【はじめに】
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サイド 友聖



 ここは異世界。俺は一度死んで、ここに転生したらしい。そして俺には魔王軍と戦う勇者としての素質があるそうだ。

 前世の俺は真っ当な人間だなんてとてもとても言えないものだった。

 学校で酷い虐めを受けるわ。その際周りの人間は誰も助けてはくれねーわ。家族さえも俺が悪いからやと言ってくるわ、その家族と絶縁するわ。
 さらには虐めが原因で進学できず。クソな上司や同僚しかいねー会社へしか勤められず、そこで不当な扱いを受けて挙句心を病んで壊して社会人辞めるわ。働かなくなって破産するわ。
 そして孤独死するわで…マジでロクな人生じゃなかったな。

 そんなくそったれな一度目の人生を終えて、異世界にて二度目の人生を送ることになったわけやけど。
 勇者となった俺に対する扱いは、前の人生とほとんど変わらなかった。

 俺を戦いの道具として扱うばかりで、身分が無い村の孤児だと見下してばかりの国王と国の大臣どもと貴族ども。
 村の出身のくせに勇者の素質がある俺に嫉妬して、徒党を組んで汚く罵ったり貶めたりしにくるギルドの冒険者ども、等。

 二度目の人生…異世界でも、俺のもとにはロクな人間しか現れない。前とほとんど変わらない。俺に優しくしれくれない、クズどもばっかりだと、俺は絶望に追いやられようとしていた。

 けど、ぎりぎり踏み止まることが出来た。



 「こんなに傷ついて......じっとしてて!応急処置程度しかできないけど治療魔術かけるから」


 最初の魔王軍討伐の任務から帰ってきた、すぐ後のことだった。今まで会ったことが無いような、青い髪の美少女が、無償で俺の傷を治してくれたのだ。

 「あ......私はリリナ。これでも王女です...」

 リリナと名乗った王女様は俺を熱心に治療してくれて、その後も会話に誘ってきた。


 「孤児だったんだ...。冒険者になる前から魔物と...?弱い魔物でもそんな年から戦ってたんだ!凄いね...!」

 リリナ様だけは、あいつらと違って俺を見下したり道具扱いもせず、嫌悪したりもせずにいた。

 「友聖、頑張ってね!私は戦えないけれど、こうやってお話したり治療するくらいならいくらでもしてあげられるから!みんなあなたへの当たりが酷いけれど、私だけは友聖のこと応援してるから!」
 
 リリナ様だけが俺を支えてくれた。前の人生では彼女のような俺に親身になって易しくしてくれる他人なんて、一人もいなかった。だかた彼女には本当に助けられた。  
 人間関係がマジで終わっていた前の人生だった為、恋愛経験など当然皆無だったわけで。こんなにも優しくしてくれる美少女に惚れてしまうのに、時間はそうかからなかった。

 とはいえ、俺のこの初恋は成就しないだろうとなと、この時そう思い込んでいた。だから早々にリリナ様との恋は諦めることにした。
 あくまで、親しい友人止まりで良いと割り切ることにした。それだけでも、嬉しく思えたから。 


 17才になった頃、ついに魔王を討伐して、国と世界の平和を守った。

 「ぐ......勇者よ…。我を討った褒美に、一つ助言をしてやろう。
 お前は後悔することになる...。お前が守った者たちに価値など微塵もなかったと、やがて気付くだろう...。見限るなら今のうちだ。人間は醜い...。
 では、さらばだ勇者―――」
 
 魔王が死に際に何か言っていたが、特に聞く耳を持たなかった。

 満身創痍の体でどうにか帰って来た俺は、国王に謁見して形だけの労いと褒賞と報酬を受け取ることに。

 しかしこの国の平和を守ってやったにも関わらず俺に対してだけ不当な扱いをまた強いろうとしたその時、

 「此度の活躍、大儀であった。では.........お前を軍から除隊させる。村へ帰るなり好きにすると良い。こちらからの用件は以上だ、早くこの場から去れ――」






 「国王様――いえ、お父様!!それはおかしいのでは!?」





 後方の扉をバンと開けて怒声が上がった。振り向くろそこには、



 「な...リリナ!?何故ここへ?今は魔王軍討伐を成した兵士たちへの褒賞式の最中である……………」

 「そんなの見れば分かります。それよりも今の、友聖に対しての報酬に異議を唱えます!
 彼は今回の討伐任務であの魔王を討伐したという、莫大な実績を上げてます。なのにロクに恩賞・報酬を与えないというのは、あまりにも不遇が過ぎます!ちゃんと彼の実績に合った、公正な褒美を与えなさいっ!」

