ムツヤ達は、イタヤ達と足並みを揃えるために街に宿泊していた。

「アシノさん、明日には合流できそうだぜ!」

 呼び出したイタヤはそう言っている。

「私達が、黎明の呼び手について調べた範囲の情報を話します」

 トチノハが言うので、皆がその話を聞いた。

「首謀者の魔人ナツヤは、レイード地方の魔石採掘場にて違法な環境下で働かされていたようです」

「違法か……」

 イタヤがポツリと呟く。

「えぇ、それこそ扱いは奴隷のようだったらしいです」

 そこまで聞いて勇者たちは黙ってしまう。

「そこで裏の道具を使い、反逆を起こし、採掘場を管理していた貴族を襲い、街も襲ったようです」

「何か、救いのない話ですね……」

 サツキは俯いて言った。

「あぁ、気分の悪い話だ」

 アシノが言うと、イタヤも悔しそうに言う。

「そうですね、俺達勇者が気付いてやれれば防げたかもしれない」

「勇者はあくまで魔人や魔物と戦うもの。それは国や行政の仕事ですよ」

 トチノハが言うと、イタヤは言葉を返す。

「意外だな、気を悪くしたらすまないが、アンタはこういう人間に同情すると思っていたよ」

「いえ、同情はしていますよ国を変えたい気持ちは私にもあります。彼らのような存在を産まないために」

 そこまで言った後に続けてトチノハは言う。

「ただ、今の彼らは暴走して非情に危険な集団です。魔人ナツヤが裏の道具を使いこなせるようになる前に、止めなくてはいけない」

「だな、どんな背景があろうと、罪もない人を殺して良い事にはならない」

 イタヤが言うと、トチノハ以外が皆うなずいた。そして、勇者たちの会合は終わる。

「なーんか、今回の敵は後味が悪いわね」

 勇者たちの話を黙って聞いていたルーがそう話し始めた。

「あぁ、私もそう思う」

「ナツヤさんって人、かわいそうですね……」

 ユモトが言うと、アシノは嗜める。

「だからって同情はするな。戦いに影響が出る」

 同じことを考えていたモモもユモトと共に頷いた。

「ムツヤ、魔物を操る裏の道具に心当たりは?」

 アシノが聞くが、返事がない。ムツヤは心ここにあらずといった感じだ。

「ムツヤ、しっかりしろ」

「あ、すみまぜん! 魔物を操る道具はいくつかありまず!!」

 そんなムツヤの心情を見透かしたようにアシノは話す。

「裏の道具の責任はお前が感じる必要はない。道具に善悪はない。使う人間が悪いんだ」

「はい……」

 アシノの言葉を受けても、ムツヤの心が晴れることは無かった。

 朝日が昇り、しばらくするとイタヤ達が街へやってきた。アシノが対面して挨拶をする。

「こんにちは、イタヤさん」

「どうも、アシノさん。皆、元気そうだな!!」

 ハッハッハと笑うイタヤ。これから魔人との戦いになるというのに呑気な男だなとモモは思う。

 イタヤの仲間である魔剣士のウリハ、魔法使いのサワもそれぞれ軽く挨拶を交わして街を後にする。

 馬車を並走させて、例の貴族の城へと向かうアシノ達。

「それで、アシノさん作戦は?」

 イタヤのみアシノ達の馬車に乗って作戦を練る。

「そうですね、軍の目もあるので、ムツヤに『青い鎧の冒険者』になって貰い。我々はその支援をしたいと思っています」

「確かに、ムツヤくんだったら安心だな」

 そう言われ、ムツヤは少し照れる。アシノは構わずに話を続けた。

「相手は魔物を操るとの話でしたが、どの程度の魔物を操れるのか、どんな魔物まで操れるのか、まだ力が未知数です」

「何でも翼竜を操っていたって噂もありますが……」

 翼竜と聞かされ、少し不安になるが、それを一撃で真っ二つにしたムツヤがこちらには居る。アシノはそれを踏まえて話した。

「魔物相手の攻城戦となると、昼に攻めた方が良さそうですね」

 魔物は夜目が効く。視界が不自由な夜に戦うのは危険だ。

「そうですね、俺もそう考えていました」

 当たり前だが、イタヤも同じことを考えていた。貴族の城へは2日で着く。

 やがて夜になり、野営を始める。

「今のうちに飲めるだけ飲んどきましょー!!」

 ルーがおちゃらけて言う。皆の緊張をほぐすためだとアシノは思っていたが、だんだん酔いが酷くなってきた。

「イタヤさーん飲んでるー?」

「あぁ、飲んでるぜー!! お前達サイコーだぜー!!」

 幼馴染のウリハははぁっとため息を付いて、妹のサワはクスクスと笑っていた。

「やーん、ムツヤっち大好きー!!」

 一人浮かない顔をしていたムツヤを見つけ、ルーは抱き着いていた。

「やめろ!!」

 アシノによって、理不尽でなく吹き飛んだルーは地面に倒れる。

「ごりん終、だな」

 むーっと膨れてみていたモモがルーに駆け寄った。

「る、ルー殿大丈夫ですか?」

「やーん。モモちゃんやさぴー!!」

 今度はモモに抱きつくルー。

「コイツに酒を与えるのはもうやめよう……」

 アシノはワインをゆっくり飲みながら言った。



 翌日ルーは見事に二日酔いだった。

「む、ムヅヤっぢ……、二日酔いの薬出して。だめ、出ちゃう、出ちゃう……」

 吐きそうにしているルーに薬を飲ますと奇声を上げてシャッキリとするルー。

「ふぅー……。よーし出発よー!!!」

「お前、禁酒確定な」

 アシノはそう言ってデコピンをお見舞いし、馬車は走っていった。