スポッ
やけに静かに感じる火曜日の部屋に響いたラインを送る音。私は今、髙宮くんをLINEを送ったところ。どんなメッセージがいいか、どんな言葉はだめなのか、何度も何度も考えて、やっと思いついた一言。
『髙宮くん、今日もレッスン、来てくれる?』
ものすっごい普通の言葉で普通のやり取りな気がするけど、今の私にはそれが精いっぱいだった。ほんとは聞きたいことがいっぱいある。「大丈夫?」とか「何でも相談していいよ」とか。でも、髙宮くんの事を聞くのには私にはまだ早いような気がしたから、とりあえずレッスンをしてくれるかだけを聞いてみた。
たったそれだけの言葉なのに、このメッセージは何度も確認して一番いいメッセージだと思ったのに、送ってしまったらものすごい不安になってきた。
こんな言葉で良かったのか。髙宮くんがもし、レッスンがいやになってたらどうしよう。その前にこのメッセージすら見てくれなくて、私と絶交したかったら。そしたら私、髙宮くんとの接点がなくなっちゃう。こんな終わり方で一生あえなくなるのは嫌だ。もっと、もっと髙宮くんと話して、お買い物にも行って、メイクもして、ヘアアレもして、かわいくなった私を見てほしかったのに……。
そんなたくさんの不安を抱えながら返信を待つ。メッセージを送ったのは12時31分。今、33分。まだたった2分しかたっていない。一応昼休みの時間に送ったけど、昼休みに必ずしも髙宮くんがスマホを見るとは限らない。だけど私はスマホを見ながら髙宮くんからの返事を待つ。今、この待っている時間がいつもより遅く感じる。41分。メッセージを送ってから10分経った。やっぱりすぐには見ないかぁとあきらめかけていると。
ピコン♪
「あっ!髙宮くんから……!」
『うん、行くつもり』
よかった……きょうも来てくれるんだ。さっきまでの不安はもうどっか行っていて、今日も髙宮くんが来てくれるとわかった安心と、髙宮くんが返信してくれたうれしさで気持ちがいっぱいだった。それよりも、何か返した方がいいのかな?でも『行くつもり』の後に、なんて返したらいいんだろう?「そっか」っだったらそっけなさすぎるし、「よかったー」なら本当に思ったんだけどなんか変に思われそうだし……。
スポッ
なんだかいろいろ考えて、でも早く返信しなくてはという焦りで、やっと送った言葉は『ありがとう』。なんだか、今の気持ちにピッタリな言葉な気がしたから。送ってからありがとうも変かな?って思ったけど、送った瞬間に既読がついて『どういたしまして』って返ってきたから大丈夫みたい。
きょうも髙宮くんが来てくれる。そのことだけで、私の胸はドキドキして、実際に髙宮くんが来た時、私は心臓が持つか心配になった。
ピンポーンピンポーン♪
「髙宮くんだ……!」
私は髙宮くんにちょっとでもいいところを見せようという謎の気持ちがわいてきたので、いまさらながらも部屋の片づけと掃除をしていた。気づいたら放課後の16時30分。掃除に夢中で時計なんて全然気にしていなかったからインターホンの音でもうこんな時間なのか、と知った。
私は今掃除機をかけていたので掃除機を片付け、手を洗って玄関に急いでいく。
掃除機の音、聞こえていたかな?なんだか掃除して張り切ってるとか思われないかな?などと無駄に不安になってしまう。玄関のドアを開けると、いつも通りの髙宮くんが立っていた。
「あ、早坂さん。こんにちはー」
「うん、こんにちは」
子の髙宮くんは平気なのか、平気を演じているのかは今の私には分からない。だから髙宮くんが話してくれるまで待つ。髙宮くんがいつか本当の自分を話してくれると信じて。
「じゃあ、入って」
「はーい、おじゃましまーす」
