流石のムツヤも一気に酔いが覚めてしまった。他の皆はまだムツヤに追いついていない。

 言葉は出せずにいた。裏世界とはあの塔と田舎のことを言っているのだろうと理解は出来たが、何故その事を知っているのかが理解できなかった。

「事情は知らんが、このカバンは悪いようには使わないから頂いてくぞ」

 仮面の男はスピードを更に上げて走る。だがムツヤはそれを超えた速さで先回りをする。

 立ちふさがるムツヤを飛び越えて仮面の男は走り去ろうとするが、ムツヤは飛び上がり蹴りを入れようとした。

 男は身をよじってそれをかわし、綺麗に着地を決める。

 瞬間、森の奥からコルク栓が飛んで男の仮面を撃ち抜いた。

 避けるでもなくそれを受けた男。そこに飛びかかったムツヤの蹴りが行くもまたかわされてしまう。

「懐かしいなアシノ、いや、悲劇の勇者アシノと言ったほうが良いか?」

 男は馬鹿にした口調で言う、すると森の奥から赤髪をなびかせて女が走ってきた。

「懐かしい顔だけど、その名で呼ぶな」

 女は剣を引き抜いて構える。

「やれやれと、流石に厳しいな。ほら、返してやるよ、そうでもしないと地の果てまで追ってきそうだからな」

 男はカバンを適当な方角に高く遠く投げた。ムツヤは男を追うよりもカバンを優先して取りに向かう。

 その間もアシノと男の睨み合いは続く。

「どうした、世界を滅ぼしかねない魔法は使わないのか?」

「黙れウートゴ、それに今どき亜人差別なんて流行らないよ」

 カバンを見付け取り戻したムツヤはアシノの横に並び、魔剣ムゲンジゴクを構える。

「おい、裏の住人。その隣りにいる女はあてにならないぞ?」

「やめろ!! それ以上言ったら斬るぞ」

 女は冷や汗を流した、だが残酷にも男の口は止まらない。

「その『ビンのフタをスッポーンと飛ばす能力』で俺を斬れるのか?」

 そう言って男が馬鹿にすると怒りで顔を赤くしたアシノが飛びかかった。