疲れたなあ。
 あたしは窓の外を見ながらぼうっと考えた。
 葉桜になった木の向こうで今日もサッカー部がきらきらと練習をしている。周りには、きらきら騒ぐ女の子達。
 あたしもああなれたら。そう思う気持ちは嘘じゃない。けれど。
 もう陽キャを目指すのは疲れたなあ。
 中学まであたしは陰キャだった。いじめられはしなかったが、友達もいない。友達は欲しかったが、それに向かって努力するのも面倒だった。それなのにぼっちは嫌だという自分勝手。
 でも。
 高校に入ったら変わるんだ。もうぼっちなんてごめんだ。
 ぼっちは中学で卒業だぜ!
 そう思ったからこの一ヶ月頑張ってきたのだが。
「もう、無理……」
 そう呟いた時だった。
「え? 宮崎さんも、もしかしてスイジャー好きなのっ?!」
「は? すい……、何?」
 前の席に座っていた、なんだっけ、まだ名前覚えてないや、とにかく同じクラスの女子がくるりと振り向いた。
 彼女はこちらに身を乗り出した。
「特盛り戦隊スイハンジャーだよ!」
「…………は?」

「おっはよー、未桜(みお)!」
「あ、お、おはよう。花音(かのん)」
 教室に向かう途中で、クラスメイトの花音に後ろからぽんと肩を叩かれた。花音はクラスで一番目立つ女子だ。美人で運動もそこそこよくできる。なんと言っても態度が自身に満ちあふれている。
 この子だ! あたしが目指すべきはここだ!
 最初の自己紹介の時にあたしは花音をロックオンした。
 中学時代のぼっち経験で培った観察眼に狂いはないはず。「この子がクラスのボスになるに違いない」と思った。ボスと仲良くなれば、クラス全員と仲良くなれるはず。
 あたしは、とにかくまずは花音と仲良くなるべく努力することにした。
 花音はこちらをひょいっと覗き込む。眉を寄せた。
「ん? なんか未桜今日暗くね?」
「え、そ、そんなこと」
 あたしはどもった。そして動揺を隠すために横髪を耳にかけて時間を稼いだ。
「あ、えっと。いや、一限から佐藤の英語じゃん? かったるいなーって」
「あ、確かに! 佐藤って日本語不自由なとこあるよな」
「ねー」
 嘘は言ってない。ただでさえ朝は眠い。もぞもぞしゃべる佐藤先生の授業は眠さしか誘わない。
 が。今暗い顔をしているのは、別の理由からだ。
「あ、宮崎さーん! ねえねえ、昨日の……」
 聞き覚えのある声にぎくりと振り返る。
 背後には相原さんが、昨日放課後初めて喋ったクラスメイトが、こちらにぶんぶん手を振っていた。手には重そうな紙袋を持っている。
「あれ? 未桜って相原と仲良かったっけ?」
 花音が不思議そうにこちらに尋ねた。
「ふ、普通!」
 あたしは花音に手を振ると、相原さんの元へ駆け出した。
「ちょ、こっちへ!」
 相原さんの腕をぐいっと掴み、廊下を曲がった。
 きょとんとしている相原さんの肩を掴んだ。
「えっと、昨日ゆってた奴だよね」
 相原さんはぱあっと顔を明るくした。
「うん! スイジャー持ってきたよ。今のとこ23巻まで出てるから、まずはそっから」
 相原さんは紙袋の上を開いた。中にはずっしりとコミックスが入っている。
 あたしは目を見開いた。
 昨日。唐突に前の席の相原さんに声を掛けられた。その後のことだ。
「特盛り戦隊スイハンジャー?」
 あたしは首を傾げた。相原さんは「あれ? 違うの?」と肩を落とした。
「いやあ、今宮崎さんが『もう、無理』とか言うから。てっきりあたしの脳内を読まれたもんかと」
「えーと。相原さんも悩み事とか……?」
 それが何故スイハンジャーとやらに繋がるのかわからないが、あたしは同情しそうになった。
 相原さんは「悩み?」と首を傾げたあと、はっとしたように持っていた漫画雑誌をこちらに開いた。