そのあとは前と同じように新しいヘアアレを教えてくれたり、日曜日に買ったアイシャドウとリップを使ってメイクをした。アイシャドウはキラキラのラメが入っていて、それがいい感じに私の肌にのってくれて可愛くて。リップは私がリップの色を見て選んだ色だったから本当にその色が出てくれるのか心配だったけど、見た目以上にきれいな色が出てくれたから気分が上がり。せっかくだから写真撮ろうよ!という事で、今私は髙宮くんにスマホのカメラを向けられて緊張している。
「はい、早坂さーん、笑って笑って―?」
頑張って笑顔を作ってみる。でも、なんだかぎこちない……。自分でもそう感じるのだから、髙宮くんはもっと私の笑顔をぎこちなく思っているのだろう。髙宮くんの苦笑いから、そう感じた。
「じゃあえっとねー……。あ!」
髙宮くんが何かを思いついた、って顔をして、にっこり笑う。あの、いたずら顔で。
「早坂さーん……1+1は?」
……え?なんだかもっと面白いことを言うんだろうなーと勝手に期待していた私は、髙宮くんがただの1+1の答えを求めてきたので一瞬頭が動くのをやめた。でも、そのあとすぎにどうしてその問題を聞いたのか、思い出す。
そうだ、前も1+1で笑わせてくれようとしてたな。
前は意味が分からなくてなんだか変な空気になったけれど。でも髙宮くんが笑わせようとしてくれていて、そのことがわかっている私はどう笑えばいいのか困る。そういえば、前、ぎこちない私の笑顔を見た髙宮くんが「笑ってるみたいじゃなくて笑わせてあげる」みたいなこと言ってなかった?その笑わせる方法がこれなのか……って思うと。
なんだか変に笑いがこみあげてくる。
「……っぷ」
とうとう我慢できなくて吹き出してしまったら。
カシャ
髙宮くんが構えているスマホからシャッター音が聞こえてきた。
「……いい笑顔じゃん」
「え?え?」
もしかして……今の、撮られてた?
いや、今の顔、ぜんっぜん可愛い顔じゃなかったと思うんだけど……。
「ちょ、ちょっと待って髙宮くん……!今の写真、消して……!」
「どうして―?今の顔、めっちゃ可愛かったよ?」
「そんなはずないじゃん!絶対今の顔はかわいくないもん!」
「じゃあ見てみる―?」
そういって髙宮くんがさっきの写真を見せようとしてくる。
「見せないで!見たくない―!早く消して―!」
「いやー消しはしないかな。何なら、俺のスマホのホーム画面にでもしとこうか」
「絶対やめて!!」
今の髙宮くんの顔ならホーム画面にされそうだったので、本気でとめる。まだ消されなくても、髙宮くんにあのかわいくない顔、ホーム画面にされたくない!あ、でもホーム画面にしてもらえば、いつでも私の事を見てもらえる……?いやいや、でも、髙宮くんにはかわいいところだけを見られたいもん……!
なんて頭の中はパニック状態。そんな私を髙宮くんは、相変わらずのいたずらっ子のような笑顔で見ていた。
最近でちょっと気まずくなって、距離が遠くなったかな……なんて思ってもいたけど、この調子だとそんなことはなさそう。そう、私はちょっとだけ安心した。
「じゃあ、そろそろ帰ろうかな」
そう髙宮くんが言い出したのは18時30分。いつの間にかこんなに時間がたっていたようだ。午前中の時間の遅さが嘘みたい。髙宮くんと一緒にいるとあっという間に時間が過ぎてしまう。もうちょっと一緒にいたかったけど、いつまでも一緒にいたら迷惑だろう。面倒くさい女とも思われたくないし。だから私は「そうだね」と玄関の方に行く。
「じゃあ、ばいばい」
私が手を振る。
「うん、また明日もよろしくね」
髙宮くんもそういって手を振り返してくれる。髙宮くんが帰ろうと一歩出た時。
「ばいばい」
最後の別れの普通のあいさつ。でもその後、髙宮くんが「梨沙ちゃん」と小さな声で言ってくれたのを私は聞き逃さなかった。きれいなふわふわの茶色の髪の毛からちらっと見えた耳は、たぶん夕日のせいだけじゃなくて、ほんのり赤に染まっていた。
そんな私は、髙宮くんがもう帰ってしまったさみしさと、髙宮くんがまた梨沙ちゃんって呼んでくれたうれしさ、そしてまた明日も会いたいっていう楽しみな気持ちでいっぱいだった。
