勇者達は王都目掛けて全力で急いだ。王が死んだ日から丸二日が経つが、魔人メボシの動向は掴めない。

 その静けさが逆に不気味に感じた。サツキは今日も赤い石で連絡を取り合う。

「今日には王都へ着くはずだ」

 勇者の定例会議でアシノは言った。

「俺達も今日には行けそうだ!」

「私達もですね」

 イタヤとトチノハもそう言ってくれて、王都で待つサツキは心強さを感じる。

 そして、夜になり、軍の駐屯所で不思議な動きがあった。それは魔人の残した武具を持つ特殊部隊にだ。

 彼らは国防のために集められたエリート達で、その存在は公にはされていない。

 部隊は王都の各地に散らばり、魔人の出現に備えていた。

 外壁の上に立っているその部隊の一人が、急にガクリと倒れそうになり、膝をつく。

「おい、どうした?」

 相方が聞くが、その相方も同じ様になった。

 そして、フラフラと立ち上がる。瞳は怪しく紫色に光っていた。

 一人が天に向かって杖を掲げる。数分もすると地上近くに分厚い不気味な雲が現れ、局地的な豪雨を降らせ始めた。

 もう一人がその豪雨を降らす雲に向かって、杖から光線をだす。すると雨は凍り付き、こぶし大の(ひょう)へと変わる。

 その地域はパニックになった。大量に降る(ひょう)によって、窓は破れ、天井は穿(うが)たれ、外に様子を見に来た人間の命を奪う。

 時を同じくして、今度は外壁の上で、一人の女が杖を足元に突き刺した。そこからマグマが溢れ、壁を溶かしながら街の中へと流れていく。

 また、別の箇所では雷が振り建物を壊し、壁すら切り裂く風が吹き、人の形をした影が現れ、住民を襲う。

 場内では連絡を受けた衛兵がサツキの元まで走ってきた。

「サツキ様!! 王都内で異変が起きています!!」

「分かりました、場所は!?」

「それが、王都内の各所で起きております!!」

 衛兵も状況を掴めていないといった感じに言う。

「魔人の仕業か!? カミクガ、先に行って状況確認を」

「わかりましたぁ」

 ゆるい返事とは裏腹に、カミクガは足に雷を纏わせ、一気に走り出す。

「私達も急ぐぞ!」

「オッケー、サツキ!」

 サツキとクサギもその後を追いかけ、城を出る。

「何ですかこれ……」

 外に出たカミクガが見たものは逃げ惑う人々の叫びと、天変地異だった。

 北を見れば分厚い雲があり、南を見れば火の手が上がっている。雷鳴も聞こえ、強風も吹いていた。

 とにかく、状況を見分けないといけないと思い、近い北側へとカミクガは向かう。 

 カミクガの前には地上近くに浮かぶ雲が見えた。そこから降るのは雹だ。

「なにこれ……」

 確実に裏の道具によるものだと察したが、それが分かった所でどう対処すれば良いのかが分からない。

 一足先に行ったカミクガの後をサツキとクサギも追う。

 探知盤を取り出したクサギが見たものは、王都の城壁を丸く囲むように浮かぶ赤い点だ。

「サツキ! 裏の道具で王都が囲まれている! マジやべぇ!!」

 サツキは連絡石を使い、カミクガに状況を聞いた。

「カミクガ、そっちはどうなっている!?」

「北の方角に来ましたけど、どうすれば良いか……」

 困惑しながらカミクガが言う。

「何が起こっているんだ!」

「空のすぐ側に雲が浮かんでいて、そこから雹が降ってきてますよぉ!!」

 それを聞いてサツキが指示を出す。

「城壁の上に裏の道具の反応がある。城壁を調べてみてくれ!」

「わかりましたぁ」

 足に雷を纏わせ、壁を垂直に登るカミクガ。そこで見たものは、怪しげな人影だ。

「何やってるんですかぁ?」

 敵を気絶させる為に、地面を足でダンッと踏みつけて電気を流す。

 次の瞬間、カミクガは驚く。敵も同じ様に地面を踏みつけ、土の壁を作り出した。

 電流はその壁に弾かれ、消え去る。電流が消えたことを確認した敵は、なんと土壁を思い切り殴り付けた。

 固い土の塊や、小石混じりのそれらは散弾のように襲いかかった。

 反応が遅れたカミクガが避けるよりも早く、散弾はカミクガに命中した。体中をズタズタに切り裂かれた彼女は、そのままフラリと城壁の上に倒れる。

 敵が(とど)めを刺そうとやって来た時、風の力で一気に城壁まで登ったサツキが間に割って入った。

「カミクガ遅れたな、済まない」

 ムツヤから渡されていた回復薬をカミクガに振りかけると「パンニャコッタ!!」と叫んで傷が治る。

「サツキちゃんありがと、でも相手は相当やばいですよぉ」

「アイツ達はおそらく、国の特殊部隊だ。大方(おおかた)魔人に操られているんだろう」

 サツキは魔剣『カミカゼ』と短剣を持ち言った。カミクガも魔剣『カタトンボ』を構える。

「ッ!! カミクガ上だ!!」

 サツキに言われ空を見上げた。上空から二人目掛けてピンポイントに大量の雹が降る。

 狭い城壁でそれらを躱すのは難しい。サツキはふわりと飛び降り、カミクガは壁をまた走る。

 だが、それは罠だった様だ。壁から真横に土壁が現れ、そこに敵が飛び降りる。

 避けきれない量の散弾が飛ぶ。更に雹も襲いかかる。咄嗟(とっさ)にサツキは竜巻を起こすが、腹に重い一撃を一発、その他の弾も体中に貰ってしまった。

 カミクガは散弾の雨を全身に浴び、ドサリと地上に叩きつけられる。気を失ってしまい、自分で回復薬を飲むことも出来なかった。