粛清編
あの後、復讐対象の平塚大輔以外は殺さずにしておいた。誰一人として俺にヘイトを溜めさせていなかったし、どうでもいい連中だし。
いつもの瞬間移動で山形の拠点にひとまず戻......ったまでは良いのだが…
「ん...?」
アパートの前にパトカーが数台停まっておりアパート内も少し騒がしい。住人も戸惑いの顔を浮かべて警察の行動を見ている。
奴らを検索してみると、大半が地元の警察署から来た刑事と警官だが、そのうち二人の刑事は山形警察の人間ではないようだった。
「大阪府の刑事?何でわざわざ北国のここに、それも俺がいるアパートに......いや、ああそうか...!」
考えてみれば簡単なことだった。俺が復讐で暴れ回ったことで発生した事件を辿れば、俺のところに辿り着いたってわけだ。いくつもの殺害現場から僅かに残った手がかりを集めれば、まぁ犯人が俺だってこと気付くわな。
それにスーパーや色んなところの監視カメラに対してちゃんと姿を隠さないで行動していたものだったから、バレるわな。
で、大方俺の出生と経歴を全て調べ上げて結果、ここに辿り着いた…ってことか。最近はここでも復讐活動したから、この地域が俺の拠点だって確信したのだろうなぁ。
(ほ~~、こういう犯人の捜索レベルってフィクションドラマの中ばかりやと思ってたけど、現実でもここまで嗅ぎつけられるのかぁ。日本の警察も、無駄な部分では優秀なんだな...)
こういった犯人特定・捜索スキルはとても優れていて有能なのに、肝心の“予防スキル”とやらは底辺ゴミレベルやもんな、警察って。
だってそうだろ?あいつらはいつも“事件”が起きてからしか動けねーもんな。未然に防ぐという能力は未だ皆無じゃねーか。
俺が進行形で虐められててもあいつらは動かない。傍観者同然の姿勢を取るだけだ。
虐めは犯罪だとか抜かしておいて、その犯罪行為を未然に防いでみせたことは果たしてあったのか?ストーカー被害に対する護衛もしてくれない、マスゴミのプライバシー侵害レベルの取材への対処もロクにしようともしない。
交通についてもそう。交通マナーの取り締まりがザル過ぎて、簡単に事故死を許してしまう。
これのどこが、国民の安全を守ってますなんて言えるのか。
お前ら警察は“全”の治安秩序にしか目を向けることをせず、“個”の人権・平穏・治安などには毛ほども対応しない。歯牙にもかけていない。
だから虐めで人が死ぬんだ。だからストーカーに殺されたりするんだ。だから労働環境が底辺の会社も出てくるんだ。
俺は警察という組織が堪らなく不快だ。簡単な理由、俺を救ってくれなかったからだ。
学校もダメ、家族もダメ。じゃあ警察......もやはりダメ。
お前らに相談した自分が惨めになったあの日はマジで辛かった。国民の税金で生活している公僕どもは、国民の平穏など全く守れてやしねーんだよ。
......いつの間にか変な回想をしていた。とにかくその警察どもが何故ここにいるのかだが、確実に俺に用があるのだろうな。本人を捕まえて事情聴取をして、証拠が揃えば俺を逮捕でもするつもりなんだろうな。
まぁ?今の俺ならあんな公僕組織なんか一瞬で灰にできるし。事後処理も完璧にできるし、足も全く残さないし。ここは、挨拶するとしましょうか...。
躊躇いなく俺の拠点部屋に入る様を見た警官らが慌てて俺の前に立つ。
「ちょっと君。大学生...なのかな?この部屋は今警察による捜査が入っているから部外者は立ち入り禁止になってて......」
「じゃあ大丈夫だ。俺は部外者じゃねーから」
俺の返答に警官が戸惑っていると、刑事がこっちに来た。
「その青年はどちらさんで.........おい待て。そいつ、まさか...!?」
中年刑事が俺の顔を見た途端、驚愕の表情をしてポケットから写真を取り出す。それと俺の顔を交互に見てから険しい声で俺に質問を投げかける。
「お前さん......杉山友聖やな?」
「はいそうです。わたすが杉山友聖です......何つってな」
刑事の関西訛りが混じった問いかけに俺は馬鹿にした口調で答えた。直後、周りの警官どもが俺を取り囲んだ。
「穏やかじゃねーなァ?俺にいったい何の用?