やけに静かに感じる火曜日の部屋に響いたラインを送る音。私は今、髙宮くんをLINEを送ったところ。どんなメッセージがいいか、どんな言葉はだめなのか、何度も何度も考えて、やっと思いついた一言。
『髙宮くん、今日もレッスン、来てくれる?』
ものすっごい普通の言葉で普通のやり取りな気がするけど、今の私にはそれが精いっぱいだった。ほんとは聞きたいことがいっぱいある。「大丈夫?」とか「何でも相談していいよ」とか。でも、髙宮くんの事を聞くのには私にはまだ早いような気がしたから、とりあえずレッスンをしてくれるかだけを聞いてみた。
たったそれだけの言葉なのに、このメッセージは何度も確認して一番いいメッセージだと思ったのに、送ってしまったらものすごい不安になってきた。
こんな言葉で良かったのか。髙宮くんがもし、レッスンがいやになってたらどうしよう。その前にこのメッセージすら見てくれなくて、私と絶交したかったら。そしたら私、髙宮くんとの接点がなくなっちゃう。こんな終わり方で一生あえなくなるのは嫌だ。もっと、もっと髙宮くんと話して、お買い物にも行って、メイクもして、ヘアアレもして、かわいくなった私を見てほしかったのに……。
そんなたくさんの不安を抱えながら返信を待つ。メッセージを送ったのは12時31分。今、33分。まだたった2分しかたっていない。一応昼休みの時間に送ったけど、昼休みに必ずしも髙宮くんがスマホを見るとは限らない。だけど私はスマホを見ながら髙宮くんからの返事を待つ。今、この待っている時間がいつもより遅く感じる。41分。メッセージを送ってから10分経った。やっぱりすぐには見ないかぁとあきらめかけていると。
ピコン♪
「あっ!髙宮くんから……!」
『うん、行くつもり』
よかった……きょうも来てくれるんだ。さっきまでの不安はもうどっか行っていて、今日も髙宮くんが来てくれるとわかった安心と、髙宮くんが返信してくれたうれしさで気持ちがいっぱいだった。それよりも、何か返した方がいいのかな?でも『行くつもり』の後に、なんて返したらいいんだろう?「そっか」っだったらそっけなさすぎるし、「よかったー」なら本当に思ったんだけどなんか変に思われそうだし……。
スポッ
なんだかいろいろ考えて、でも早く返信しなくてはという焦りで、やっと送った言葉は『ありがとう』。なんだか、今の気持ちにピッタリな言葉な気がしたから。送ってからありがとうも変かな?って思ったけど、送った瞬間に既読がついて『どういたしまして』って返ってきたから大丈夫みたい。
きょうも髙宮くんが来てくれる。そのことだけで、私の胸はドキドキして、実際に髙宮くんが来た時、私は心臓が持つか心配になった。
ピンポーンピンポーン♪
「髙宮くんだ……!」
私は髙宮くんにちょっとでもいいところを見せようという謎の気持ちがわいてきたので、いまさらながらも部屋の片づけと掃除をしていた。気づいたら放課後の16時30分。掃除に夢中で時計なんて全然気にしていなかったからインターホンの音でもうこんな時間なのか、と知った。
私は今掃除機をかけていたので掃除機を片付け、手を洗って玄関に急いでいく。
掃除機の音、聞こえていたかな?なんだか掃除して張り切ってるとか思われないかな?などと無駄に不安になってしまう。玄関のドアを開けると、いつも通りの髙宮くんが立っていた。
「あ、早坂さん。こんにちはー」
「うん、こんにちは」
子の髙宮くんは平気なのか、平気を演じているのかは今の私には分からない。だから髙宮くんが話してくれるまで待つ。髙宮くんがいつか本当の自分を話してくれると信じて。
「じゃあ、入って」
「はーい、おじゃましまーす」
