「化け物......に、なってしまったのね」


 リリナは顔を悲痛に歪ませながら、俺にそう言った。

 「友聖...あなたの行動をもう言葉で止めさせるのは、もう無理なのね...」
 「ンなもん最初から分かったんやろお前は。俺の心はとっくに腐りきって壊れた。もう誰も信用できひんつって、手遅れや分かってても心を鎖《とざ》しもした。
 そして俺は選んだんや、世界の全てに対して復讐するって。自分以外は全てゴミクズやと認識して、俺の害となる連中全てをこの世から消してやって、俺にとって住み心地の良い世界に変えてやるって」

 ええか?とリリナに向き合って俺は改めて俺の行動理念を説く。


 「簡単な話、俺は自分に正直になっただけや。自分の快に従って動いてる。二度目の人生でお前らに良いように利用されて何の礼も無く突き放されて孤立させられたことで、お前らからそう教えられたんやで?下手に出てばかりやとただ自分を無為に削るだけやって。
 なら俺の思うままに何もかも滅ぼして俺色に染めてやればええんやって、俺はそう学んだし、それが俺にとって正しいことやと確信もしてる!!他人なんかどうでもよかった!!
 リリナ、お前に突き放されたことでそう教えてもらったんやっ!!」

 「違う...違う!!私のあの突き放しは本音じゃなく演技で...!私が友をちゃんと分かってあげられなかったせいで、あんな愚かなことをしてしまったからで。心から友聖を捨てようなんて思ってない!!
 お願い信じて...!私はあなたを都合の良い道具だとか思ってないって…っ」

 「ああ今なら信じられるよ?お前が俺にああいう接し方をしたんは、お前の低脳な思慮のせいやってことも。最初から、心からの“ありがとう”の声と一生一人遊んで暮らせる分の報酬だけでもポイってくれてたらこんなことにならんかったのにな!!こうなったのはお前や他の異世界の連中の馬鹿な行いのせいや!!!」
 
 俺がこうなったのはリリナたちのせいだと声高にして叫ぶ。こじつけや責任転嫁甚だしい主張に過ぎない。
 けど事実やろ。はじめから相応の報酬を寄越しさえしてれば後でどれだけ冷たくされようがどうでもいい。今後は二度と関わらなきゃええだけなんやし。
 だが払うべき恩をロクに払わずに理不尽に追い出したもんやから、俺はあんなにぶち切れたんや。

 俺はいくらでも異世界のせいやって叫ぶで。悪いんは全部あのクソッタレな王や貴族ども、そしてリリナクソ王女なんやからな!!

 「それは......確かに私のせい。私の思慮や配慮が浅かったせいで、何も考えずに友聖を深く深く傷つけてしまった...!
 化け物って言ったけど、友聖をそうさせてしまったのは、私と私の国の人々のせいでもあるって思ってる。悔やんでも悔やみきれない!
 本当にごめんなさい!!あなたの心をちゃんと分かってあげられなかった私が憎く思うくらいに後悔してるわ。今もそう。私が女神に転生したのは、友聖にそのことを伝えたかったという理由の方が強かったから」
 

 かなり無茶苦茶言ってる俺に対し、それでもリリナは頭を下げて本気の謝罪をする。嘘をついて傷つけたことを本気で悔い、生まれ変わってまでして俺にそのことを謝りに来た。これほど律義な奴はいるまい。
 
 「サタンを狩る為だけじゃなく、俺に“あの時はあんなことしてごめんなさい”を言うという私用の為にわざわざ女神に転生したくらいやもんな?お前のその謝罪と真意だけは取りあえず受け入れたるわ。かといってお前を赦すなんてことはならへんけどな。
 それに、お前の真意を知ったことで、お前に対する憎悪が余計膨らんだわ...。
 だってそやろ?ホンマに最初からサプライズとか下らん小細工を考えずに気持ちを素直に伝えてればよかっただけやのに。お前ときたら...。壊れかけてたこの俺に、よりにもよって冷たく突き放すって...。
 人の気持ちを考えない身勝手な糞女がお前や!結局はお前も学校のあいつらと同じ!俺を虐げる存在に変わりないんや!!」

 
 ビクリとリリナは肩を震わせて、下げていた頭を上げて反論する。

 「虐げるなんて...!私が友聖をそんなことするわけない!したいなんて考えたことなんて一度も無いわ!!私は...私は、友聖に喜んで欲しくて、友聖を支えてあげたいって思って...!やり方は間違ってたのは認める......でもね友聖、これだけは分かって!?
 私は友聖のことを本気で考えて、想って行動してたってこと!!この気持ちに嘘は無いわ!!」