「いや、ほら、これ! 今週の重宗! 『人とは、そうして生きるもの』とか! かっこよすぎだろ! もう、無理、しんどい……」
「はあ……」
 あたしの返事に不思議そうに相原さんは首を傾げた。
「重宗、知らないの?」
 知らんがな。
 その返答が顔に出ていたのだろう、相原さんは「そっかー」と残念そうに呟いた。
「うん。あたし漫画とかあまり読まなくて」
 漫画というか、本と名の付く物はほとんど読まない。
「去年アニメにもなったんだけど。けっこう話題になってたと思うんだけどなあ」
 あたしはぎくりとした。
 またこのパターンだ。
 ぼっちになるパターン。
 中学の頃からあたしはぼーっとしている子だった。特に趣味も好きなこともなく、なんとなく毎日過ごしていた。
 だから、友達との話が全く合わないのだ。流行のものとかがわからないので会話についていけない。元々口数の少ないタイプなことも相まって、一緒にいても何も言うことがなくぼーっとしている。そのうちに話しかけられなくなる。
 あたしは拳を握りしめた。
 高校からのあたしは、ひと味違うぜ。
「そ、そうなんだ! どういうお話なの?」
 興味は特にわかなかったが、あたしは尋ねてみた。
 すると、相原さんは途端に目を輝かせた。
「あのね! これ一見特撮かよってタイトルだけど、原作がこの漫画でね、重宗はあたしの推しで、今仲間たちと離れてラスボス倒しに向かってて、でね、しげみなとかマジでエモくて、いや、公式が最大手っていうか……」
 あたしは途中で後悔をし始めた。専門用語(?)が多くてあまり理解できない。
 ぼんやりとしていると、相原さんははっとしたように口を噤んだ。
「ごめんね! ちょっと早口だったね」
 ゆっくり喋られても多分意味はよくわからないと思うのであたしは「そんなことないよ」と笑顔を作った。
「だいたいわかったから、もう大じょ……」
「わかった? そうなんだよ、重宗のそういうところが……」
 ダメだ、こりゃ。
 あたしは口を挟まずに相原さんが気が済むまで語らせることにした。
 話はヒートアップし、だんだん帰りたくなってきた。が、長年のぼっち生活から、話を切り上げるタイミングがわからなかった。
 もういいや。
 あたしは諦めて相原さんの話に最後まで耳を傾けた。
 次から次へとお話をしてくれるのが嬉しかったというのも、多分あった。
 そうして、あたしは相原さんの勢いに押されてコミックスを借りることになったのだが。
 困ったな。
 あたしは困惑していた。
 あたしの陽キャへの道はまだ半ばなのだ。
 相原さんは陰キャではない。ぼっちでもない。が、なんというか相原さんの所属するコミュニティーはオタクの香りがする。そして、昨日アニメ系のオタクだと判明した。
 あたし自身がオタクなら相原さんのコミュニティーに入っていくチャンスなのだが、残念ながらあまり興味がないのだ。アニメ系のオタクになるには漫画も読まなければならないだろう。あたしは本を手に取ると睡魔が襲ってくるタイプだ。
 これから輝かしい高校生活を送るためにコミュ障のあたしが同じ努力をするなら、カースト上位の花音のいるコミュニティーに所属したい。
 となると、相原さんと呑気に仲良くしている時間はないのだ。あたしはどこかのプレイボーイのように、何人もの女と同時に付き合えるような器用さは持ち合わせていない。
「宮崎さん?」
 相原さんの声で我に返った。
「そんな顔しなくても、返すのは急がなくって大丈夫だよ?」
 紙袋の中身を見たまま押し黙ってしまったあたしを見て、相原さんがにこにこと笑った。
「う、うん。ありがと。できるだけ早く返すね」
 あたしは唾を飲み込んだ。こんなにたくさんの本を読み切れるだろうか。
