「分かりました、ユモトさん頼りにしてまずよ」

「あ、いや、そんな、頼りだなんて……」

 真面目な顔は長く持たなかった。ムツヤに頼りにしていると言われたユモトは右手を口元に当てて身を小さくしてしまった。

 そんなやり取りがあり、今は家の中でユモトの料理が完成するのを待っている。火はコンロの下に魔導書が置いてありそこから出る。

 水はカバンの中にいくらでもある。ムツヤは外の冒険の準備として井戸水を直接カバンの中に入れておいたのだ。

「出来ましたー」

 ユモトが台所から嬉しそうな顔をして言った。サラダにパンにシチューとステーキまで付いている。とても森の奥での食事とは思えない。

「美味しそうですね~、いただきます」

 料理には性格が出るのだろうか、繊細な味付けはありあわせで作ったとは思えないぐらい美味しかった。

 ムツヤはガツガツと食べ、モモも料理の腕でユモトに負けている事が悔しいと思いつつ手が止まらない。

 食事が終わると眠気が襲い、ムツヤはうつらうつらとしていた。

「ムツヤ殿、私が外を警戒しておくのでどうぞお休みになって下さい。ユモトも疲れただろう? 寝ると良い」

 モモはそう言って鎧を着ようとする。しかし、それはムツヤの言葉によって止められる。

「あぁ、大丈夫ですよ。この家って頑丈だしモンスターが近付くと物凄く大きな音がなっで起きられますがら」

 それならばと鎧を置いて寝ることにした。モモも1日中森を歩いたせいで疲労が溜まっていたのだ。

「寝る場所は二階です」

 そう言って案内をするムツヤ。2階には部屋が2つある、なんだかモモは嫌な予感がした。

「左が小さい部屋で右が大きな部屋です。どっちもベッドは1つだけですが、右の部屋のほうが大きなベッドがあるんで俺とユモトさんはそっちで寝ましょう」

「ま、待って下さいムツヤ殿!!」

 男同士がベッドを共有する事にモモは待ったをかける。

「そ、そうですよ!! 同じベッドで寝るって! あ、あの、僕は今日1日歩いて汗臭いですし…… 僕は下のソファーで寝ますよ!」

「そうですか? 全然汗臭いとは思わないですけど」

 ムツヤはユモトに近づいてクンクンと匂いをかいだ、顔が火照っていたユモトだが、追撃で匂いをかがれ恥ずかしさで両手で顔を隠す。

「じゃあモモさんまた一緒に寝ますか?」

「待って下さい、またって…… やっぱりお二人はそういう」

「違ああああう!!! いや確かに寝たことはあるがアレは違う!!」

 モモはあの宿屋の事を思い出して叫んでしまった。

「うーん、やっぱり嫌だったら俺がソファーで寝るんで2人は2階で寝て下さい」

「ムツヤ殿! 私は従者です、私が1階で寝れば済む話で」

「あ、あのー」

 モモの話を遮ってユモトはおずおずと手を上げて話し始める。

「ムツヤさんさえ嫌じゃなければ僕は平気ですよ。男同士ですし」

「らしいですよモモさん。よがっだーこれでみんなちゃんと休めますね」

 確かに男同士なら何も起こらないはずだ。起こらないはずなのだがモモは自分に何度言い聞かせても何かが起こりそうな気がしてならなかった。

「わかりましたムツヤ殿……」

「それじゃもう寝ましょうか、眠くてしょうがないんで」

 おやすみなさいと言い3人はそれぞれ部屋のドアを開ける。

 モモの部屋は小さいながらも鏡や机などが置いてある十分に立派な部屋だ。ムツヤとユモトの部屋はモモの部屋をそのまま大きくしたような作りだった。

 部屋の中心にやたらファンシーな天幕付きの大きなベッドがあること以外は……。

「うわぁー、すっごい」

 今まで見たこともない立派なベッドを見てユモトは思わず声を上げた。

 ベッドの端にムツヤはよっこいしょと座って靴を脱ぐ、ユモトもちょこんとベッドに座り靴を脱いだ。

 先程ムツヤは着替えとして塔の中で拾ったローブをみんなに手渡していた。

 ムツヤはさっさと服を脱いでローブに着替えるが、ユモトはもじもじとして着替える様子は無い。

「あ、あの、恥ずかしいので後ろを向いてもらってもいいですか?」

「……? はい」

 ムツヤにはユモトが恥ずかしがる理由がわからなかったが、ベッドの上をもぞもぞと動いてユモトとは反対側で着替えた。しばらくするとお待たせしましたと声が聞こえたので振り返る。

「あの…… それじゃ寝ましょうか」

 白いローブを来て視線を左下に移しているユモトは誰が見ても美少女のようだった。しかし、彼は男である。

「あ、は、はい、おやすみなさい」

 何故かムツヤはドキドキしてしまい、後ろを振り返りそのまま掛け布団をかぶる。

 少しの静寂が続いた後にユモトがぽつりと話し始めた。