ピンポーンピンポーン♪
日曜日の14時。インターホンが鳴った。たぶん髙宮くん。昨日は気まずくて、元気がないってわかっていたのに何もせずに背中を見送る事しかできなかった私はそんな自分をどうして何もしなかったのって攻めつつもあった。だからもし髙宮くんが来なかったらどうしようって一回心配すると止まらなくなって、そんなことをずっと考えながらいつもより遅く感じる午前中を過ごしていた。でもこのインターホンが鳴ったとたんにそんな不安はどこかに飛んで行って急いで玄関に向かっている。
「髙宮くん……!」
私は髙宮くんが今日もちゃんと来てくれたうれしさで、食い気味に名前を呼んだ。すると髙宮くんは昨日の事は何もなかったかのようにふるまっていた。昨日の事、すべて。
「早坂さん?どうしたの?もしかして、風邪ひいちゃった……?」
早坂さん……。昨日は名前呼びで、恥ずかしかったけど髙宮くんに『梨沙ちゃん』って言われてうれしかったのに。今日は確かに『早坂さん』って呼んでた。
昨日の事なのに梨沙ちゃんって呼ばれていたのが随分前の事のような気がする。昨日の事なのに、梨沙ちゃんって呼ばれるのがしっくり来ていて、早坂さんって呼ばれるのになぜか違和感がある。なんだか最近距離がちょっと縮まったって思っていたのは私だけだった?ほとんど毎日私の家に来て、風邪ひいたらおかゆ食べさせてくれて、一緒にお買い物に行って、アイアイガサして、髙宮くんの家にも行って、ぶかぶかの服借りて、髪の毛乾かしてもらって。こんなこと、私、初めてされた。初めてした。だから、うれしくて、楽しくて……。
「どうして……『早坂さん』?」
思わず、口に出ていたらしい。髙宮くんがはっとしたような、ちょっと悲しいような顔をした。でもそれは一瞬。瞬きを一回したら髙宮くんは笑顔で、
「もしかして、『梨沙ちゃん』って呼ばれたかった?」
ってあのいたずらっ子のような顔で私の事をからかう。
いや、これはたぶん、うその顔。私はよく小さいころ、いじめられて先生や大人の人に心配されていても、大人なんてだれ一人も信用できなかったからこうやってうその顔で「平気」って言っていた。だから……何となくだけど、分かる。これは偽りの笑顔。本当は髙宮くん、すごい大事なことを隠してるんじゃ……。
そんなことが顔に出ていたのだろう。髙宮くんがどんな風に感じたかは分からないけど、なんだか悲しい、でも笑顔で、
「ごめん、早坂さん。今日、ちょっともう帰るね」
って言った。そして私が呼び止める間もなく、速足で帰っていった。
また、私は何も言えなかった。でも、今日は話せなかったんじゃなくて、話したらいけなかった。ダメだと思った。速足で帰って言った髙宮くんが、目に涙をためて口を食いしばって、泣くのを必死でこらえているかんじだったから。私はあの顔をした髙宮くんに、何も言えなかった。
でも、髙宮くんにそのとても重要そうなことを聞くのは、まだ早い気がした。これは直感的に。髙宮くんにあのことが聞けるのは、たぶんまだ私にはできない。聞いてはいけない。もっともっと髙宮くんに信用してもらえてから、安心してもらえてからじゃないと。そうはわかっていても髙宮くんのために何かしてあげたい。
――髙宮くんが信用、安心できるようにする。それが私のすることなんじゃない?
そう、思った。今じゃなくてもいい。今すぐじゃなくてもいい。またいつか、これからゆっくり話して聞いていけばいい。
髙宮くん、明日も来るかな。私はそれが心配で、楽しみだった。それに……なんだか心臓が、変にドキドキする。これって、まさか……
日曜日の14時。インターホンが鳴った。たぶん髙宮くん。昨日は気まずくて、元気がないってわかっていたのに何もせずに背中を見送る事しかできなかった私はそんな自分をどうして何もしなかったのって攻めつつもあった。だからもし髙宮くんが来なかったらどうしようって一回心配すると止まらなくなって、そんなことをずっと考えながらいつもより遅く感じる午前中を過ごしていた。でもこのインターホンが鳴ったとたんにそんな不安はどこかに飛んで行って急いで玄関に向かっている。
「髙宮くん……!」
私は髙宮くんが今日もちゃんと来てくれたうれしさで、食い気味に名前を呼んだ。すると髙宮くんは昨日の事は何もなかったかのようにふるまっていた。昨日の事、すべて。
「早坂さん?どうしたの?もしかして、風邪ひいちゃった……?」
早坂さん……。昨日は名前呼びで、恥ずかしかったけど髙宮くんに『梨沙ちゃん』って言われてうれしかったのに。今日は確かに『早坂さん』って呼んでた。
昨日の事なのに梨沙ちゃんって呼ばれていたのが随分前の事のような気がする。昨日の事なのに、梨沙ちゃんって呼ばれるのがしっくり来ていて、早坂さんって呼ばれるのになぜか違和感がある。なんだか最近距離がちょっと縮まったって思っていたのは私だけだった?ほとんど毎日私の家に来て、風邪ひいたらおかゆ食べさせてくれて、一緒にお買い物に行って、アイアイガサして、髙宮くんの家にも行って、ぶかぶかの服借りて、髪の毛乾かしてもらって。こんなこと、私、初めてされた。初めてした。だから、うれしくて、楽しくて……。
「どうして……『早坂さん』?」
思わず、口に出ていたらしい。髙宮くんがはっとしたような、ちょっと悲しいような顔をした。でもそれは一瞬。瞬きを一回したら髙宮くんは笑顔で、
「もしかして、『梨沙ちゃん』って呼ばれたかった?」
ってあのいたずらっ子のような顔で私の事をからかう。
いや、これはたぶん、うその顔。私はよく小さいころ、いじめられて先生や大人の人に心配されていても、大人なんてだれ一人も信用できなかったからこうやってうその顔で「平気」って言っていた。だから……何となくだけど、分かる。これは偽りの笑顔。本当は髙宮くん、すごい大事なことを隠してるんじゃ……。
そんなことが顔に出ていたのだろう。髙宮くんがどんな風に感じたかは分からないけど、なんだか悲しい、でも笑顔で、
「ごめん、早坂さん。今日、ちょっともう帰るね」
って言った。そして私が呼び止める間もなく、速足で帰っていった。
また、私は何も言えなかった。でも、今日は話せなかったんじゃなくて、話したらいけなかった。ダメだと思った。速足で帰って言った髙宮くんが、目に涙をためて口を食いしばって、泣くのを必死でこらえているかんじだったから。私はあの顔をした髙宮くんに、何も言えなかった。
でも、髙宮くんにそのとても重要そうなことを聞くのは、まだ早い気がした。これは直感的に。髙宮くんにあのことが聞けるのは、たぶんまだ私にはできない。聞いてはいけない。もっともっと髙宮くんに信用してもらえてから、安心してもらえてからじゃないと。そうはわかっていても髙宮くんのために何かしてあげたい。
――髙宮くんが信用、安心できるようにする。それが私のすることなんじゃない?
そう、思った。今じゃなくてもいい。今すぐじゃなくてもいい。またいつか、これからゆっくり話して聞いていけばいい。
髙宮くん、明日も来るかな。私はそれが心配で、楽しみだった。それに……なんだか心臓が、変にドキドキする。これって、まさか……