大阪府から来た刑事お二人さん?」
「.........用件はただ一つ。お前に連続殺人事件の容疑がかかっている。今すぐ大阪の署までご同行願ってもらうで」
すっとぼけた様子でいる俺に構うことなく中年刑事は刑事手帳を見せてそう告げた。対する俺はというと...
「――お断りいたします☆」
“全員ここから撤退して元いた所へ帰る。今日のこと全ては忘れること”
――パンッ!!
手を叩いた直後、警察全員は部屋から出て行き、パトカーに乗って去って行った。
心が広い俺は今回は見逃してやる。次また俺の前に立ち塞がるようであれば、その時は慈悲無く殺すとしよう...。
何にせよ、全ての隠蔽工作は完了。今日いっぱいはここで過ごして、明日からまた新しい住居に移る。そして次の活動に入るとする...!
「今日はその次の段階に向けて英気を養う日でもある。さぁ買い物に行こう」
数十分後、大量の高い食品と上等な酒を買って戻り、夜は盛大に食って飲んで過ごした。
「ああ...改めて最高の気分だ...!俺はやり遂げたんや。俺を虐げたり排除したりした奴らに復讐を果たした。まぁ一部寿命や事故で先に死んで殺せなかったクズもいたが...何はともあれ俺は最高の復讐が出来た!憎い奴らをたくさん、たっくさんぶち殺した!」
因みに復讐出来ずに終わったのは近所トラブルの元となったあのクソ犬とその飼い主だ。飼い主が事故で死んで、犬は寿命で死んだ。まぁ少しでも溜飲を下げるべくあいつらの墓場を盛大に荒らして汚してやったが。
「気持ちいいっ。復讐がこんなにも甘美で快楽的だなんてなァ!心が洗われた。闇を払拭した。屈辱と悔恨と無念全てすすぎ落とした!ずっとこびりついていた負の垢が...落ちた気分や!
あ~~~~~~~~最っっ高っ!!っはははははははは!!くぅははははははははははははっ!!!」
奴らへの復讐の余韻は数日間続き、結局引越したのは三日後となった。
拠点は利便性に富んだ大阪の、大阪市内。比較的孤立してる一戸建てを俺の永住地にする。元の家主には悪いが、催眠術で実家に帰ってもらって家を明け渡させた。そこにまた私物を全て配置して揃えて、あっという間に理想の部屋を創り上げた。
作業が終わったところで一休みしていると、外から明らかに騒音レベルのバイク音が響いてきた。
「......だからぁ、たかが移動でそんなうるさい音出す必要がどこにあるんだ!?るっせぇんだよ!!」
致死性のホーミング弾を指先から放って、騒音の元凶であるガイジ野郎を消し飛ばした。少し遠くから破壊音が聞こえた後、あのうるさい音は消えた。
はぁ......今の騒音通行にしろ、喫煙所外での歩きタバコにしろ、歩行を遮るような横断をしてくるマナー違反のクソ運転にしろ......そろそろああいうの全てを消さなきゃアカンよなぁ。
というか復讐が終わった次は、この日本を俺が理想とする秩序に改造することを前から決めていた。今こそ、その目論見を実行する時がきた!俺が問題視していることを誰も改善しようとしないなら、俺が改善してやれば良い。
変えるんだ...俺が変える。呼びかけとか罰金とかそんな生温い手段じゃねーぞ――
「“粛清”...。これから行うのは俺の為だけの粛清だ。俺にとって害になる人間全てをこの世から抹消して、この国を改造する...!復讐の時とは比べ物にならない規模の殺戮...そう、あの異世界での復讐以来の量の血を流させてやろう...!!
―――革命を起こすぞっ!!!」