ピコン♪
ちょっと熱くなってきた７月下旬の土曜日。久しぶりに聞いた音に私は過剰なほど反応してスマホを見る。ホームには幼稚園くらいの小さい可愛い女の子が写った写真のアイコン。これは、髙宮くん！
急いで開くとそこにはこんな文字。
『早坂さーん！夏休みって空いてる？』
私は悲しいことに夏休みに一緒にどこかへ行ってくれる友達がいないので、夏休みは全然予定が決まっていない。夏休みだから、何か張り切って大きい絵をかいてみるのもいいかもなぁと思っていたぐらいで。
『夏休みはいつでも暇だよー』
そう送ると、なんだかこれってカノカレの会話みたいだな、と思いうれしくなる。するとすぐに髙宮くんからの返信が来る。
『まだ先の話なんだけど、８月の２７日に夏祭りがあって、早坂さんと一緒に行けたらいいなって思って』
これって……デートのおさそい？ってバカバカ！髙宮くんはそんなつもりなくて、ただ夏祭りが行きたいだけだって！でも、髙宮くんは友達がいっぱいいそうなのに、その中の私と夏祭りが行きたいってこと……？
こんな風に勝手にいい方向に考えて、否定して、でも可能性もある……っていろんなことがぐるぐる頭の中に渦巻く。でも、頭は混乱しているはずなのに、手は冷静で、ちゃんと私の気持ちを正直に書いていっていた。
『私も髙宮くんと行きたい！』
冷静のはずだけど、今すぐにでも夏祭りに行きたい気持ちが文字からは少し出ている。ついビックリマークを付けちゃったけど、とても楽しみなことが髙宮くんにばれませんように、そう願った。
『じゃあ、行こうね！』
髙宮くんもビックリマークをつけている。……私と同じくらい、楽しみなのかな。そんな小さいことも気にしてしまう。少しの間、やり取りしたメッセージを見返していると、髙宮くんからメッセージが。
『でさ、浴衣とか、着ていく？』
浴衣かぁ。髙宮くんに浴衣姿を見てもらいたい多いけど……私は、浴衣を持っていない。
『私、浴衣は持ってないや』
髙宮くんに見せたい、という事は伏せておいて、そう返信した。
『それでなんだけど、浴衣、一緒に買いに行かない？』
一緒に買いに行く？髙宮くんと？考えるよりも先に、指が動く。
『行きたい！』
『よかった。それで、あそこの大きいショッピングモールに安いけどかわいい浴衣屋さんがあるんだけどそこで買うのはどう？』
そんなところ、あるんだぁ。大きいショッピングモールは知っているけど、私は言ったことがないからどんなお店があるかは知らない。でも髙宮くんがどう？って言っているお店だからきっとかわいい浴衣がいっぱいあるんだろうなぁ。
『うん、あそこでいいよ！』
私はどこか分からないけど、とりあえずそう送る。
『じゃあ……』
そのあとに予定と時間を決めて話は終了。もっとしゃべりたいとは思ったけど、ずっと話していても迷惑だろうし、しつこい女とは思われたくないから……。
買いに行くのは明日、日曜日。午前中の１０時に髙宮くんが私の家に来てくれる。ショッピングモールまでは駅まで５分くらい歩いて、７駅電車で運んでもらって、駅を降りると目の前にショッピングモール！って感じ。お昼ごはんはそこで食べて、そのあとに浴衣やそのほかに普通の服も見てみようってことでぶらぶらすることになっている。髙宮くんと半日、一緒にいる……そう思うと楽しみで、うれしくて、いろんな気持ちでいっぱいだった。
明日が楽しみ。私はとろとろと過ぎていく時間に、ただただ明日を待っていた。