 国王のもとへ肩を怒らせながら歩を進めるリリナ様の姿があった。見るからに怒っているぞと分かるくらいに怒っている。俺に対する今のふざけた扱いに対して怒っているみたいだ...。

 「し、しかしだな。この男は勇者とはいえ身分が――」

 「それが何よ!?前からずっと言い続けてきてるけど、お父様も大臣たちもみんな、友聖に対する態度や扱いがおかし過ぎるわ!!彼が魔王を討ってくれたお陰で魔王軍の脅威にもう怯える必要がなくなったのよ!?彼が私たちの平和を守ってくれたのよ!?命を懸けて!!
 なのにあなたたちはいつまでも友聖を見下して蔑んでばかり!自分たちは安全なところでいるばかりのくせに!恥ずかしいと思わないの!?私は恥ずかしいわ!こんな人たちが国の要人としているのだから!!
 今すぐ友聖に対する報酬を正しなさい!!たとえ国王でも許さないから!!」


 国王に食って掛かり、激しい雨のように国王と大臣どもを糾弾して責めるリリナ様。その激しさと彼女の剣幕に俺も国王全員が口を挟めず啞然としてしまった。
 そして彼女の糾弾が終わると同時に、後ろから数名誰かが入ってきた。


 「恐れながら国王様、友聖殿に対する今の報酬について我々も納得しかねます」
 「あんたらは...」

 彼らはいつも俺の傍で共に戦って来た兵士たちだ。同い年の男兵、少し年上の副隊長、姉的な存在の女兵、中年の隊長。
 彼らは国王の前まで来ると、頭を垂れて嘆願しはじめる。

 「どうか彼に相応の褒美を。ここにいる我々だけでなく、今回の魔王軍討伐に参加した他の兵士たちも同じ気持ちです!彼がいなければ私たちは今こうして無事にいられてなかったことでしょう!
 どうか手厚い御恩を!!」

 隊長が声を大にして俺へのちゃんとした褒美を与えるよう請求している。他の3人も同じ姿勢だ。
 というか、こいつらが俺の為に頭を下げること自体が驚愕だ。俺は討伐軍の連中とほとんど上手くやれてなかったのに。こいつらとも距離をとってたのに。どうせこのクズどもと同じように俺を蔑んでハブにするんだと思ってこっちから避けてたのに...。

 リリナ様と隊長たちの圧に屈した国王どもは、その場で俺に対する報酬を改正して、勲章や栄誉も与え、そして今までの数々の非礼を詫びた。大臣どもも、さらには謁見の後も貴族どもやギルドの連中からにも礼と謝罪がきた。

 俺はというと。国王や大臣ども、さらにはギルドの連中など。
 今まで俺に対して罵倒や侮蔑、色んな理不尽を強いて胸糞な気分にさせた奴ら一人一人に、顔面に殴りや蹴りを百発くらい全力で入れるという、落とし前をつけた。それで今までの禍根を全て無くすことにした。
 全員、半死半生のダメージを負ってたっけ。その様が見れたことでようやく長年の鬱憤が晴らすことができた気がした。
 
 それにしても、初めてだった。
 他人が俺の為に怒ってくれる奴、俺のことであんなにも必死に頼み込む奴ら。

 本当に、初めてだった...。


 「だからその、何て礼を言ったら良いか...」
 「礼なんて要らないわ。むしろ、今まで友聖に辛い思いばかりさせたことを謝らせてほしいわ。
 本当にごめんなさい。もっと早くこういうことをさせていれば...」

 謁見とケジメという名の制裁を終えた後、庭園でリリナ様と二人で会話をしていた。



 「それでね友聖。ここからが大事なんだけど......三日後にあなたの為のパーティーを開こうと思ってるの!あなたが育った村で皆で盛大に!
 今までの辛かった日々をが忘れるくらいに最高のパーティーにしてみせるから、楽しみにしててね!」

 「パーティー...俺の、為に......」

 普通こういうのは本人には黙って裏で準備して、当日何も知らない俺を招いて、サプライズだよと告げて一気にパァーっと明かすものだけど。
 この時の俺はこういうのでも凄く......もの凄く嬉しく思えた。

