次の瞬間、モンスターは右脇腹から鮮血を吹き出し、臓物を流して倒れる。
ムツヤは「今のはいい感じでしょう」と言いたげにモモの方を振り向くが、モモは頭を抑えて下を向いていた。
ムツヤもしょんぼりと下を向いた。
――
――――
――――――――
「あっ、あれ人じゃないですか人!?」
オークの村は街道から逸れた獣道をずっと行った先にあり、人の往来は少なく、今日もすれ違う人間は居なかった。
「私にはハッキリ見えませぬが、街道に出ましたからね」
しかし、大きな街道に出れば話は別だ。人の往来も巡回する兵士も居る。
ムツヤがこの世界で初めて見かけた自分と同じ種族は男の狩人だ。
それなりに五感の働くモモにもゴマ粒ぐらいの点にしか見えなかったが、当たり前のように千里眼が使えるムツヤは、集中して見つめると男の瞳の色までハッキリと認識できた。
こちらに向かってくるのですれ違うだろう。
ムツヤはドキドキとしながら挨拶をする練習を頭の中で繰り返す。
こんにちは始めまして私はムツヤと言います。こんにちは始めまして私はムツヤと言います。
緑色の帽子を被った男とすれ違う距離まで来た時、ムツヤは男に早足で近づいた。
男は身構えて腰の剣に手を乗せる。掴みはしないが正体不明のオーク連れの人間を警戒していた。
「はっつ始めましてこんにじは!! お、私はムヅヤど言いまず、よろじぐお願いしまず!!」
ツギハギだらけのボロボロの挨拶をムツヤは繰り出した。
帽子の男は5秒ほどの時間を置いてゆっくりと、頭の中を整理して自分が挨拶をされた事に気付く。
「あ、あぁ、こんにちは……」
「も、申し訳無い、私はムツヤの従者でモモと申します。主は異国より参ったので文化の違いで驚かせてしまいました」
「あー、あーあーそういう事……」
モモがすかさずフォローに入ったが三人の間には気まずい空気が流れ、モモを振り返ったムツヤは泣きそうだ。
「悪いけど、急ぎの用事があるんで。あっ、街はあっちの方ね、良い旅を」
それだけ言い残してそそくさと帽子の男はどこかへ行ってしまった。
ムツヤは怒られた子供のようにしょんぼりとしている。
「ムツヤ殿、挨拶は悪いことでは無いのですが…… すれ違う相手だったら『こんにちは』ぐらいで大丈夫ですよ」
木の根元で三角座りをして分かりやすく落ち込んでいるムツヤにモモは屈んで優しくそう言った。
「でもぉ……」
「大丈夫、慣れです慣れ! 慣れれば加減もわかるでしょう」
そう言ってモモが手を差し出すとムツヤはそれを握り立ち上がる。
清潔な石鹸の香りがふわりと漂う。
その後は街に着くまでの間『こんにじは!』とムツヤが言うと人々は好意的に挨拶を返してくれた。
幸いな事にゴロツキのような輩ともすれ違わなかったので、ムツヤはどんどん自信を取り戻していく。
「うわー、モモさんあれスゲー!!」
ムツヤが指差す先、石で積まれた砦に囲まれたあの街こそが『スーナ』というこの国では3番目に栄えている街だ。
そこでモモはハッとしてムツヤに言う。
「ムツヤ殿、街に着いたらすれ違う人全員に挨拶は不要ですので」
「えぇ、どうしてでずか!? この道ではしていたのに?」
やっぱりやる気だったのかと、モモはムツヤの行動が大体読めるようになってきた。
しかし、ムツヤの質問の答えに行き詰まる。知り合いとならともかく、街で他人に挨拶をしてはいけない理由を改めて問われると返答に困る。
「えーっと、そうですね、街には人が多いので全員に挨拶をすると疲れてしまいますし、日が暮れてしまいます。なので省略…… という感じです。もちろん知り合いであれば別ですが」
「そうなんですかー」
言葉ではそう言ったが、どうにもムツヤはいまいち腑に落ちていなかった。
だが、モモが困っているみたいなのでそれ以上疑問をぶつけることは辞める。
それに早く街の中へ行きたい気持ちもあった。
眼前まで街が迫る、立派な石で積まれた砦と、大きな木の門。
両隣には兵士が立っていて、その間を通ると色とりどりの町並みが広がり、ムツヤは心が踊った。
人間にも色々な見た目がいる。子供に老人に、背の低い高い、太ってる痩せてる、女の子も髪の短い子長い子。