私はあの日――永野さんが髙宮くんの事が好きって聞いた日の夜は、たくさん泣いた。でも、深夜に冷静になって考えてみると、永野さんはまだ髙宮くんと付き合っているわけではない。だってあの時私に髙宮くんと付き合っているのか聞いてきたから。だったら、永野さんも私も、まだ同じスタートライン。永野さんの方がずっと前から知っていて、好きかもしれないけど、私は髙宮くんと毎日会っている。だから同じスタートラインから早くゴールにたどり着けばいいだけ。どこがゴールなのかは分からないけど……。でも、まぁ、ポジティブに考えることにした。私はつり合わないとかは考えないで。
だから次の日からはいつも通り髙宮くんと会って、接した。レッスンもバイトがある日以外は毎日している。そのおかげでメイクもどんどん上手になっていて、今では私一人でメイクができるようになった。それに、いろんな種類のメイクも覚えて、今日の服に合ったメイクを選んでするようになっている。ヘアアレもできるものが増えて、だいたい毎日違う髪形を頑張っている。最近では服の組み合わせ方を勉強して、ネットでいろんなかわいい服を買っていたりもする。
バイトでも永野さんと普通に接した。でもまだ永野さんは少し不機嫌そう。私と髙宮くんが付き合っていないのが分かったから不機嫌な理由なんてないはずなのに。その理由はわかっていないけど、永野さんとはこれから仲良くしようと思っている。
そして最近はよく出かけるようになった。といっても髙宮くんと公園で散歩だとか、前に言ったメイク屋さんでマイク道具を買うだとか、ヒャッキンでゴムを買うだとかだけど。でも、それはメイクもできてヘアアレもできて服もかわいくて。自分に自信がついたんからできることだと思う。だから外に出ることに抵抗なんてなくたっちゃたし、マスクをつけなくても外に出れる。むしろ髙宮くんがいる学校にまた行きたいな、なんて考えている。
でも、今日は大きなショッピングモール。大きいから同じ学校の人が一人や二人、いるかもしれない。もしかしたら、彼がいるグループも。でも私はもう会いたくないなんてことは思わなかった。むしろ、私がここまで変われたことを自慢してやりたい。そう思うようにまでなっていた。
ピンポーンピンポーン♪
「あっ、来た！」
私は鏡でマイクと髪の毛を確認してカバンの持ち物もチェックして、最後に玄関の全身鏡でワンピースの裾を見て玄関のドアを開ける。
「こんにちはー」
玄関の前には私服の髙宮くんが立っている。バイトの時も私服だけど、バイトの時はカジュアルな、着替えやすい私服。あと土日のレッスンの時も私服だけど、今日は少しオシャレをしているみたい。何となくだけど、そんな感じがする。制服の髙宮くんやいつもの私服の髙宮くんもかっこいいけど、おしゃれした髙宮くんもかっこいい！白いTシャツの上に青のストライプのシャツをボタンを開けてきていて、ズボンは黒いデニム、靴は白いスニーカーになっている。
ちなみに、私も少し、っていうか私的には結構おしゃれしてきた。服は一番お気に入りの薄い紫色のワンピース。靴は履きなれないけどかわいいブーツでメイクもしてきた。髪の毛は両サイドをみつあみにして後ろでくくる、ハーフアップ。後ろの毛はコテで巻いてきた。
……おしゃれしたんだけど、髙宮くんは、なんて思っているのかな？
「あれ？早坂さん、今日髪の毛とかメイクとか服も手、入れてるね」
早速気づいてくれた……！そんなことが顔に出ていたのかもしれない。私はその続きを髙宮くんに求めるために、髙宮くんの顔を見る。
数秒髙宮くんと見つめ合う。そしたら髙宮くんが何の勝負か分からないけど勝負に負けて。
「……かわいいじゃん」
髙宮くんが私が望んでいた続きを言ってくれた。
「……ほんと？髙宮くんも、かっこいいよ……！」
自分で続きを求めたくせに、髙宮くんに言われると、素直に照れちゃう。だから顔を髙宮くんの反対方向へ向けて、少し下を向く。