 「パーティー......凄く楽しみに待ってますね、リリナ様」
 「うんっ!絶対に、満足させてあげるんだからっ」

 庭園で二人、互いに嬉しそうに笑い合う。こうなることが正解だったと心からそう思える、そんな気がした。


 そして三日後、俺は自分が育った村へ行く。そこで魔王軍討伐を果たした俺や俺と親しい兵士たちに対する、慰労及び感謝及び癒し目的のパーティーが催された。

 共に戦った兵士たち、村の一部の連中、そしてリリナ様。皆が俺にありがとう、お疲れ様と声をかけてもてなしてくれた。

 (......前の人生では、頑張っても何一つ褒められたことなかった人生だった。成人してからは更に酷いものだった。役立たずとか目障りとか言われてばかりで、どこへ行っても自分だけ腫れもの扱いされてハブにされてばかり...。
 どこへ行っても俺に居場所なんて一つも無かった...。
 それが、今はこんな――)

 「友聖」

 一人感慨に浸っているとジュースを手にしているリリナ様がこっちに来る。俺の隣に座って頭を俺の肩に乗せてくる。そんな仕草に俺はドキリとする。



 「まだ、ちゃんと言ってなかったからここで言うね...。友聖、

 私たちの平和を守ってくれて ありがとう 」



 こっちを見て、可愛くて綺麗な笑顔で、真っすぐに感謝の言葉を告げたリリナ様に、俺は心を奪われる。

 「あなたが元気で楽しそうでいるその顔が見れて、良かったです。
 あなたがそう言ってくれたお陰で俺は......生まれて初めて報われたと実感できました。
 こちらこそ、ありがとうございます リリナ様...!」
 
 俺の心からの感謝の言葉を聞いたリリナ様は、ただ黙って俺の頭を撫でるという行動で返事した。その手つきは優しくて、安心するものだった。
 

 「 あなたが好きよ 友聖 」

 
 ポツリと、リリナ様は突然告白する。
 いきなり好きと言われてもちろん驚いてはいる。けどそれ以上に嬉しいという気持ちが、俺の心を満たしていた。

 「俺も...リリナ様が好きです」

 だから俺はこの気持ちを素直に伝える。好きだ、恋している、傍にいてほしい。俺はそれらを心の中で言ったのか、声に出して彼女へ伝えたのか、分からない。
 けどリリナ様の、その嬉しそうな様子から、俺の告白は成功したのだと、そう思えた。
 相思相愛...これ以上ない最高の形で俺の初恋は叶った。前世では全く成し得なかった恋愛成就。まさかここで叶うなんて夢にも思わなかった。

 俺は今、幸せだ...!

 「友聖、これからは私と楽しく幸せな日々をすごしましょう。辛く嫌なことがあっても私が癒してあげるから。何があっても私は友聖の味方になるから。
 だからこれからずっと、私の傍にいて下さい」


 もちろん喜んで―――ちゃんと言葉にできたのか、またも分からずじまいだったが、返事と同時に俺はリリナ様の手を離すまいとしっかり握った。これが答えだと言わんばかりに。だから、俺のこの気持ちはしっかり伝えられたはずだ。

 「良かった...!」

 告白に成功したことに対してか、リリナ様はそう零して目にうっすら涙を浮かべていた。今度は俺が彼女の頭を撫でてやる。

 正直、この世界へ転生してから俺はずっと、前の人生とこの世界の害悪どもを殺してやりたいって考えていた。いつかは残酷に甚振って復讐してやろうって考えていた。

 けど今は...俺を好きだと言ってくれる人がいる。傍にいてくれる人がいる。味方になってくれるひとがいる。
 たった一人だけど、それだけで俺は救われた気持ちになれた。心が浄化された。復讐とかもういいやと思うようになれた。

 日和ったとも言えるかもしれない。もし今この場で俺を虐めた連中や、俺を排除したクソ上司や同僚なんかが現れたら、すぐにこの手でズタボロにしてしまうかもしれない。
 でもそれだけだ。殺したりは多分もうしない。

 なぜなら、自分の傍には好きな人がいるから。
 俺を好いてくれて支えてくれる人がいる限り、俺は人としての道を踏み外さないでいられると思ってる。


 (せめてこの人の信頼を裏切らない自分でいよう。今だけを見て、幸せにいよう。俺は、幸せになって良い人間だ!)


 こうして 杉山友聖は救われ、幸せな人生がこれから始まる―――