夏祭りが終わり、学校の夏休みも終わって、学校登校日。今は7時50分。今日、私は、久しぶりに制服に体を通している。メイクもして、髪の毛もかわいくして。そして家を出ると……
「早坂さん、おはよ!」
「うん、おはよ!」
 制服を着て、学校指定のないリュックを背負っている髙宮くんがいる。髙宮くんのブラウスの半袖からのぞく肌は私と違ってきれい。しかも夏休みは終わったのにまだあまり日焼けをしていなくて白い。いいなぁと思って顔を見ると、なんだか少し汗をかいている。まぁ、確かに9月だから少し暑いけど、髙宮くんはあんまり汗をかかない人じゃなかったけ?夏休みのレッスンの時に私は汗をいっぱいかいてるのに髙宮くんはかいていないから聞いたらそう答えていた気がするんだけど……。
 あ、それよりも。私は今日から、学校に行こうと思っている。
 これといった理由は特にないんだけど……たくさんのメイクの仕方やヘアアレの仕方を学んで、なんだか自分に自信がついて。
なんだかもう一度、学校に行ける気がしてきたから。それに学校に言ったら髙宮くんと会う時間が増えるし、っていう事は髙宮くんには内緒だけど。
「早坂さん、学校デビューだね!」
「まぁ、3年までは学校に行ってたけどね」
 そんなことを言いながら久しぶりの通学路を歩く。今日はみんなが登校する時間をずらして登校している。なるべく合わないために。って言ってもどうせ教室で会うんだけど、できるだけみんなとは会いたくないから。といっても髙宮くんはいつもこの時間帯に登校していて、いつも教室につくのはいつも遅刻気味らしい。それなのに学級委員になれているなんてすごいな、といろんな意味で感心してしまう。
 通学路を歩くこと20分。やっと学校の正門前に到着する。家を出たすぐは今日は風が吹いていて涼しいな、と思ったものの20分も歩くと体中に汗をかいている。中に入るとまず広い中庭に出る。その中庭を通り抜けて3年生の校舎の南校舎の3階へ上がっていく。
 いつも嫌だった学校。顔を見られたくなくていつもしたばかりを向いて上がっていた階段。でも今は自分に自信がついて堂々と歩けるようになっている。すると意外にいろんな発見があるものなんだと気づいた。例えば壁にはこんな掲示物が貼ってあったんだな、とか、ここにはこんなしみがついてあるんだな、とか。どれもどうでもいいことだけど、私にはその発見が私が成長したしるしのように思えて少しうれしい。
 階段で3回まで登り、左に曲がって一つ目の教室。ドアの上には3-1という看板がある。ここが私の教室。今から、私はこの中に入るんだ――
 そう思うと不安になってきた。教室のドアを開けようとした手をとめる。教室の中からはみんなが話していてがやがや聞こえてくる。私が教室に入ってきたらみんなはどんな反応をするだろう。たぶん、びっくりして、また、ブスとか言われるんだろう。でも今はすぐ後ろに髙宮くんがいる。そんなことになったら髙宮くんが助けてくれるはず。でも、もし助けてくれなかったら……助けてくれなかったらどうしよう。髙宮くんは学校では知らんぷりして、ましてや一緒にいじめられたら……。
 いや、髙宮くんはそんなことする人じゃない。よし、大丈夫。みんなに何を言われても、私には髙宮くんがいるから。
 そう思い髙宮くんの事を見る。すると髙宮くんはにっこり優しい顔で笑って、そして力強くうなずいてくれた。
 勇気を出してドアを開ける。そして――
「み、みんなっ、おはよう……!」
 元気よく挨拶をする。この挨拶は何日も前からなんて言ったらいいのか何回も練習してきた。特にそんなすごい言葉ではないし、結局ちょっとつっかえちゃったけど……。
 突然の私の登場とあいさつで、一斉にみんなの視線が私に集まる。でもそれは一瞬出すぎにみんなは会話に戻っていく。誰からも挨拶返されなかった……。まぁ、私に挨拶を返してくれる人はいないと思っていたけど、自信がついたのに反されなかったら、これでも私の存在を否定されたみたいで悲しくなってくる……って思っていると。
「おはよう!」
 後ろから髙宮くんが入ってきて挨拶を返してくれた。さっき私があいさつした時よりもみんなはびっくりしていて、なかなか視線が戻らない。すると一人の暴力系男子が口を開く。
「おい、翔……そいつが誰だかわかってんのか?なんでそいつに挨拶なんかするんだよ」
 みんなそう思っているようで「そうだよー!」ていう人やうなずく人がいる。そうか、私みんなそう思っているんだ……。
「そいつ?早坂さんはそんな名前ではありませーん!お前こそ誰だかわかってんのか?それに挨拶なんて誰にしたっていいじゃん」
 髙宮くん、お前って……それにちょっと口も悪いよ……。言いたいことはわかるけど、相手は敵に回したら最後のやばい奴だと思うんだけど……。
「あぁ?俺をなめてんのか?ちょっとこっち来いやぁ!」
 男子が髙宮くんの事を殴ろうとこぶしを上げて席を立つ。その動作に周りの女子がキャッと声を上げる。
「別になめてなんてないけどー?俺は事実を言ったまでです」
 髙宮くんはあおり気味でそういう。それでもう抑えきれなくなったのか、とうとう男子が前に出てきて髙宮くんに殴りかかろうとしてくると。

ガラガラガラッ

教室の後ろのドアからタイミングよく先生が入ってきた。
「じゃあホームルーム……って、何やってんだ?喧嘩はやめろよー」
 ……やる気のない声だけど、殴りかかろうとしていた男子も先生の前では殴れないのか自分の席に戻っていった。そして先生が教室全体を見渡すと……私と目が合う。そしてみんなと同じように一瞬びっくりした顔をすると何もないかのように黒板の前に来る。
「おはようございます」
 私は先生にも挨拶してみた。先生は私に挨拶してくれるのかどうか。してくれなかったら髙宮くんがなんていうか。試してみたかったのだ。
「お、おぉ、おはよう」
 挨拶してくれた……けど、なんだかぎこちない。そして話をそらすように先生が「じゃ、じゃあ出席とるぞー」と言ったので私と髙宮くんは席に着く。私の席は一番後ろの窓側。そして髙宮くんは――
「そういえば、席となりだね。よろしくね、早坂さん」
 私の隣!どうやって席を決めたのかは分からないけど、ありがたい。くじ引きで決めたのなら私の一生分の運はもう使っちゃのかな、ってくらいうれしい!そういえば、机の中には悪口が書いてある紙なんて入っていなかったな……?机にも落書きなんてされてなかったし……。
 そのあとは普通に授業を受けて、休み時間は髙宮くんが話しかけてくれたのでずっとしゃべっていた。さっきの男子はというとさっきの怒りはどこに行ったのやら、何も話しかけたり殴ってきたりはしなかった。きゅうしょくのお弁当も好きな人と食べれるのだけれど、私は友達がいないから一人で食べるのかぁと思っていると髙宮くんが一緒に食べようって誘ってくれて一緒に食べた。そのために髙宮くんはほかの友達の誘いを断っていたのでとてもうれしかった。そして放課後も一緒に帰ってそのあとにいつものようにレッスンをして一日終了。
 今日はほとんど髙宮くんと一緒にいた。これからもこんな毎日が続くのか、と思うと今まで生きていた中で初めて学校が楽しみに思った。

 でもそれは今日だけ。これから起こる悲劇なんて、私はこれっぽっちも予想していなかった。