今日の帰りは一人だ。
村上姫乃が早退をしたらしい。まぁたまには一人もいいか。
私は1人が好きだ。気を使わなくていいし、好きなことを考えていられるから。

「私は私が好きだ。」

強い風が吹いた。
不意に聞こえたその声は季節外れの雪のように溶けていき、私の心も溶かしてしまうような優しい声。
そして声がする方に顔を向けた。
私とは逆のロングヘア。
私とは逆の低身長。
私とは逆のタレ目。
私とは逆の白いワンピース。
「あなたは…?」
「私は千影(ちかげ)。」
「千影…?」
「ねぇ、千紘は自分のこと好き?」
初めて会う女の子、可愛くて優しい雰囲気、でもどこか冷たい女の子。どうして私の名前を知っているの?どこから来たの?私の何を知っているの?あなたは誰なの?

「私は私が嫌い。」

色んな質問が頭をよぎった。けれど、どれも口には出なくて、ただ、ただこの言葉だけを口にした。
「知ってる。」
「何を知っているの?」
「あなたのことなんでも知っているのよ」
「私の事?」

「あなたがケーキを嫌いなこと。」
「あなたが読書を嫌いなこと。」
「あなたが学校を嫌いなこと。」
「あなたが家族を嫌いなこと。」
「あなたが村上姫乃を嫌いなこと。」
「あなたが自己紹介を嫌いなこと。」
「あなたがピップルを嫌いなこと。」
「あなたが3人の友達を嫌いなこと。」
「あなたが篠田颯斗を嫌いなこと。」
「あなたが一人を嫌いなこと。」

「そしてあなたが与一渉を好きなこと。」

わからない。なんで全部違う。真逆のはずなのに言葉が出ない。否定ができない。なにかに口を塞がれたように。それは違う私は私自身と与一渉以外は好きで私と与一渉が大嫌いなのに、どうして。どうして。どうして、言葉の代わりに涙が出るの。

「そうてもう一つ、あなたは佐々木千紘の事が好きな佐々木千紘が嫌いなの。」

私を好きな私が嫌い…?何を言っているの?もう、わからない。頭がこんがらがる。急に現れて何をゆうの?私を壊しに来たの?あなたは誰なの?私の何を知っているの?
「色々聞きたいことがあるみたいね。」
「なんで…」
「何に対してのなんでかはわからないけど。私はあなたを知っている。誰よりもね。そしてあなたは私を」
私はこの子が

『嫌い』

「ってゆうと思ったわ。」
「どうして私の心がわかるの?ねぇ誰なの?」
「そろそろ気づいたでしょ?あなたは正直者じゃないの。全てに嘘をついて全てを偽って。みんなに好かれるように自分を無意識に作り替えてるの。本当は好きな物が沢山あるんじゃない、嫌いなものばかりなの。だけど認めたくないあなたはいつも自分に言い聞かせてる。私はあれが好きって、理由もつけて」
「でも、嫌いなものには理由がない。私思うの、嫌いになるには理由があるの。だけど好きになるのって理由がない。気づいたらとかいつの間にとか。」
「勝手にわかったようなこと言わないでよ!」
「ねぇ、正直になりなよ。私は私と与一渉以外嫌い。私は私と与一渉が好き。あなたも一緒でしょ?」
違う。違う違う違う違う違う違う違う違う違う。
「1度正直になりなさい。そうすれば、なぜ私と与一渉以外が嫌いなのかわかるわ。そして、ちゃんと向き合えばちゃんと好きになれる。あなたはただ逃げてるだけよ。」
「私は私と与一渉以外全部大好きなの…失いたくないの…。」
「それは私しか世界がなかった時よ。もう既にあなたの世界には与一渉とゆう人間が加わっている。あなたはその他全部を失っても1人じゃない。与一渉が一緒に戦ってくれる。本当は分かってるんでしょ?わかりたくないからってわからないってゆうのは違うわ。」
「私は…。」
「あなたは限界だったのよ。嘘をつくのに、今の生活に、疲れているのよ。好きに理由は無い。けれど自分を好きになるには理由が必要。ちゃんと考えてみて。」
その言葉を最後に私は意識を手放した。