 手にかかる重みは、そのまま精神的な重みに繋がった。
 しかし、早くこれを読み終えて相原さんとは距離を置かなければ。
 悲壮感漂う決意をするあたしに相原さんは笑いかけた。
「これ、布教用だから。うちにはまだ保存用もあるし、ほんと急がなくていいよ」
 何を言っているのかよくわからなかったが、とにかく早く読もうと心に決めた。

 次の日の昼休み。あたしは花音と他二名の友達と一緒に教室でお弁当を広げていた。
「花音、そのリップかわいー」
「あ、これ? ポール&ジョー&マッカートニーの新作」
「え、いいなー。あたしも早くバイトみつけなきゃー」
「入学してから始めたんだからまだバイト代出てないって。これはプレゼント」
「えー。彼氏ー?」
「ふふっ。なーいしょ!」
「なによう、あたしと花音の仲じゃなーい」
 あたしはお弁当箱の中のシャウエッセンをつつきながらぼーっと皆の話を聞いていた。あたしは食べるのも遅いので、皆はとっくに食べ終わって化粧直しをしていた。
 まあいっか。お化粧品持ってないし。
 だがしかし。買わねばなるまい。あたしはこの先頭グループについていくと決めたのだから。
「宮崎さん、どの辺まで読めた?」
「うわあっ!」
 突然背後から声を掛けられてあたしはのけぞった。振り向くと案の定相原さんが立っていた。
「あ、あの、まだ読み始めてなくって……」
 え? 本ってそんなに早く読めるもんなの? 
「そっかー……」
 相原さんは肩を落とした。
 あたしは戸惑った。早く返さなくていいと言っていたのに。
「相原ちゃん、ダメっすよ。『まだ読んでないのー?』は、スイハラだよ」
 一緒にいた相原さんの友達がそう諭した。というか、スイハラってなんだ。
「だって、早く萌え語りしたくって。重宗尊い」
 どこか遠くを見ているような相原さんに友達は「うんうん、気持ちはわかるよ」と肩を叩いた。そして二人は去って行った。
「未桜、なんか本でも借りたの?」
 花音は足を組みながらこちらを見ていた。
「う、うん。なんか、なんだっけかな。スイハンジャーとかなんとか……」
「あー、知ってる。あたしの小学生の弟がハマってるわ。少年ジャブでしょ?」
 友達が笑った。あたしはぎくりとした。
 笑われた? 小学生男子と同じレベルだって。
 怖くて顔が上げられない。が、このまま黙っていたら、またぼっち街道一人旅だ。
「へ、へえ。そうなんだ。ウケるー」
 何がウケるのかわからないがあたしはとにかく会話を繋いだ。
 よし! と思っていると、花音がコンパクトを見ながら呟いた。
「ふーん。あたし漫画とか読まなくって……」
「そ、あ、あたしも!」
 即座に同意すると、他の二人は「あたしもー」「あたしはけっこう読むよ-」などと言っていた。

 帰宅したあたしは、なんとか宿題をやっつけると、紙袋を開けた。
「特盛り戦隊スイハンジャー」をこれから読むのだ。この土日で頑張って全部読んでしまおう。
 一冊取ってぺらりと開けると、登場人物紹介。
「うわー、こんなにいて覚えられるかなあ」
 前途多難な思いを抱えながら、あたしはページをめくり始めた。

 日曜日。あたしは公園のベンチに座って呆然としていた。
 ひどい。
 泣きそうだ。
 手元をみつめる。
 こんなことってあるの?
 あたしは先程買ったばかりのそれをもう一度手に取り、深くため息をついた。
 ーー今週は、特盛り戦隊スイハンジャーが休載だなんて!
 もう一度ため息をつくと、あたしは寝不足の目を擦った。
 特盛り戦隊スイハンジャー。一気読みでした。
 金曜の夜に読み始め、止まらなくなり完徹し土曜日の夜に読み終わった。
 清宗が行方不明になったところで23巻終了とか、鬼切りだろ!