そのあとは前と同じように新しいヘアアレを教えてくれたり、日曜日に買ったアイシャドウとリップを使ってメイクをした。アイシャドウはキラキラのラメが入っていて、それがいい感じに私の肌にのってくれて可愛くて。リップは私がリップの色を見て選んだ色だったから本当にその色が出てくれるのか心配だったけど、見た目以上にきれいな色が出てくれたから気分が上がり。せっかくだから写真撮ろうよ!という事で、今私は髙宮くんにスマホのカメラを向けられて緊張している。
「はい、早坂さーん、笑って笑って―?」
頑張って笑顔を作ってみる。でも、なんだかぎこちない……。自分でもそう感じるのだから、髙宮くんはもっと私の笑顔をぎこちなく思っているのだろう。髙宮くんの苦笑いから、そう感じた。
「じゃあえっとねー……。あ!」
髙宮くんが何かを思いついた、って顔をして、にっこり笑う。あの、いたずら顔で。
「早坂さーん……1+1は?」
……え?なんだかもっと面白いことを言うんだろうなーと勝手に期待していた私は、髙宮くんがただの1+1の答えを求めてきたので一瞬頭が動くのをやめた。でも、そのあとすぎにどうしてその問題を聞いたのか、思い出す。
そうだ、前も1+1で笑わせてくれようとしてたな。
前は意味が分からなくてなんだか変な空気になったけれど。でも髙宮くんが笑わせようとしてくれていて、そのことがわかっている私はどう笑えばいいのか困る。そういえば、前、ぎこちない私の笑顔を見た髙宮くんが「笑ってるみたいじゃなくて笑わせてあげる」みたいなこと言ってなかった?その笑わせる方法がこれなのか……って思うと。
なんだか変に笑いがこみあげてくる。
「……っぷ」
とうとう我慢できなくて吹き出してしまったら。
カシャ
髙宮くんが構えているスマホからシャッター音が聞こえてきた。
「……いい笑顔じゃん」
「え?え?」
もしかして……今の、撮られてた?
いや、今の顔、ぜんっぜん可愛い顔じゃなかったと思うんだけど……。
「ちょ、ちょっと待って髙宮くん……!今の写真、消して……!」
「どうして―?今の顔、めっちゃ可愛かったよ?」
「そんなはずないじゃん!絶対今の顔はかわいくないもん!」
「じゃあ見てみる―?」
そういって髙宮くんがさっきの写真を見せようとしてくる。
「見せないで!見たくない―!早く消して―!」
「いやー消しはしないかな。何なら、俺のスマホのホーム画面にでもしとこうか」
「絶対やめて!!」
今の髙宮くんの顔ならホーム画面にされそうだったので、本気でとめる。まだ消されなくても、髙宮くんにあのかわいくない顔、ホーム画面にされたくない!あ、でもホーム画面にしてもらえば、いつでも私の事を見てもらえる……?いやいや、でも、髙宮くんにはかわいいところだけを見られたいもん……!
なんて頭の中はパニック状態。そんな私を髙宮くんは、相変わらずのいたずらっ子のような笑顔で見ていた。
最近でちょっと気まずくなって、距離が遠くなったかな……なんて思ってもいたけど、この調子だとそんなことはなさそう。そう、私はちょっとだけ安心した。
「じゃあ、そろそろ帰ろうかな」
そう髙宮くんが言い出したのは18時30分。いつの間にかこんなに時間がたっていたようだ。午前中の時間の遅さが嘘みたい。髙宮くんと一緒にいるとあっという間に時間が過ぎてしまう。もうちょっと一緒にいたかったけど、いつまでも一緒にいたら迷惑だろう。面倒くさい女とも思われたくないし。だから私は「そうだね」と玄関の方に行く。
「じゃあ、ばいばい」
私が手を振る。
「うん、また明日もよろしくね」
髙宮くんもそういって手を振り返してくれる。髙宮くんが帰ろうと一歩出た時。
「ばいばい」
最後の別れの普通のあいさつ。でもその後、髙宮くんが「梨沙ちゃん」と小さな声で言ってくれたのを私は聞き逃さなかった。きれいなふわふわの茶色の髪の毛からちらっと見えた耳は、たぶん夕日のせいだけじゃなくて、ほんのり赤に染まっていた。
そんな私は、髙宮くんがもう帰ってしまったさみしさと、髙宮くんがまた梨沙ちゃんって呼んでくれたうれしさ、そしてまた明日も会いたいっていう楽しみな気持ちでいっぱいだった。