二人とも何もしゃべらない。無言。でも私はこの無言は嫌いではなかった。
よく知っているところを歩いているはずなのに、普段こんなにオシャレしないからなんだか新鮮に感じる。それに、なんだか今は堂々と歩ける。それが自分に自信がついたからなのか、それとも髙宮くんの隣を歩いているからなのかは分からないけど。
駅について私は切符を買って、髙宮くんはカードで改札を通る。運がいいことに、ちょっと待つだけですぐに電車が来た。ドアが開いて出る人が電車を降りるのを待ってから電車に乗り込む。
電車に揺られている間は、色々話して、笑って。そしたら７駅なんてあっという間だった。たくさん話したのに話のネタはつきない。髙宮くんとなら永遠と話していられそう。
駅を出て道なりに進んでいくと、大きなホールに出る。そこからはもうショッピングモール。
「まだお昼までは時間あるね……先に浴衣見よっか！」
髙宮くんがそういったので、私も時計を見る。１１時ピッタリだ！なんだかすごいな、と思うと同時に確かに時間がある。
「そうだね、先に見ておこうかな」
そういって私たちは浴衣屋さんがある二階へと向かう。エレベーターで二階に上がると……
「……え！かわいい！」
上がったすぐにはかわいい浴衣が何着も、展示されていた。薄いピンクの朝顔の柄や、元気な黄色いひまわりの柄。シンプルだけどきれいな水色の浴衣や白に紺色のチェックの柄もある。とにかく、たくさん。
「お店にはもっといっぱいいろんな種類の浴衣があるはずだよ」
髙宮くんが説明してくれる。高宮くん、お店に来たことがあるのかな？知っているような言い方だったけど……。
髙宮くんが右に曲がって前に進んでいく。お店に向かうのかな？私も後に続く。
「じゃじゃーん！」
髙宮くんが止まると目の前には一軒のかわいいお店。そのお店は……
「うわぁ……！」
かわいい浴衣のお店。さっきのところもすごかったけど、やっぱりお店の方がすごい！半分以上が女の子用の浴衣であとは男の子用の浴衣、子供用、あと帯や髪飾りやげたも置いてある。お店の中は、一言でいうとカラフル。浴衣だけでも赤や黄色などの明るい系や緑や青などのお清楚系、紫や黒のかっこいい系や白やベージュのおしゃれなのもある。帯も浴衣に負けないくらいたくさんの種類があって色だけじゃなくて形も違う。すごい全部かわいいなぁと見とれていると。
こんなにかわいかったら、値段も高そうじゃない……？
そんな不安が頭をよぎった。髙宮くんは安いって言っていたけど、とってもかわいいから不安になちゃって。値段を見てみると……
「さ、３０００円⁉」
私は前もって浴衣の値段をネットで調べてみていた。そしたら安くても４０００円ぐらいで高い奴なんかは１００００円を超えているものもあって、値段はどのくらいだろうと心配していたのに……。
「ほら、安いでしょ？でも安く見えないし、生地もちゃんとしているし、かわいいし。ここの店、めっちゃいいでしょ！」
ほんとに、どの浴衣もかわいくて、でも肌触りも気持ちよくて、安いのに安く見えない。髙宮くんが知っているお店って、どのお店もいい店だな……。
「しかもね、安いものはもっと安いんだよ！」
「え⁉これよりも安いものがあるの？」
「ほら、こっちこっち」
そういって髙宮くんは奥へと進んでいく。私も後についていくと、またたくさんの浴衣。その襟元についている値札を見ると……
「２０００円……！」
「そうそう。安いでしょー？中には中古でちょっと汚れていたりするのもあるんだけど、めっちゃいいやつもあるんだよ！」