ムツヤは「今のはいい感じでしょう」と言いたげにモモの方を振り向くが、モモは頭を抑えて下を向いていた。
ムツヤもしょんぼりと下を向いた。
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「あっ、あれ人じゃないですか人!?」
オークの村は街道から逸れた獣道をずっと行った先にあり、人の往来は少なく、今日もすれ違う人間は居なかった。
「私にはハッキリ見えませぬが、街道に出ましたからね」
しかし、大きな街道に出れば話は別だ。人の往来も巡回する兵士も居る。
ムツヤがこの世界で初めて見かけた自分と同じ種族は男の狩人だ。
それなりに五感の働くモモにもゴマ粒ぐらいの点にしか見えなかったが、当たり前のように千里眼が使えるムツヤは、集中して見つめると男の瞳の色までハッキリと認識できた。
こちらに向かってくるのですれ違うだろう。
ムツヤはドキドキとしながら挨拶をする練習を頭の中で繰り返す。
こんにちは始めまして私はムツヤと言います。こんにちは始めまして私はムツヤと言います。
緑色の帽子を被った男とすれ違う距離まで来た時、ムツヤは男に早足で近づいた。
男は身構えて腰の剣に手を乗せる。掴みはしないが正体不明のオーク連れの人間を警戒していた。
「はっつ始めましてこんにじは!! お、私はムヅヤど言いまず、よろじぐお願いしまず!!」
ツギハギだらけのボロボロの挨拶をムツヤは繰り出した。
帽子の男は5秒ほどの時間を置いてゆっくりと、頭の中を整理して自分が挨拶をされた事に気付く。
「あ、あぁ、こんにちは……」
「も、申し訳無い、私はムツヤの従者でモモと申します。主は異国より参ったので文化の違いで驚かせてしまいました」
「あー、あーあーそういう事……」
モモがすかさずフォローに入ったが三人の間には気まずい空気が流れ、モモを振り返ったムツヤは泣きそうだ。
「悪いけど、急ぎの用事があるんで。あっ、街はあっちの方ね、良い旅を」
それだけ言い残してそそくさと帽子の男はどこかへ行ってしまった。
ムツヤは怒られた子供のようにしょんぼりとしている。
「ムツヤ殿、挨拶は悪いことでは無いのですが…… すれ違う相手だったら『こんにちは』ぐらいで大丈夫ですよ」
木の根元で三角座りをして分かりやすく落ち込んでいるムツヤにモモは屈んで優しくそう言った。
「でもぉ……」
「大丈夫、慣れです慣れ! 慣れれば加減もわかるでしょう」
そう言ってモモが手を差し出すとムツヤはそれを握り立ち上がる。
清潔な石鹸の香りがふわりと漂う。
その後は街に着くまでの間『こんにじは!』とムツヤが言うと人々は好意的に挨拶を返してくれた。
幸いな事にゴロツキのような輩ともすれ違わなかったので、ムツヤはどんどん自信を取り戻していく。
「うわー、モモさんあれスゲー!!」
ムツヤが指差す先、石で積まれた砦に囲まれたあの街こそが『スーナ』というこの国では3番目に栄えている街だ。
そこでモモはハッとしてムツヤに言う。
「ムツヤ殿、街に着いたらすれ違う人全員に挨拶は不要ですので」
「えぇ、どうしてでずか!? この道ではしていたのに?」
やっぱりやる気だったのかと、モモはムツヤの行動が大体読めるようになってきた。
しかし、ムツヤの質問の答えに行き詰まる。知り合いとならともかく、街で他人に挨拶をしてはいけない理由を改めて問われると返答に困る。
「えーっと、そうですね、街には人が多いので全員に挨拶をすると疲れてしまいますし、日が暮れてしまいます。なので省略…… という感じです。もちろん知り合いであれば別ですが」
「そうなんですかー」
言葉ではそう言ったが、どうにもムツヤはいまいち腑に落ちていなかった。
だが、モモが困っているみたいなのでそれ以上疑問をぶつけることは辞める。
それに早く街の中へ行きたい気持ちもあった。
眼前まで街が迫る、立派な石で積まれた砦と、大きな木の門。
両隣には兵士が立っていて、その間を通ると色とりどりの町並みが広がり、ムツヤは心が踊った。
人間にも色々な見た目がいる。子供に老人に、背の低い高い、太ってる痩せてる、女の子も髪の短い子長い子。