【和彩の夢】
「和彩、ごめんな。車のエンジンがつかなくて」
お父さんが申し訳なさそうに言う。
「ううん、私は全然いいよ。じゃあ今日は歩いて商店街にでも行っちゃう?」
「和彩、たまにはいいこと言うじゃない」「お母さん、たまにはなんて言わないでよ」ははっと家族みんなが笑う。
―これは、夢だ、、、。幼い私がいる。お母さんとお父さんがいる。楽しそうな夢っぽいけど、でも、、、。今ではありえない光景。
「和彩、お腹空かない?」
「あー確かに。お腹空いたなー。どこかでお昼食べようよ」
近くにあったレストランのチェーン店に入る。
「お母さん、私オムライスにする!」
「また?」
「だって美味しいんだもん!」
―私達家族はいつも笑顔だった。ギスギスした雰囲気にもならなかった。
「あー美味しかった!」
「次はどこに行こうか?」
「えーどうしようかな。あっ、今何時?」お父さんがスマホを出して、「二時十分だけど、それがどうかした?」
「二時十分!?テレビ始まっちゃう!」
「テレビ?」
「再放送のドラマ!二十分から始まるのに、、、。先に帰ってもいい?」
「もちろん。分かったよ。車に気を付けて帰るんだぞ」
お父さんは私の手に家の鍵を握らせる。
「そんなこと分かってるよ、子供じゃないんだから。じゃ、いってきます!」
お父さんもお母さんも笑顔で手を振ってくれている。もちろん、私も笑顔で手を振り返す。
―嫌だな、この後は見たくない。目覚めるなら、今すぐ目覚めて欲しい。
これが最後の会話になるなんて、思ってもいなかった。
「やばっ、間に合わないかも」
信号のない横断歩道に差し掛かった。
「何あの車。めっちゃ遅っ。大丈夫かな」私が早歩きしている方がスピード速いくらい。大丈夫。まだ遠いし渡れる。そう思って渡り始めると。
「えっ?」
図っていたかのように、白いワゴン車が急発進した。
嘘でしょ?さっきまでノロノロ運転していたのに、どうして!
間に合わないかもしれない、、、。
そう思った途端、
ドンッ、、、
背中に衝撃がはしって歩道に倒れ込む。
「危なかったー。まったく、あの車の運転手何してんのよ。意味分かんない。って、あれ、、、」
今更気づいた。なんで私背中を押されたんだろう?
まさか!嘘だ!
急いで立ち上がって振り向くと、
「お父さん、お母さん!」
やばい、どうしよう、血が、、、。
私のせいだ。テレビに夢中になって早く帰ろうとしたから、、、。
全部、私のせいだ!


―ここは、一体どこだろう。そうだ、ここは私の部屋。そうだった。あの事故から一ヶ月間家に引きこもっていたんだった。
いつから私はテレビを見なくなった?
いつから外を歩くのが怖くなった?
何度、自分を責めた?
何度、運転手を責めた?
何度、助けてきてくれた両親を責めた?
何度、自分の身を投げようとした?