髙宮くんはこの店のいいところを次々と言っていって、どんどんセールスマンのようになっている。でも、その顔は、目はキラキラしていて。でもどこか真剣な顔で一生懸命話していて。そういえば、どうして髙宮くんは私を気にかけてくれたのだろう？私に一生懸命に話す人なんているんだ。
そんなことを考えている間にもどんどん髙宮くんは話を進めていっている。そうしている事約一時間。もうすぐ１２時になろうとしている時刻になっていた。
「……もうお昼の時間だね。浴衣を決めるのは午後からにして、ご飯食べにいこっか！」
「うん」
ご飯はショッピングモールの４階にあるフードコートで食べることになっている。個々のお店は全部がでかいだけあって、ご飯のメニューもたくさんある。ハンバーガーやラーメン、中華料理にピザ、デザート用にかドーナツ屋さんやアイスクリームショップもある。
「ご飯は何にしよっかなー」
髙宮くんが鼻歌交じりにそう言って周りを見渡す。私も何を食べよう……。
「ラーメン食べたいな。でも、チャーハンとかもおいしそう。ギョーザと。でも期間限定の半熟卵バーガーもおいしそう……」
髙宮くんは大分迷い中。私はシンプルにハンバーガーでいいかな。
「私はてりやきバーガーにしようかな」
「てりやきバーバーね！おいしいよねぇー。俺はどうしよう……」
ただのお昼ごはんのはずなのに、髙宮くんはすごい悩んでる。
あれもいい、これもいいとたくさん悩んだ挙句、私はてりやきバーガーのセット、髙宮くんは半熟卵バーのセットを食べることにした。バーガーショップに注文して、出来上がるのを待つ。その間に午後からの予定の話を髙宮くんとしていた。
「……じゃあ、まずは浴衣買うでしょー？次はぶらぶらして、いい店があったら見て、みたいな感じでいい？」
「うん！」
予定が決まり終わると注文した時に渡されたカードがぶるぶるなって、ハンバーガーも出来上がったことを知らせてくれた。
ハンバーガーを取りに行き、席に戻ってきて。
「「いただきます！」」
ご飯が食べ終わってまた二階の浴衣売り場へ戻る。
「さて、じゃあ絞り込もうか」
髙宮くんがたくさんの浴衣を見てそう言う。
「じゃあこれ可愛いな、と思うやつ、どんどん言っていって！その中から決めよう！」
そういわれたので私はどんどん選んでいく。これ可愛いな、これもかわいいな、これ着てみたいな、などとたくさん出し合って、その中から絞り込む。そしてやっと３着に絞り込んだところ。
「うーん。どれにしよう……」
私は今、とても悩み中。
一つ目はクリーム色に明るい色の水玉模様がたくさんかいてある浴衣。値段は３０００円。ちょっと高いけど、夏って感じがするし、カラフルなのもかわいい。
二つ目は落ち着いた、でもきれいな水色に黄色のひまわりが書いてあるもの。値段は２０００円でちょっとお安め。安いし、きれいな色だし、お気に入りの着物。
そして三つめは薄い紫にピンクの朝顔が書いていて、とてもかわいい浴衣。値段はさっきと同じ２０００円。色もがらも好きで、これもいいと思う。
「うーんと、ね。早坂さんはこれが似合いそうかな」
髙宮くんが指さしたのは……三つ目の浴衣。私もこれがいいと思ってたし、髙宮くんに似合ってるって言われたら、これしかなくなるじゃん……！
「そうだよね！これにする！」
これを着て髙宮くんと夏祭り――考えただけでもワクワクしてくる。
この浴衣を持ってレジへ向かう。お会計を済ませてお店を出る。そのあとはいろんなお店をぶらぶらして、もう帰ろうかってことで帰ってきた。
「ばいばーい」
髙宮くんが手を振ってくれる。
「うん、ばいばい」
私も手を振り返す。髙宮くんと夏祭り。今日浴衣を買って。
今日はとっても楽しくて、そんな時間は意地悪なのか、一瞬で過ぎ去っていった。
