ。そんな感動の再開の最中、ムツヤの部屋のドアを誰かがノックした。

「おい、何かあったのか?」

 そして扉が開く、そこに居たのはアシノだ。

「あら、お久しぶり勇者さん」

 サズァンはにっこりと笑い手をヒラヒラと振った。ということは隣にいるのは例の迷い木の怪物だろうとアシノは自分でも驚くほど冷静に、早く理解ができた。

「つい昨日会ったばかりだろう? 裏ダンジョンの邪神サズァン」

「そうよ、裏ダンジョンの主『邪神サズァン』よ!」

 両手を腰に当ててえっへんと胸を張る。黒いドレスの様な服は胸元が開いており、その豊満な胸が強調された。

「何の用なんだ?」

 アシノは少しばかり警戒をしながら言う。ムツヤに協力的だとはいえ、邪神は邪神だ。

「何よー、用が無かったらムツヤと話しちゃダメなわけ?」

 サズァンはプクーっと頬を膨らませて怒っていた、その言動はとても邪神だとは思えないものだった。

「まぁ、一応用事もあるんだけどね」

 おどけた雰囲気を消し去り、サズァンは話し始める。そこには確かに邪神の風格があった。

「ムツヤー? 鞄の中に周りの道具の場所を映し出すガラスがあったでしょ?  あれを使えば索敵もだいぶ楽になると思うわ」

「これですか?」

 ムツヤは一枚のガラスの板を取り出した。「そうそう」とサズァンはうなずく。

 アシノは後ろからそのガラス板を覗き込んだ。そこには周辺の精巧な地図が浮かび上がり、自分達が居る場所は赤い点がいくつも光っていた。

「この赤い点が裏の道具ってところか?」

「ご明察ぅー」

 サズァンはアシノに向かってパチパチと拍手をする。

「ムツヤは使い方を知ってると思うけど、地図は遠くまで見渡すこともできるから、あとは頑張ってつかってね! あらやだ、魔力切れちゃうわ! またねー」

「はい、サズァン様!」

「ヨーリィ……」

 マヨイギはヨーリィに何て別れの言葉を言えばいいか悩んでいた。すると、ヨーリィの方が先に口を開く。

「マヨイギ様、どうかお元気で。またお会いしましょう」

「え、えぇ、そうよね。またねヨーリィ」

 少しの間しか離れていなかったにも関わらず、しっかりとしたヨーリィにマヨイギは嬉しさを感じたが、同時に少しだけ寂しさも覚えた。

 すぅーっと光と共に消えていく二人、部屋に残されたムツヤ達は、とりあえず今日は休むことにし、アシノは部屋へと帰っていった。

 この時は誰も、キエーウ以外に敵対するものが現れるなど知らずにいたのだ。