物心がついた時から何度も見てきた夢がある。
その夢の中では僕がリビングに置かれたこたつに座ってキッチンで楽しそうにバレンタインのチョコレートを作る女性と少女の2人に声をかけるところから始まる。

何度も見てきたから第一声も覚えている。
僕は女性にこう話しかけるんだ。

「ねぇ、ママ。好きってどんな味がするの?」って。

そうしたら女性ではなく隣でチョコレートを溶かしていた少女が自信ありげにこちらを向いて僕の質問に答える。

「私知ってるよ!好きってね、甘い味がするの。このチョコレートみたいにすっごい甘い味」

「チョコレート……」

そして、僕はこたつの机の上に置かれたチョコレートを食べる。
どんな味か確かめたかったのだろう。

夢だから味は覚えていないけれど、僕は一口齧ったチョコレートをそのまま机の上に戻したからきっと好きな味ではなかったのだろう。

現実の僕も、甘い物は好きではないから夢にある程度現実の意識が介入しているみたいだ。

「ママもパパを好きになった時こんなに甘い味を感じたの?」

女性は手を口元に持っていって少し考える素振りをした後、穏やからな表情で微笑む。

「そうね。甘い味も感じたわ。でも、恋ってそれだけじゃないのよ。甘いだけじゃなくて、苦しい時には苦い味になるし、辛くて辛くて泣きたくなる時はきっと辛味も感じる。」

恋って複雑なのよ。きっとあなたたちも後10年も経てばわかるようになるわよ。

そう女性が言い終わるのを最後にいつも夢は終わってしまう。

これが僕がいつもみる、知らない誰かの日常を切り取った夢。