ちょっと熱くなってきた７月下旬の土曜日。久しぶりに聞いた音に私は過剰なほど反応してスマホを見る。ホームには幼稚園くらいの小さい可愛い女の子が写った写真のアイコン。これは、髙宮くん！
急いで開くとそこにはこんな文字。
『早坂さーん！夏休みって空いてる？』
私は悲しいことに夏休みに一緒にどこかへ行ってくれる友達がいないので、夏休みは全然予定が決まっていない。夏休みだから、何か張り切って大きい絵をかいてみるのもいいかもなぁと思っていたぐらいで。
『夏休みはいつでも暇だよー』
そう送ると、なんだかこれってカノカレの会話みたいだな、と思いうれしくなる。するとすぐに髙宮くんからの返信が来る。
『まだ先の話なんだけど、８月の２７日に夏祭りがあって、早坂さんと一緒に行けたらいいなって思って』
これって……デートのおさそい？ってバカバカ！髙宮くんはそんなつもりなくて、ただ夏祭りが行きたいだけだって！でも、髙宮くんは友達がいっぱいいそうなのに、その中の私と夏祭りが行きたいってこと……？
こんな風に勝手にいい方向に考えて、否定して、でも可能性もある……っていろんなことがぐるぐる頭の中に渦巻く。でも、頭は混乱しているはずなのに、手は冷静で、ちゃんと私の気持ちを正直に書いていっていた。
『私も髙宮くんと行きたい！』
冷静のはずだけど、今すぐにでも夏祭りに行きたい気持ちが文字からは少し出ている。ついビックリマークを付けちゃったけど、とても楽しみなことが髙宮くんにばれませんように、そう願った。
『じゃあ、行こうね！』
髙宮くんもビックリマークをつけている。……私と同じくらい、楽しみなのかな。そんな小さいことも気にしてしまう。少しの間、やり取りしたメッセージを見返していると、髙宮くんからメッセージが。
『でさ、浴衣とか、着ていく？』
浴衣かぁ。髙宮くんに浴衣姿を見てもらいたい多いけど……私は、浴衣を持っていない。
『私、浴衣は持ってないや』
髙宮くんに見せたい、という事は伏せておいて、そう返信した。
『それでなんだけど、浴衣、一緒に買いに行かない？』
一緒に買いに行く？髙宮くんと？考えるよりも先に、指が動く。
『行きたい！』
『よかった。それで、あそこの大きいショッピングモールに安いけどかわいい浴衣屋さんがあるんだけどそこで買うのはどう？』
そんなところ、あるんだぁ。大きいショッピングモールは知っているけど、私は言ったことがないからどんなお店があるかは知らない。でも髙宮くんがどう？って言っているお店だからきっとかわいい浴衣がいっぱいあるんだろうなぁ。
『うん、あそこでいいよ！』
私はどこか分からないけど、とりあえずそう送る。
『じゃあ……』
そのあとに予定と時間を決めて話は終了。もっとしゃべりたいとは思ったけど、ずっと話していても迷惑だろうし、しつこい女とは思われたくないから……。
買いに行くのは明日、日曜日。午前中の１０時に髙宮くんが私の家に来てくれる。ショッピングモールまでは駅まで５分くらい歩いて、７駅電車で運んでもらって、駅を降りると目の前にショッピングモール！って感じ。お昼ごはんはそこで食べて、そのあとに浴衣やそのほかに普通の服も見てみようってことでぶらぶらすることになっている。髙宮くんと半日、一緒にいる……そう思うと楽しみで、うれしくて、いろんな気持ちでいっぱいだった。
明日が楽しみ。私はとろとろと過ぎていく時間に、ただただ明日を待っていた。
