急いで階段を駆け下りた。

 途中またモンスターと出くわしたが剣を取り出すのも面倒だったので全てぶん殴って片付ける。

「じいちゃん、てっぺんまで登ってぎだからあの結界って奴を壊しでぐれ!」

 ムツヤは家に帰るなり祖父のタカクへと言った。

 タカクはお茶を飲みながら目線だけをムツヤに移して、とうとうこの時が来てしまったかと湯呑を置く。

「そうか、それならば仕方がねー、明日の朝に結界を解いでやっがら」

「いんやダメだじいちゃん、俺は外の世界で成長しでハーレム作んだ! もう今すぐに行く!! 今すぐじゃなぎゃダメだ!」

 ムツヤは鼻息を荒げてそう言うと、やれやれとタカクは重い腰を上げた。

 家から結界の間際まで歩く二人の間に言葉は無い。

 途中また巨大なコウモリが何度も襲撃してきたが、ムツヤが飛び上がって平手打ちで全て叩き落とした。

「ムツヤ、いづがはこの日が来るど俺も思ちょった」

 タカクは家から出て初めて話し出した。その表情は当然だがどこか寂しげだ。

「外の世界を見てこい、ムツヤ」

「じいちゃん……」

 タカクがそう言って結界に手を伸ばすと青白い光に切れ目が現れ、左右に開いた。

 あれほど行きたかった外の世界なのにムツヤは少し足取り重くその裂け目へと歩く。

「じいちゃん、カバンの予備に薬死ぬほど入れでおいだがら死にそんなっだら飲めよ! あどー広げたら竜巻が起こる巻物も入れとったから魔法使うのしんどい時は使えよ、それから」

「俺の心配はすんでねーよ、ムツヤ」

 シワだらけの顔を更にクシャクシャにし、ニッと歯を見せてタカクは笑った。

 ムツヤは黙って頷いて一気に結界の裂け目に走り出す。

 中は一面が真っ白で、急に高い所から落ちたような浮遊感がし、たまらず叫び声を上げる。そのまま気を失い、気付いたら。

「おい人間、こんな時間に何故ここにいる」

 ムツヤは夜の闇に包まれて月明かりに照らされていた。

 気を失っていたはずだがその足はしっかりと大地を踏みしめて立っている。

 そんなムツヤの周りを緑色の肌をした人が囲んでいた。相手は今にも斬り殺さんばかりの殺気を帯びていた。

「あ、え、あーっと、は、はじめましで私はムツヤと言います」

「貴様ふざけているのか」

 あれとムツヤは思う。

 言い方がおかしかったのか、原因は分からないがどうやら相手を怒らせてしまったらしい。

「いいか、質問をしている、何故ここに居る」

 目の前の緑色の人間がそう言った。緑色…… ムツヤは目の前の人間をじっと見る。

 変な形の耳と少し低めの鼻と、下顎から覗く牙。もしかして

「わかった、オーグだろ、オーグ!」

「だからどうした、また貴様はオークを醜いと殺しに来たか?」

 醜い? 確かに緑色だが胸にはサズァンに負けずとも劣らぬ塊が付いているし、顔もモンスターっぽくはない。



(イラスト:太極剣先生)

 それ故に、特に醜いと言った印象を目の前の一人には抱かなかったが、その両隣はどう見ても豚のお化けのようだった。

 と言ってもムツヤはその『豚』も小さな頃に絵本でしか見たことが無かったが。

 オークと言ったらムツヤの印象にあるのは1つだ。

 外の世界の本で何故か知らないがよく女騎士を襲って「っく、殺せ」と言わせ、その後色々と、色々とするモンスター。

 もしくは、その状況に冒険者が割って入り助けると、ハーレムに女騎士も加わる展開になるアレ。

「えーっと、アレでずアレなんですよぉ! 私はえーっと別の場所って言ったらいいのがなー…… 多分別の世界から来たばかりでよぐわがらなくてー」

 多分この世界のモンスターだろうと思ったが下手に手を出して怒らすのは避けたかった。

 強さがわからない上に話すぐらいに知能がある相手。

 しかも、攻撃の手段も武器で殴りつけてくるのか、意外にも魔法なのか、飛び道具を飛ばしてくるのかも分からない。

 そして、相手は三人も居るのだ。ムツヤは言葉を紡いで相手の出方を見ることにした。