ピコン♪

 髙宮くんと付き合ってから早1ヶ月。付き合ったからって言っても特に変化はなく、前と同じようにレッスンをしてもらったり、買い物へ行ったり。あ、でも映画館にはショッピングのついでに、とデートしに行った。そんなことをしても、まだ髙宮くんの彼女、という感覚はないのだけれども。
 今日は11月の23日、日曜日。最近は土日は午前から会って、一緒にお昼ご飯も食べている。だから今日もそうだろうと思って、お昼ご飯を手作りしてみようかと考えていたところ。何を作ろうかとスマホで検索していると、髙宮くんからLINEが来た。
『今日はちょっと話したいことがあるんだけど。墓地に行くから動きやすい服着ててほしい』
 話したいことって、何だろう?それに墓地って、何があるのかな?そんな疑問はたくさんあるけど、髙宮くんが話したいことっていうのは大事な話で、墓地にも何か大切な用事があるから聞かないでおく。そして言われたとおり動きやすい服に着替える。裏起毛でちょっと暖かめのパーカーにデニム。髪の毛はみつあみをしてポニーテール。メイクもちょっとして完成。
『お昼ごはんはどうする?』
 私は聞いてみる。するとすぐに既読がついて返事が返ってくる。
『ごめん、今日は別々で食べよう。1時ぐらいに梨沙ちゃん家に迎えに行くね』
 私はOKというかわいいくまのスタンプを送っておく。そういえば、髙宮くんはあの文化祭の日から『梨沙ちゃん』って下の名前で呼んでくれるようになった。私はなんだかそれだけでうれしくなっちゃう。髙宮くんが食べないなら、お昼はそんなに手の込んだものは作らなくていいかな、と思ったけど、今日はなんだか気分がいいのでオムライスを作ることにする。
 オムライスを作って食べて、時計を見ると12時45分。もうすぐ髙宮くんが来る時間だ……!私は急いで残りの準備をして、いつ髙宮くんが来ても大丈夫なようにしておく。

ピンポーン♪ピンポーン♪

 インターホンが髙宮くんが来たことを教えてくれる。靴を履いて玄関のドアを開ける。
「髙宮くん!」
 髙宮くんは私の事を名前呼びしてくれているけど、私は相変わらず髙宮くん呼び。ずっとこうだったから、急に翔くんって呼ぶのも恥ずかしいし、慣れないし……。
「梨沙ちゃん」
 髙宮くんがにっこり笑って私の名前を呼ぶ。笑っているけど、なんだかいつもよりも元気が少ない感じがする。
「じゃあ墓地、行く?」
「うん」
 私はどこの墓地かも、どこは墓地かもわからないので、髙宮くんについていく。髙宮くんは何度も行って慣れているのか、一瞬の迷いもなくどんどん進んでいく。
 なぜか、歩いている時は無言。いつもは髙宮くんが話を振ってくれるのだけれども、今日はそれがないから。私から話しかければ何か答えてくれるだろうけど、この気まずい状況で何を話したらいいのだろう。そんなことをずっと考えながら歩いていると、髙宮くんの足が止まる。どうしたのかな、と顔を上げると。
「ここが、俺が行きたかったところ」
 髙宮くんが止まった前にはたくさんのお墓がある。そのお墓はどれもきれいで草一つ生えていない。なんだかお墓って苔がついていて、草がボーボーで汚い古いイメージだったので思っていたのと全然違うくてびっくり。こんなにきれいなお墓ってあるんだ……と感心していると髙宮くんが門を開けて中に入っていく。私はここに入っていいのか迷ったけど、髙宮くんがどんどん先に行くので入って髙宮くんを追いかける。
「ちょっとっ……!髙宮くん、待って……!」
 墓地の中の階段や坂を結構上って一番上ぐらいのところまで来たところ。私は体力がないので息が切れてしまった。やっと止まった髙宮くんの足に安心する。すると髙宮くんはあるお墓の前で座って手を合わせた。私は誰のお墓なのだろうとお墓に掘られた名前を見てみる。そこには……
「髙宮……梨子(りこ)?」
 そう書いてあった。髙宮って、髙宮くんの家族かな?
「梨子はね、俺の11歳離れてる妹。俺が高1になった時に病気で死んじゃったんだ」
 高2ってことは17歳で、11歳離れてるから……6歳?一年生の時になくなっちゃったんだ……。
「俺が、初めて梨沙ちゃんの家に行ったとき、覚えてる?」
「うん、まぁ」
 初めはかっこよくてちょっとやばい奴だなっていう印象だった。
「その時、俺は学級委員で、梨沙ちゃんがいじめられて気になったから来たって言ってたけど、それだけじゃないんだ」
 それだけじゃない?髙宮くんはほかに、私のところに来た理由があるの?
「俺は高2の最後の方に梨沙ちゃんの事を知って。それで、梨子と、重なったんだよね」
「妹さんと……?」
 私と髙宮くんの妹は、何か似ているところがあったのだろうか?
「そう。その話をしておいた方がいいかなって思って……今日ここに来たんだ」
 髙宮くんが梨子ちゃんのお墓を見る。その顔はとても悲しそうで、辛そうで。ずっと前に感じていた違和感。髙宮くんは何か大事なことを隠しているような気がしていたのは、もしかしたらこのことなのかもしれない。
 髙宮くんはお墓の前に座る。私もその隣に座って髙宮くんの話を聞いた。