今日は、行き掛かりとは言え、凜にプロポーズした。こんなことでもないとなかなか踏み切れなかったのも事実だ。駅前の弁当屋で弁当を買って、4時過ぎにマンションに戻ってきた。

明日から仕事だが、4日は新年の挨拶回りや挨拶を受けたりして1日が過ぎて、業後は年始の一杯があるから、仕事は5日からになる。

夕食の弁当を食べているところへ、(しおり)から電話が入る。元旦の朝の新年の挨拶の電話以来だ。

「パパ、お正月どうしてた?」

「元旦はあれから一日マンションにいて寝正月だった。2日と3日は初詣やら街歩きをしていた。さっき、戻ったばかりだ」

「一人で?」

「いや、連れがいた」

「女の人?」

「そうだが、気になるか? 栞こそ、どうしてた? 彼氏とでもうまくやっていたのか?」

「まあ、そういうところ、でも心配しないで、きちんと付き合っているから。パパこそどうなの? その女性とは」

「栞と同じようにきちんと付き合っている。一度、栞に会わせたい」

「いいわよ、私がパパに合う人か見てあげる」

「生意気を言うな。東京へ来る機会はないのか?」

「再来週の月曜日に東京の本社で会議があるから、来週の土曜日に東京へ行くわ、泊めてもらいます」

「それなら、日曜日の晩に3人で食事をしよう。どこかのホテルのレストランを予約しとこう」

「分かったわ。どんな人か楽しみだわ」

早速、凜に電話する。

「2日間も付き合ってくれてありがとう。もう大丈夫かい」

「はい、今、夕食を食べているところです」

「再来週の日曜日の晩は空いているよね」

「はい、日曜日の晩は予定がありませんから」

「それじゃあ、娘が帰ってくるので3人で会食しようと思う。是非、娘に会ってほしい」

「ええ、いいですが、娘さんは何とおっしゃってます?」

「会ってみたいと言っている」

「それならお会いします」

◆ ◆ ◆
娘の栞が土曜日の午後4時過ぎにマンションに着いた。実家へ帰ってまで食事の支度をしたくないからといって、大阪で買ったという駅弁やたこ焼きやらを持ってきた。夕飯にはそれを当てると言う。駅弁とたこ焼きをつまみに二人でビールを飲む。

「ねえ、その女性ってどんな人、どこで知り合ったの」

「もう7年ぐらい前になるかな、水商売をしていたが、3年位贔屓にしていた」

「真面目なパパが水商売の人と親しくなるなんて意外だわ」

「付き合い出したのは最近のことだ、しばらくどこへ行ったか分からなくなっていたから」

「どういうきっかけで?」

「偶然、彼女の店に入って再会した。それで交際を申し込んだ」

「その人、歳はいくつなの?」

「32歳と言っていた。パパとは13歳も違う。栞より9歳位上」

「随分若い彼女ね、うまくやったね」

「プロポーズしたけど考えさせてと言われている」

「そりゃそうだわ、13も年の離れたおじさんだから、それに娘もいるとなると、考えるわ、振られる可能性もあるかもね」

「どうかな、パパは二度と失いたくないと思っているけど」

「私に会わせたいのはどうして」

「義理の母親になるかもしれないから、栞に気に入ってもらいたいし、できれば仲良くなってくれればいいと思って」

「それは会って見ないと分からないわ」

「そうだね。明日会ってみてあとで感想を教えてくれればいい」

「私が反対したら?」

「反対しないと思っているけど、その時はその時だ」

◆ ◆ ◆
日曜日の午後6時に銀座のホテルのロビーで待ち合わせをした。僕と栞が待っていると凜が6時前に現れた。和服を着ている。メガネはかけてこなかった。

見た目は32歳よりも上に見えるが、和服が似合っていて周囲も見ているくらいに美しい。こちらへ歩いて来るのを教えると栞が見つめている。

「きれいな人、ママに似ているね」

「パパも会った時にそう思った」

「パパが好きになった訳が分かったわ」

凜が僕たちを見つけて近づいて来た。栞を見ている。

「今日はご招待いただきありがとうございます。こちらが娘さんですね。初めまして寺尾 凜です」

「初めまして、山路 栞です。父がお世話になっています。今、父と話していたところです。亡くなった母にそっくりだと」

「お父さまもそうおっしゃるんですが、そんなに似ていますか」

「そっくり、なぜか懐かしい気がします」

「じゃあ、話は食事をしながらにしよう」

3人で最上階にあるメインダイニングへ向かう。席に着くとすぐに栞が凜に問いかける。

「父のどこが好きになったんですか」

「栞、最近付き合い始めたばかりだ。そんなこと聞くもんじゃない」

「お付き合いを始めたと言うのは、きらいじゃないからでしょ」

「そうです。嫌いなら付き合いませんし、好意を持っているからです」

「真面目が取り柄の父ですので、どこが気に入られたのか知りたくて」

「お父さまはとても誠実な方です。私のような女に交際したいと申し込んでくれました。すべて承知していると言って、それに私を守ってくれるとまで言ってくれました。これほどまでに私を大事に思ってくれる人は今迄いませんでした」

「凜さんとお話ししていると、なぜ父があなたを好きになったのか分かります。父はあなたといると心が癒されるのでしょう」

「栞さんにそんなことを言われるとは思いませんでした。それはいつもお父さまが言われていることです」

「私もお話ししていると懐かしいような心が癒されるような気がします」

「亡くなられたお母さまに私が似ているからですか」

「そうかもしれませんし、そうでないかもしれません」

「うふふ、やはり親子ですね。お父さまと同じようなお答えです」

「父もそう言ったのですか」

「はい」

娘も僕も正直そこのところは良く分からない。だだ、同じような気持ちなのは確かだ。栞は凛の過去の仕事やどうして知り合ったのかついては聞かなかった。聞かれれば凜は正直に話しただろう。娘も大人になったということだろう。社会に出て人の機微が分かるようになったのかもしれない。

栞は彼女のことを気に入ったみたいなので安心した。凜も栞に好感を持ってくれたみたいだった。娘と義母のつきあいでなくて、姉妹みたいに付き合ってくれたらいいのだが、これは二人次第だ。

食事が進んでいく。凜の緊張も解けて話が弾んでいる。栞の彼氏の話になった。凛に相談したいことがあったら電話してもいいかと聞いている。経験が豊富な凛に相談にのってもらいたいらしい。父親は頼りにされていないようだ。確かに凜は栞にとって頼りになるかもしれない。食事が終わって別れ際に栞が凛に挨拶する。

「今日は私に会いに来ていただいてありがとうございました。お会いして父がプロポーズした訳が分かりました。どうか父をよろしくお願いします」

「私はお父さまにふさわしくない女です。でもできるだけお父さまのお力にはなりたいと思っています」

凜はタクシーに乗って帰って行った。二人で見送るとこちらもタクシーに乗り込んだ。

「パパ、良い人じゃない、絶対に逃がしたらだめよ。もうあんな人見つからないわ」

その言葉を聞いて内心ほっとした。