 清宗が心配で昨夜はよく眠れなかった。続きが気になって気になって、あたしは朝一で本屋に駆け込んだ。23巻の直後のお話は今週発売の少年ジャブに載っていないかもしれないと思ったが、もしかしたら無事な姿が見られるかも知れない、そう思ったのだ。
 今日はダメだ。何も手に付かない。
 そう思ってぼーっと公園のベンチに腰を掛けている。
「あれ? 宮崎さん」
 目の前で自転車がキキッと止まった。顔を上げると相原さんだ。相原さんはあたしの手元を見た。
「あ。ジャブ」
 あたしは立ち上がった。そして相原さんに駆け寄った。
「清宗は無事なの!?」
 あたしのその言葉を聞くと、相原さんは満面の笑みを見せた。
「読んだんだね!」
「無事なの!?」
 あたしのその問いには答えず、相原さんは聞き返した。
「宮崎さんネタバレオッケーなほう? もしなんならあたし本誌の切り抜き持ってるから明日学校に持っていこうか?」
「是非! てか、今日は無理!?」
 すると相原さんは困ったように眉を下げた。あたしはハッとした。
「ご、ごめんね。そんなすぐにとか言われても困るよね」
 何を言っているのだ、あたしは。迷惑に決まっている。こんな自分勝手なこと言ったら、嫌われてしまう。
 また、ぼっちになってしまう。
「ごめんね……」
 泣きそうになって下を向く。すると相原さんは慌てたように手を振った。
「いやいや、いいんだよ! むしろハマってくれて嬉しい。けど、あたし今から友達とアニメイカ行く約束してるから」
 あたしはおそるおそる顔を上げた。相原さんの顔は、全く怒っていなかった。むしろ輝いていた。あたしは首を傾げた。
「なんで笑ってるの?」
「なんでって……」
 相原さんは少し言い淀んだあと、にかっと笑った。
「宮崎さんを沼らせられそうだからかな!」
「は? ぬまらせられれ……?」
 相原さんは時計を見た。
「あ、もう待ち合わせ時間やばい。この公園近道なんだよね。じゃあね!」
 あたしはぼーっと相原さんの自転車が遠ざかっていくのを見つめていた。
 あたしは再び手元のジャブを手に取った。ぱらぱらとめくる。
 一瞬目に入ったそれに息を飲んだ。
「次号予告 連載再開! 特盛り戦隊スイハンジャー なんとか清宗を救出した秋宗達だが……?」
 小さな清宗のカットと共に書かれたそれを見つめる。
「カッコいい……」
 寿命が延びた気がした。

 機嫌良く自宅までの道を歩いていると、今度は花音に会った。前から歩いてきた花音も気づいたようだ。
「お、やっほ、未桜」
「……や、やっほー」
 あたしは山彦のように繰り返した。外で友達と会った時、どんな挨拶をしたらいいのか、ぼっちのあたしは知らなかった。
「おしゃれして、どこ行くの?」
 気を取り直してあたしは尋ねた。
 花音の顔はいつもより綺麗に見えた。お化粧に気合いが入っているのかもしれない。揺れるピアスに、首元にはきらりと光るネックレス。服装もパッと見てかわいかった。この間買ったというカットソーだろうか。というか、カットソーが何モノなのかあたしにはわからないのだが。
 花音はうっとりとした表情になった。
「大事な人に会いにいくんだ」
 ああ、デートか。そう言えば彼氏がいるんだっけ。
「じゃね」
 花音はあたしに手を振った。
 かっこいいなあ。あたしもあんなふうになりたいなあ。
 その為には、もっと花音と仲良くならなければ。
 手に力を込めたところで、手の中のビニル袋に気づいた。
 清宗が入っている。
 あたしは去って行く花音の背筋の伸びた後ろ姿に目を戻した。そのキラキラした姿をしばらく見送ってから、さて帰るかとくるりと踵を返した。
「ん?」
 美容室のガラス窓に映ったあたしは、どこかキラキラしているような。そんな気がした。

「おはよー、未桜」
「おはよう! 花音」
「お、今日はご機嫌じゃん」
「ふふー」
 あたしは上機嫌だ。今日は相原さんが切り抜きを持ってきてくれるのだ。
 そんなあたしを見ながら花音がくすりと笑った。
「何?」
「いや……」
 花音は少し言い淀んでから笑った。
「もしかして、未桜ってあたしたちといてつまらないんじゃないかなって思ってたから」
 あたしはぎくりとした。
「な、なんで? そんなことないよっ」
 つまらなくはない。ぼーっとしてるのは性格と話についていけないからなだけだ。話の内容は今後の指針としてとても役立っているのでつまらないとは言えない。
 ただ、ちょっとしんどかった。
 自分のキャラを花音たちに合わせて作っているのが。
「ならいいんだけど」
 花音はいまいち納得がいかないような顔をしながら教室のドアを開けた。
「あ、宮崎さーん」
 相原さんがこちらに手を振った。
 多分、机の上にあるのは、切り抜きだ。
 すぐに駆け寄りたい気持ちは抑えた。花音との時間を大事にしたい。あたしは隣にいる花音をちらっと見た。
 つもりだった。
 隣にいたはずの花音の姿はそこにはなかった。
「ちょっと、相原!」
 花音は大きな声でそう言うと、ずかずかと相原さんのほうに向かっていった。
 相原さんは引いていた。花音の表情は後ろからはわからない。
 え? 何? タイマン?
