数年後
「あー暇だなあ」
私は今日大学をサボった。
もちろん、ちゃんと理由があるからだけど。
最初は大学に行く気なんて全くなかったのに。あの人のせいで私の世界全て変わった。
あの人が見ていた世界を、見てみたかった。

腕時計を見る。もう少し。もうすぐだ。
空を見上げる。残念ながら少し雲があった。
ねえ、琴花さん。
琴花さんがいなくなってからもう、4年が経ったよ。

プルル
電話が鳴った。親友からだ。
「もしもし和彩?あんた今どこ?」
「え、普通に歩いてますけど」
「大学サボって何してる気?」
「ごめんって!でも今日は、、、」
「ま、和彩のことだから何か理由があるんでしょうけど。明日はちゃんと来てよ!」
勝手に電話を切った。ごめんね、灯桜。
あとでちゃんと謝罪しておかないと。
もう、時間だ。
琴花さん、私は私が出来ることをするって決めた。だから、見守っていてほしい。
いや、見てて。
私はもう大丈夫。一人なんかじゃない。
何があっても逃げない。立ち向かうから。
ビュウッと強風が吹く。
そう、あの日もそうだった。強風が吹いて、琴花が助けてくれなければ私は死ぬところだった。

グラッと標識が傾く。

ピンクのランドセルを背負った女の子はトコトコゆっくり歩いている。
近くにお母さんらしき人がいるが、電話をしていて気づいていないようだ。
「危ない!」
「え?」
女の子は顔を上げ、私は女の子の腕を引っ張った。
ガシャンッと大きな音を立てて、標識が倒れた。

「すみません!私が目を離していたから、、、」母親は私に向かって何度も頭を下げている。「うちのコトカを助けてくれてありがとうございます!なんてお礼をすれば良いか、、、」「お母さん、顔を上げてください。コトカちゃん、怪我はない?」
「うん、、、」
目の前にいるコトカは水色のワンピースを着ている。
水色。それは、もうこの世には存在しないはずの深見琴花の象徴。
彼方にいる貴女は、見てくれているだろうか。
よく頑張ったねって、言ってくれているだろうか。それは、私に知る術はない。
琴花さんがいなくなったあと、私は私を偽るのをやめた。
灯桜ともより仲良くなれたし、友達も多く出来た。
琴花さんの言う通り、私は思い違いをしていた。
私は一人なんかじゃなかった。
あの時琴花さんがくれた水色のブレスレットを身につけていれば、何も怖くない。私は無敵だ。
自分を偽っていた私とはもう、さよならだ。
少しだけ、息がしやすくなったような気がした。