私はあの日――永野さんが髙宮くんの事が好きって聞いた日の夜は、たくさん泣いた。でも、深夜に冷静になって考えてみると、永野さんはまだ髙宮くんと付き合っているわけではない。だってあの時私に髙宮くんと付き合っているのか聞いてきたから。だったら、永野さんも私も、まだ同じスタートライン。永野さんの方がずっと前から知っていて、好きかもしれないけど、私は髙宮くんと毎日会っている。だから同じスタートラインから早くゴールにたどり着けばいいだけ。どこがゴールなのかは分からないけど……。でも、まぁ、ポジティブに考えることにした。私はつり合わないとかは考えないで。
だから次の日からはいつも通り髙宮くんと会って、接した。レッスンもバイトがある日以外は毎日している。そのおかげでメイクもどんどん上手になっていて、今では私一人でメイクができるようになった。それに、いろんな種類のメイクも覚えて、今日の服に合ったメイクを選んでするようになっている。ヘアアレもできるものが増えて、だいたい毎日違う髪形を頑張っている。最近では服の組み合わせ方を勉強して、ネットでいろんなかわいい服を買っていたりもする。
バイトでも永野さんと普通に接した。でもまだ永野さんは少し不機嫌そう。私と髙宮くんが付き合っていないのが分かったから不機嫌な理由なんてないはずなのに。その理由はわかっていないけど、永野さんとはこれから仲良くしようと思っている。
そして最近はよく出かけるようになった。といっても髙宮くんと公園で散歩だとか、前に言ったメイク屋さんでマイク道具を買うだとか、ヒャッキンでゴムを買うだとかだけど。でも、それはメイクもできてヘアアレもできて服もかわいくて。自分に自信がついたんからできることだと思う。だから外に出ることに抵抗なんてなくたっちゃたし、マスクをつけなくても外に出れる。むしろ髙宮くんがいる学校にまた行きたいな、なんて考えている。
でも、今日は大きなショッピングモール。大きいから同じ学校の人が一人や二人、いるかもしれない。もしかしたら、彼がいるグループも。でも私はもう会いたくないなんてことは思わなかった。むしろ、私がここまで変われたことを自慢してやりたい。そう思うようにまでなっていた。
ピンポーンピンポーン♪
「あっ、来た！」
私は鏡でマイクと髪の毛を確認してカバンの持ち物もチェックして、最後に玄関の全身鏡でワンピースの裾を見て玄関のドアを開ける。
「こんにちはー」
玄関の前には私服の髙宮くんが立っている。バイトの時も私服だけど、バイトの時はカジュアルな、着替えやすい私服。あと土日のレッスンの時も私服だけど、今日は少しオシャレをしているみたい。何となくだけど、そんな感じがする。制服の髙宮くんやいつもの私服の髙宮くんもかっこいいけど、おしゃれした髙宮くんもかっこいい！白いTシャツの上に青のストライプのシャツをボタンを開けてきていて、ズボンは黒いデニム、靴は白いスニーカーになっている。
ちなみに、私も少し、っていうか私的には結構おしゃれしてきた。服は一番お気に入りの薄い紫色のワンピース。靴は履きなれないけどかわいいブーツでメイクもしてきた。髪の毛は両サイドをみつあみにして後ろでくくる、ハーフアップ。後ろの毛はコテで巻いてきた。
……おしゃれしたんだけど、髙宮くんは、なんて思っているのかな？
「あれ？早坂さん、今日髪の毛とかメイクとか服も手、入れてるね」
早速気づいてくれた……！そんなことが顔に出ていたのかもしれない。私はその続きを髙宮くんに求めるために、髙宮くんの顔を見る。
数秒髙宮くんと見つめ合う。そしたら髙宮くんが何の勝負か分からないけど勝負に負けて。
「……かわいいじゃん」
髙宮くんが私が望んでいた続きを言ってくれた。
「……ほんと？髙宮くんも、かっこいいよ……！」
自分で続きを求めたくせに、髙宮くんに言われると、素直に照れちゃう。だから顔を髙宮くんの反対方向へ向けて、少し下を向く。