 戸惑うあたしを尻目に、花音は相原さんの肩を掴んだ。
「こないだ、スイハンジャーとかいう漫画持ってるって言ってたよな?」
「うん!」
 相原さんの目が輝いた。が、あたしは恐怖を感じた。
 スイハンジャーになんか恨みでもあるの? 花音!
「良かった! 貸して!」
 ーーは?
 花音の言葉の意味を咀嚼するまでに六秒ほどかかった。
「いいよ! 明日持ってくるね」
 相原さんがにこにこしながら請け負った。そこであたしは気づいた。
「ま、待って。コミックスあたしが今持ってる」
 もう一度読み返してから返そうと思い、今日はまだ持ってきていないのだ。返す日までには本屋で注文したコミックスが来るはずだ。
 相原さんは胸を張った。
「まだ自分が読む用があるから大丈夫。花音ちゃんも漫画読むんだね」
 花音は否定するように首を横に振った。そして、スマホをすっと取り出した。あたしもそれを覗き込んだ。
「『特盛り戦隊スイハンジャー』第二期OP主題歌発表! ロックバンド Z NIPPON が担当」
 花音はすっとスマホに指を滑らせてスクロールした。
「見て。『大好きな漫画のOPを担当できてとても嬉しい。スイハンジャーの世界観を大事に歌い上げたい』って! 熟読するしかないだろう!?」
「あ、花音ちゃん Z NIPPONのファンなんだ。誰が好き?」
「何言ってんの! 箱推しに決まってんだろ! 昨日もライブ行ってきたよ!」
 勢いに押されながら二人の会話を聞いていたあたしは、不思議に思って尋ねた。
「あれ? 花音昨日は気合い入れたかわいいかっこしてたから彼氏とデートじゃ……」
 彼氏とライブに行ったのだろうか。
 花音は「彼氏?」と不思議そうな顔をして振り向いたあと断言した。
「推しに会いに行くんだから気合いいれて当然だ!」
「そ、そうなのか」
 会いにって、向こうは花音のこと認識してないんじゃ。
「あ、じゃあさ、花音ちゃん。今劇場版スイハンジャーやってるからさ。一緒に観に行かない?」
「いいね! 行く!」
 盛り上がり続ける二人をまたもやぼーっとみつめていると、相原さんの友達と、花音と一緒につるんでいる二人の友達もやってきた。
 花音が振り返った。
「あ、どうせなら皆で行かない? 劇場版スイハンジャー!」
「あ、いいねいいね。弟に自慢してやろ」
「映画とかあんまり観ないけど、面白そう!」
「あたしもまざっていいってことだよね? ゲストキャラの声優さんのファンだから観に行こうと思ってたんだー」
 そして、五人の目があたしを見つめた。
 なんだろう。
 よくわからないけど、わくわくする。
 それに、動く清宗を観ずには死ねない。
「行く!」
 あたしは大きな声でそう言って、みんなとハイタッチをした。

 おわり