青山の会社を出た頃には、もう夕方になっていた。こういう時間にこういう建物から出ると、仕事したわけでもないのになんだか今日の俺は頑張ったなーって思ってしまう。軽く伸びして振り返って、奴の会社を見てるとなんか腹立ってきた。
そうだ、奴の財産でもあるこんなクソ会社なんて壊せばいい、と思い、高威力の魔術を派手にぶっ放ってやった。奴の会社は、屍と化した青山と井村ごと跡形も残らず消え去った。
そしていつもの通り記憶操作と認識阻害をかけて、誰も今起きたことを気にしないように細工した。ここに大量殺人事件と小さな会社破壊事件が起こったことなど全く気付かないでいる有象無象のモブどもは、日常を過ごしていく。目の前に破壊跡があるというのに誰もきにしてないという光景に思わず笑ってしまった、俺がやったことなんだけど。
帰り途中でブリ〇ストンの自転車屋を見つけて、つい入ってしまった。生前の自分の移動時の9割以上がチャリンコだったなぁ。スーパーもファストフードのチェーン店も本屋も全部チャリ移動だったっけ。今となってはチャリ不要の移動能力を有しているから不要なのだが、ズラッと並んでる性能良さげなチャリンコたちを見ていると、何だか乗りたくなってきた。
というわけで5~6万はする上等なチャリンコを購入。そして乗車......おお!この感覚ホントに久しぶりだ!そして漕ぐ...新品で高性能なだけあってグングン進む。快適だ!誰もいない通行路で軽くスピードを出してみる......あ、前走ってる車追い越した。
ここで悪目立ちをする気はないので即座に通路から離れて別の場所へ。今本気で漕いだら、スピード以前にチャリ自身が耐えきれずに壊れてしまいそうだな。力セーブしないと。
その後もしばらく久し振りサイクリングを楽しんでいると......
「――あ...?」
横断歩道の真ん中で停車してこちらの通行を邪魔する車が現れた。停止線あるのにも関わらずそれを越えて、明らかに歩行者たちが通る歩道の前で止まりやがった。
「.........ハァ」
生前も、こういう輩にかなり腹を立てたなぁ。いや邪魔だろうが。それ以前に交通違反だろうが。お前停止線見えてないわけ?太くデカい白線があって、停止する際はそこから前に出てはいけないって教習所で習ってるはずだろうが...!!
通行は歩行や自転車が優先だというのに、明らかに渡ろうとしてる俺の前を横切って横断する車に歩みや通行を妨げられるのは非常に不快だ。つーか悪だろ?俺の中では殺されても文句言われないくらいの悪行だね!!というわけで......
「邪魔なんだよぉこのクソ運転者が、消えろ!!」
――ドゴォ!!!
怒りに任せて通行先に止まってる車を思い切り蹴り上げる。浮いた車目がけて炎の弾を数発撃ち込んだ。直後、車は大炎上して爆発した!
「ぎゃああああああああ......!!」
クソ運転者の断末魔の叫びが少し聞こえたがすぐに消えた。すぐに死んでくれたみたいだ。復讐ではないから殺すことに手間はかけない。蚊を潰す感覚で殺した。周りから悲鳴が上がると同時にいつもの事後処理して騒ぎを鎮静させて立ち去る。まだ往来で俺の行動を認知はさせない、全てへの復讐を達成した後まで全て隠蔽するつもりだ。
まぁその間は自粛することなくこうやって制裁活動していくけどな。後で周りのモブどもの記憶を消せば済む話だし。
で、気を取り直してサイクリングしていたら......
「.........」(ピキィ...)
まーた歩行者優先無視して通行を遮ろうとするクソ運転野郎が現れたあーもう不愉快だ!
「――通行の、邪魔すんなあああああ!!」
右脚を大きく回して蹴りつけて、クソ車を近くの壁に叩きつけた。もの凄くひしゃげる音と破壊音がして車は大破。そして運良く無傷で降りてきた運転者(中年男)が、こちらに憤怒の形相を見せて詰め寄って来た。
「何さらしとんじゃお前ぇ!?俺がお前に何かしたんかぁ、ああ!?」
はいそうやって逆ギレ。ホントこういうゴミは目障りだからすぐに殺そう。
「横断する時に歩行者がいたらその場で停車することってことすらできないわけ?教習所からやり直せよクソゴミ野郎。まぁこの後生きて、通うことなんてないけど...なっ!!」
ブチィ!「ぎやああああああ―――!?(グシャ!)」
詰め寄ってきた汚い男の腕を引き千切り、さらには口に(魔術で生成した)剣を脳天目がけて刺し貫いてやった。投げ刺す寸前に男が恐怖した顔を見せたので気分が良かった。
「全く......日本の全国どこでも、交通ルールをロクに守らねークソ運転者はいやがるな。何でルールを守らないカスどもなんかに運転免許寄越してやがんだ。意味が分からない」
生前見たニュースでは煽り運転とかも出てたっけ。日本人に車という道具を与えたのは間違いだったんじゃないのかマジで。特に運送業の人間以外の奴らなんかには車乗る資格無いだろ、どーせロクにルール守らないんだからさ。まぁ今はどうでもいいか。この件については放っておこう。
さて......今日はまだこれで終わりにはしないぞ。少なくともあと一人は復讐しに行く。というより、次に誰を殺すかは...もう決まってある。チャリンコを拠点へ止めてから俺はその対象がいる場所へ向かっていく。どうやって殺してやろうかなー?楽しみだ、くくく...!
*
時刻は19時。17時30分に定時上がりした男......中林大毅(45歳)は、最近通うようになった、ミドル世代で構成されたフットサル活動の最中であった。小学ではクラブ、中学と高校では部活動、大学ではサークル活動と10年以上のサッカー経験者であるお陰で、このフットサルメンバーの中では彼がいちばん上手くプレーしている。
今回もいい汗をかいたことに満足して、着替えて帰路に着くところだ。中林の通勤路には、途中小さな公園がある。今日も暗くなって誰もいない公園を通って帰って行く......はずだった。
いつもは何事も無く公園を跨いで行く中林だったが、今日はそこで立ち止まってしまった。
立ち止まらずには、いられなかった。それも彼のように平穏な日々を過ごしていた者にとっては無理もないことだ。彼が跨ごうとしていた公園には、人がいた。別にそれだけなら中林は気にすることなく素通りしていたのだろうが、今この場にいるその人間が、常軌を逸していることをしているのならば、話は別だ。
「な......ぁ!?」
公園の真ん中で立っているその男の両手には――
「ったく、公園は喫煙所じゃねーんだよ。ここは自分らの敷地だといった態度でスパスパ吸いやがって。実に不愉快で最低だ。死ぬべきゴミどもだ。
――お前もそう思うよなぁ?
中林大毅ぃ?」
若い男性の首と腕があって、彼が立つ地には赤い血だまりがあった―――