二人とも何もしゃべらない。無言。でも私はこの無言は嫌いではなかった。
よく知っているところを歩いているはずなのに、普段こんなにオシャレしないからなんだか新鮮に感じる。それに、なんだか今は堂々と歩ける。それが自分に自信がついたからなのか、それとも髙宮くんの隣を歩いているからなのかは分からないけど。
駅について私は切符を買って、髙宮くんはカードで改札を通る。運がいいことに、ちょっと待つだけですぐに電車が来た。ドアが開いて出る人が電車を降りるのを待ってから電車に乗り込む。
電車に揺られている間は、色々話して、笑って。そしたら７駅なんてあっという間だった。たくさん話したのに話のネタはつきない。髙宮くんとなら永遠と話していられそう。
駅を出て道なりに進んでいくと、大きなホールに出る。そこからはもうショッピングモール。
「まだお昼までは時間あるね……先に浴衣見よっか！」
髙宮くんがそういったので、私も時計を見る。１１時ピッタリだ！なんだかすごいな、と思うと同時に確かに時間がある。
「そうだね、先に見ておこうかな」
そういって私たちは浴衣屋さんがある二階へと向かう。エレベーターで二階に上がると……
「……え！かわいい！」
上がったすぐにはかわいい浴衣が何着も、展示されていた。薄いピンクの朝顔の柄や、元気な黄色いひまわりの柄。シンプルだけどきれいな水色の浴衣や白に紺色のチェックの柄もある。とにかく、たくさん。
「お店にはもっといっぱいいろんな種類の浴衣があるはずだよ」
髙宮くんが説明してくれる。高宮くん、お店に来たことがあるのかな？知っているような言い方だったけど……。
髙宮くんが右に曲がって前に進んでいく。お店に向かうのかな？私も後に続く。
「じゃじゃーん！」
髙宮くんが止まると目の前には一軒のかわいいお店。そのお店は……
「うわぁ……！」
かわいい浴衣のお店。さっきのところもすごかったけど、やっぱりお店の方がすごい！半分以上が女の子用の浴衣であとは男の子用の浴衣、子供用、あと帯や髪飾りやげたも置いてある。お店の中は、一言でいうとカラフル。浴衣だけでも赤や黄色などの明るい系や緑や青などのお清楚系、紫や黒のかっこいい系や白やベージュのおしゃれなのもある。帯も浴衣に負けないくらいたくさんの種類があって色だけじゃなくて形も違う。すごい全部かわいいなぁと見とれていると。
こんなにかわいかったら、値段も高そうじゃない……？
そんな不安が頭をよぎった。髙宮くんは安いって言っていたけど、とってもかわいいから不安になちゃって。値段を見てみると……
「さ、３０００円⁉」
私は前もって浴衣の値段をネットで調べてみていた。そしたら安くても４０００円ぐらいで高い奴なんかは１００００円を超えているものもあって、値段はどのくらいだろうと心配していたのに……。
「ほら、安いでしょ？でも安く見えないし、生地もちゃんとしているし、かわいいし。ここの店、めっちゃいいでしょ！」
ほんとに、どの浴衣もかわいくて、でも肌触りも気持ちよくて、安いのに安く見えない。髙宮くんが知っているお店って、どのお店もいい店だな……。
「しかもね、安いものはもっと安いんだよ！」
「え⁉これよりも安いものがあるの？」
「ほら、こっちこっち」
そういって髙宮くんは奥へと進んでいく。私も後についていくと、またたくさんの浴衣。その襟元についている値札を見ると……
「２０００円……！」
「そうそう。安いでしょー？中には中古でちょっと汚れていたりするのもあるんだけど、めっちゃいいやつもあるんだよ！」