 涙を滲ませて悲痛に叫ぶ奴からは、嘘は見えなかった。見えなかった...それだけや。ほんまかどうかまでは知らん。知る必要も今やもう無いけどな。どうでもいい。

 「俺のこと考えて俺を想ってたって、それが本気の本気なんやったら...何で俺の心が分からへんかったん?なァ、お前は...お前だけは......あの異世界の中ではお前だけが俺を分かってたんやろ? 
 じゃあさ...お前あの時はさァ?俺に対してどういう行動をとるのが最適なんか、分からへんかったん?俺がどんなことされたら嫌がって傷ついて壊れてしまうのかって、ほんまは何も考えてへんかったんとちゃうんか?
 何が俺のこと考えてた、や?何が俺を想ってた、や...?」

 「それは...!私の考えが甘かったせいで、思慮が浅かったせいで...!でも私は本気で――」

 「そんなん......そんなんさァ!?“本気”やったんならあんな...ッ、俺がされたくないあんなやり方思いつく普通!?“本気”なんやったら、あの時の俺に対してなら真っすぐに気持ち伝えるっていうやり方がいちばん優先されるんとちゃいませんでしたかぁ!?!?」
 「っ!そ、その通りよ...!友聖の言う通り、あなたを本気で想ってるのなら、あの時真っすぐに私の気持ちを...感謝を伝えるべきだった!間違ってた!!」

 「ああそうやな?お前は間違ってた。そして俺も間違ってた。所詮俺のことを本気の本気で考えてない女のことなんかに本気になるべきやなかったんや!そのせいで俺も自分で余計に傷つけて、ついにはここまで壊れてしまったんやからなァ!

 あ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~もう!!最っ悪や!!!」


 言い訳は許さへん。俺はコイツに認めさせたる。
 お前も結局俺の味方やあらへんかったって。俺の心をきちんと把握して本気なんやったら、最初から素直に正直な気持ちを伝えるというのがベストアンサーのはずやろ?

 けど実際はリリナはそうはしなかった。じゃああいつも俺のことを救う人間やあらへん。虐め連中やクソ会社の連中とゴミカス異世界連中と何ら変わらへんわ。
 いくら言葉を飾ってもなぁんも俺に響かへん。ただ憎悪を昂らせるだけや!!
 
 で?俺に散々ネチネチ言われて糾弾されまくったリリナは......

 「うん、そうだよね。ここで私がいくら言葉を出しても、友聖には信じられないよね...。
 これは私のただの......自己満足に過ぎない」

 何か傷ついた顔...被害者面して自嘲するようにポツリと言う。それがまた癪に障った俺はリリナを責める。

 「開き直りかよ?ハッ。そうやそうや...。お前は結局俺のことなんか大して想ってへんかったんや。下らん、お前の俺に対する......」

 「それは違うよ?私は、友聖が好き」

 「............何なんや、何なんやお前はぁ!?お前は間違いを認めた。ならお前は俺のこと全然見てなくて考えてへんかったんと同義やろ!?やのにまだそうやって他の奴らと違う、俺が好きやなんて言えるんか!?
 じゃあ何で、何であの時......ほんま何で.........っ!」
 
 途端に言葉が詰まる。


 「ちゃうねん......俺はただ...っ!単純な正直な優しさだけで良かったんや。嘘の無いありがとうとか、救われたよとか、お前のお陰やとか.........居てくれて良かったとかっ、そんなありきたりで単純なもんで良かったんや!!
 あの時の俺が欲しかったんは、そんな簡単なことだけやったんやっっっ!!!」

 「っ!ゆう、せい......」

 あれ?俺は今何でこんなこと言うたんや...?今更そんなもん要求したって何もならんのに...。
 何故か涙を流しているリリナを睨み、殺意を向ける。リリナだけやない......この国全てに対して...!

 「下らん無駄話はもう終いや。予定変えて俺はこれから社会人時代の復讐対象どもをまた殺しに行く。お前がいると時間かけられへんからな、しゃーなしやけど、こっからはもう一瞬で残りの復讐対象どもぶち殺すことにするわ...」
 
 それを聞いたリリナは、涙を拭いて杖を構えてこちらをキリっとした目で見据える。

 「そうはさせない...。もう決心ついたわ。友聖......あなたを殺します。サタンがどうとかも関係無い。あなたはもうここで生きてはいけない。私が......あなたをあの世へ送ります」

 「そうかい、邪魔するんは変わらんねんな...?やれるもんなら―――」

 地を蹴って空を駆ける―――


 「やってみろ」



 どちらかの終わりが近づいてきている。当然、俺が全部ぶち殺して勝つけどな!!