「トドメだ!!」

 ミシロは空から一気に防御壁へと突っ込んだ。バリィンと割れてムツヤと対峙する。

 切り裂こうとした、その瞬間だった。ムツヤの右足から繰り出される蹴りを食らってしまう。

 吹き飛ばされるミシロ。空中で姿勢を取り直してムツヤを見つめる。

 奴からは青いオーラが吹き出ているのが見えた。そう、ムツヤは体中のリミッターを外していたのだ。

 風のように地面を駆け出すムツヤ。ミシロの元へとたどり着くと剣を振り上げた。

 急ぎミシロは剣でそれを受け止めようとする。が、剣は弾かれてしまい宙を舞った。

 すんでのところで躱して上空へ飛び、剣を掴み取る。

「面白い、面白いよ!!」

 ミシロは狂気をはらんだ笑い声を出しながら、再度ムツヤに向かって急降下した。

 その途中、水の刃を幾重にも飛ばし、総攻撃を掛ける。

 ムツヤは魔剣ムゲンジゴクを地面に突き刺した。炎と熱風が全てを吹き飛ばした。

 一瞬怯んだミシロの羽を片方切り捨てる。

「ぎゃああああ!!」

 ミシロは久しぶりに感じる痛みで叫ぶ。これで空を飛ぶことが叶わなくなった。

「許さない!!」

 走ってムツヤを斬り裂こうとする。ムツヤもミシロ目掛けて走り出した。

 互いがすれ違い、一瞬の静寂。それを破ったのはミシロだ。

「が、がああああ」

 羽をまた一つ斬り落とされる。ミシロはその場にうずくまってしまった。

 こちらへ駆け寄ってくるムツヤを見て、走馬灯が思い浮かんだ。

 自分の人生はろくなものでは無かった。家族を失い、拷問を受け、そして……。

 いや、そしてラメル様と出会ったんだ。美しくて、強くて……。

 ラメル様お願いです。力を貸してください。

 ムツヤは本能的に何かを察知し、ミシロから飛び退く。

「殺す、殺す殺す殺すコロス」

 ミシロは瞳が赤くなり、羽も再生した。ただならぬ殺気をムツヤは感じる。

「お前だけは、何をしてでも殺す!!!」

 更に早くなったミシロの特攻。剣同士がぶつかり合い、魔法がぶつかり合い。メチャクチャな音が響いている。

 上空から低空から自由自在に飛ぶミシロにムツヤは対応した。互いに一歩も譲らない一進一退の攻防を広げている。

 そんな中、ミシロは目を疑った。ムツヤが剣を鞘に納めたのだ。一瞬何が起きたのか分からなかったが、好機だ

「死ねー!! ムツヤー!!!」

 飛び込むミシロに合わせてムツヤは剣を引き抜いた。剣身の数十倍はあろう業火が吹き出す。

 炎はミシロの体を包み込んだ。熱さを超えた痛さを感じるが、構わずムツヤへと突っ込む。

 目眩ましにもなっている炎の中からムツヤがやってきた。次の瞬間ミシロは意識が途絶える。

 ムツヤはミシロの首を一撃で刎ねたのだ。業火が首も体も焼き尽くす。

 跡形もなく消えてしまったミシロ。ムツヤは剣を持ったまま膝から崩れ落ちて泣いていた。

 やがて、ムツヤもリミッターを外した反動で雪の上に倒れ気を失う。




 時は少し戻り、ムツヤが戦っている間、アシノ達も作戦を実行していた。

「こちらアシノ。お前達準備はどうだ?」

 アシノが連絡石で皆に尋ねる。四方を囲んで突き刺すとその範囲の人間を眠らせる杖を使用するためだ。

「はいはい、こちらルー。準備オッケーよ!」

「ユモトです。配置に着きました」

「モモです。こちらも大丈夫です」

「そうか、それじゃやるぞ、さん、にい、いち……」

 一斉に杖を突き刺すと光が溢れた。

「これで大丈夫……、なのか?」

 半信半疑のアシノだったが、ともかく街へ向かうしかない。

 それぞれ走って街へと向かう。一番最初に辿り着いたのは体力のあるモモだ。

 夜更けだからか、街の中に人影は見えなかったが、警備兵が眠っているのを確認した。

「どうやら大丈夫そうですね」

 連絡石でそう告げる。皆も到着すると、アシノは警備兵の頭をハリセンでスッパーンと叩いた。

「う、うーん……。あれ、もしかして俺、寝てたの……か? ヤバい怒られる!!」

「こんばんは、時間がないので手短にお話します。私は勇者アシノです。この街に黎明の呼び手のメンバーが潜入しています」

 若い警備兵は寝起きでそう告げられてイマイチ頭が回っていなかったが、段々と理解し始めた。

「赤髪……、勇者アシノ様!?」

 アシノはコクリと頷く。

「私の魔法で街の人達には眠って頂きました。武器を隠し持つ者を探して下さい。眠っている人はこれで頭を叩けば起きますので」

 そう言ってアシノはハリセンを渡す。

「わ、分かりました!!」

 警備兵は軍の駐屯所と治安維持部隊の駐在所に走る。そんな時、町の外が急に明るくなった。

「ムツヤか」

 アシノはそうポツリと呟く。

「様子を見に行きましょう!!」

 ルーが言うとアシノは頷く。モモもユモトも不安な気持ちを押し込めて、ムツヤの無事を願っていた。




 アシノ達が向かう頃には戦闘はすっかり終わっていた。雪原に転がるムツヤを見てモモは駆け寄る。

「ムツヤ殿!! ムツヤ殿!! しっかりして下さい!!」

 胸に耳を当てて心臓の音を確認すると、モモはホッとした。

「終わったみたいだな」

「良かった……、ムツヤ殿……」

 馬車を召喚し、そこにムツヤを乗せ、街まで走り出す。

「これで、これで魔人との戦いは終わったんだな」

 アシノは壁にもたれ掛かって言った。

「えぇ、そうね」

 ルーは相槌を打つが、心の中は複雑な心境だ。