髙宮くんはこの店のいいところを次々と言っていって、どんどんセールスマンのようになっている。でも、その顔は、目はキラキラしていて。でもどこか真剣な顔で一生懸命話していて。そういえば、どうして髙宮くんは私を気にかけてくれたのだろう？私に一生懸命に話す人なんているんだ。
そんなことを考えている間にもどんどん髙宮くんは話を進めていっている。そうしている事約一時間。もうすぐ１２時になろうとしている時刻になっていた。
「……もうお昼の時間だね。浴衣を決めるのは午後からにして、ご飯食べにいこっか！」
「うん」
ご飯はショッピングモールの４階にあるフードコートで食べることになっている。個々のお店は全部がでかいだけあって、ご飯のメニューもたくさんある。ハンバーガーやラーメン、中華料理にピザ、デザート用にかドーナツ屋さんやアイスクリームショップもある。
「ご飯は何にしよっかなー」
髙宮くんが鼻歌交じりにそう言って周りを見渡す。私も何を食べよう……。
「ラーメン食べたいな。でも、チャーハンとかもおいしそう。ギョーザと。でも期間限定の半熟卵バーガーもおいしそう……」
髙宮くんは大分迷い中。私はシンプルにハンバーガーでいいかな。
「私はてりやきバーガーにしようかな」
「てりやきバーバーね！おいしいよねぇー。俺はどうしよう……」
ただのお昼ごはんのはずなのに、髙宮くんはすごい悩んでる。
あれもいい、これもいいとたくさん悩んだ挙句、私はてりやきバーガーのセット、髙宮くんは半熟卵バーのセットを食べることにした。バーガーショップに注文して、出来上がるのを待つ。その間に午後からの予定の話を髙宮くんとしていた。
「……じゃあ、まずは浴衣買うでしょー？次はぶらぶらして、いい店があったら見て、みたいな感じでいい？」
「うん！」
予定が決まり終わると注文した時に渡されたカードがぶるぶるなって、ハンバーガーも出来上がったことを知らせてくれた。
ハンバーガーを取りに行き、席に戻ってきて。
「「いただきます！」」
ご飯が食べ終わってまた二階の浴衣売り場へ戻る。
「さて、じゃあ絞り込もうか」
髙宮くんがたくさんの浴衣を見てそう言う。
「じゃあこれ可愛いな、と思うやつ、どんどん言っていって！その中から決めよう！」
そういわれたので私はどんどん選んでいく。これ可愛いな、これもかわいいな、これ着てみたいな、などとたくさん出し合って、その中から絞り込む。そしてやっと３着に絞り込んだところ。
「うーん。どれにしよう……」
私は今、とても悩み中。
一つ目はクリーム色に明るい色の水玉模様がたくさんかいてある浴衣。値段は３０００円。ちょっと高いけど、夏って感じがするし、カラフルなのもかわいい。
二つ目は落ち着いた、でもきれいな水色に黄色のひまわりが書いてあるもの。値段は２０００円でちょっとお安め。安いし、きれいな色だし、お気に入りの着物。
そして三つめは薄い紫にピンクの朝顔が書いていて、とてもかわいい浴衣。値段はさっきと同じ２０００円。色もがらも好きで、これもいいと思う。
「うーんと、ね。早坂さんはこれが似合いそうかな」
髙宮くんが指さしたのは……三つ目の浴衣。私もこれがいいと思ってたし、髙宮くんに似合ってるって言われたら、これしかなくなるじゃん……！
「そうだよね！これにする！」
これを着て髙宮くんと夏祭り――考えただけでもワクワクしてくる。
この浴衣を持ってレジへ向かう。お会計を済ませてお店を出る。そのあとはいろんなお店をぶらぶらして、もう帰ろうかってことで帰ってきた。
「ばいばーい」
髙宮くんが手を振ってくれる。
「うん、ばいばい」
私も手を振り返す。髙宮くんと夏祭り。今日浴衣を買って。
今日はとっても楽しくて、そんな時間は意地悪なのか、一瞬で過ぎ去っていった。
