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夕暮れどき、夕日の影響で風景がオレンジ色に染められていた。駿人さんを見送るために、玄関まで一緒に向かった。しばらく泣き続けたあと、楓ちゃんが入って来て「駿人~、何うちの娘っ子を泣かしているのよ~」と彼を弄る様子があった。駿人さんも「ち、違いますって、なんというか、えっと~」となんとか反論をしようとしていたけれど、たじたじになっていて、とても愛らしく見えた。二人のやりとりがおかしくて、わたしはついクスクスと笑みをこぼしてしまった。そんなわたしを見て、二人も笑い出した。この幸せの時間がいつまでも続けばいいのにと思えた。笑い合ったあと、楓ちゃんは駿人さんからスケッチブックを受け取り、わたしの絵を観始めた。駿人さんとは、また違う緊張感だ。でもこうして人に観てもらえるなんて久しぶりだ。前がよく親友と描いた絵を観せ合っていた。あのときは、楽しい時間がいつまでも続くものだと思っていた。どこで違ってしまったのだろう。繋がりたいキモチはあるけれど、やっぱり許せないという思いがあった。今、彼女はどうしているのだろうか。それを知る由もない。楓ちゃんはスケッチブックを閉じると、わたしの頭を撫でて「キレイに描けているんだから、もっと自信を持ちな」と言ってくれた。頬を微かに赤く染めつつも「はい」と返事をした。そのあとは三人でお茶をして、現在に至る。オレンジ色に染まる駿人さんに、つい見入ってしまう。同い年と聞いているけれど、とても大人っぽく見える。彼と比べたら、わたしはまだまだ子どもに違いないだろう。ぼーとしていると、急に頬に手を添えられドキッとしてしまった。
「ハルちゃん、もっと自分に自信を持ってもいいよ。キミはとても素敵な人だと思うよ。人のことを落とすようなことを言わないし、むしろ人のことを褒めているんだから。話してて、きっと心がキレイな人なんだろうなって思っていたもん」
「い、いえ、そ、そんなことないですよ。全然キレイなんかじゃありませんよ。わたしにだって、ドロドロしているところもありますよ」
「僕、ハルちゃんのそういうところ好きだなぁ」
「しゅ、駿人さん!」
「ハルちゃん、僕に『さん』なんてつけなくていいよ。『ボン』って呼ぶのに緊張してしまうのであればさ。そうだな『駿人くん』で呼ぶのはどうだろうか」
「え、えっと、じゃ、じゃあ、しゅ、駿人…くん」
「はい、よく出来ました」
何げないやりとりに二人で笑い合った。男の子とこうして話せるだなんて、夢のように感じる。駿人くんを見ると、ほんのりと頬が赤くなっているように見えた。
「ハルちゃん」
「は、はい」
「キミの笑顔、とても素敵だよね」
突然の彼の言葉に、わたしの頭がショートしてしまった。彼は天然なのだろうか。それとも本気で言っているのだろうか。そんなことを言われたら、勘違いしてしまうではないか。それに『キミの笑顔、素敵だよね』だなんて、恋愛ドラマや少女マンガだけのセリフかと思っていた。リアルで言われると、どう反応していいのかわからなくなってしまう。顔を赤くし口をパクパクしていると、駿人くんはおかしそうに笑い「ハルちゃん、またね」と手を振って帰路に就いてしまった。理解が追いつかないまま、わたしは小さく彼に手を振った。彼の姿が見えなくなったころに、わたしの頭にポンッと手が置かれた。本当にどうしてこの人の手はこんなにもやさしいのだろう。不思議で仕方がない。
「悪い奴じゃなかったでしょ。駿人の奴」
「う、うん。駿人くん、すごくやさしい人だった。なんとなくどこか暖かいというか…」
「もしかして、好きになっちゃった。やるなあいつ」
「ち、違うから! もう」
赤くなった頬を隠すようにして、わたしは家の中へと入っていった。楓ちゃんもいたずらげに笑みを浮かべて、中に入り、玄関を静かに閉めた。
これからどんな出会いをするかは、まだわたしには想像することは出来ない。だけれど、彼女達と一緒ならば、再び前に進むことが出来るかもしれない。どこかそんな期待をしていた。
夜空に光る星達はそのことを知る由もないだろう。
夕暮れどき、夕日の影響で風景がオレンジ色に染められていた。駿人さんを見送るために、玄関まで一緒に向かった。しばらく泣き続けたあと、楓ちゃんが入って来て「駿人~、何うちの娘っ子を泣かしているのよ~」と彼を弄る様子があった。駿人さんも「ち、違いますって、なんというか、えっと~」となんとか反論をしようとしていたけれど、たじたじになっていて、とても愛らしく見えた。二人のやりとりがおかしくて、わたしはついクスクスと笑みをこぼしてしまった。そんなわたしを見て、二人も笑い出した。この幸せの時間がいつまでも続けばいいのにと思えた。笑い合ったあと、楓ちゃんは駿人さんからスケッチブックを受け取り、わたしの絵を観始めた。駿人さんとは、また違う緊張感だ。でもこうして人に観てもらえるなんて久しぶりだ。前がよく親友と描いた絵を観せ合っていた。あのときは、楽しい時間がいつまでも続くものだと思っていた。どこで違ってしまったのだろう。繋がりたいキモチはあるけれど、やっぱり許せないという思いがあった。今、彼女はどうしているのだろうか。それを知る由もない。楓ちゃんはスケッチブックを閉じると、わたしの頭を撫でて「キレイに描けているんだから、もっと自信を持ちな」と言ってくれた。頬を微かに赤く染めつつも「はい」と返事をした。そのあとは三人でお茶をして、現在に至る。オレンジ色に染まる駿人さんに、つい見入ってしまう。同い年と聞いているけれど、とても大人っぽく見える。彼と比べたら、わたしはまだまだ子どもに違いないだろう。ぼーとしていると、急に頬に手を添えられドキッとしてしまった。
「ハルちゃん、もっと自分に自信を持ってもいいよ。キミはとても素敵な人だと思うよ。人のことを落とすようなことを言わないし、むしろ人のことを褒めているんだから。話してて、きっと心がキレイな人なんだろうなって思っていたもん」
「い、いえ、そ、そんなことないですよ。全然キレイなんかじゃありませんよ。わたしにだって、ドロドロしているところもありますよ」
「僕、ハルちゃんのそういうところ好きだなぁ」
「しゅ、駿人さん!」
「ハルちゃん、僕に『さん』なんてつけなくていいよ。『ボン』って呼ぶのに緊張してしまうのであればさ。そうだな『駿人くん』で呼ぶのはどうだろうか」
「え、えっと、じゃ、じゃあ、しゅ、駿人…くん」
「はい、よく出来ました」
何げないやりとりに二人で笑い合った。男の子とこうして話せるだなんて、夢のように感じる。駿人くんを見ると、ほんのりと頬が赤くなっているように見えた。
「ハルちゃん」
「は、はい」
「キミの笑顔、とても素敵だよね」
突然の彼の言葉に、わたしの頭がショートしてしまった。彼は天然なのだろうか。それとも本気で言っているのだろうか。そんなことを言われたら、勘違いしてしまうではないか。それに『キミの笑顔、素敵だよね』だなんて、恋愛ドラマや少女マンガだけのセリフかと思っていた。リアルで言われると、どう反応していいのかわからなくなってしまう。顔を赤くし口をパクパクしていると、駿人くんはおかしそうに笑い「ハルちゃん、またね」と手を振って帰路に就いてしまった。理解が追いつかないまま、わたしは小さく彼に手を振った。彼の姿が見えなくなったころに、わたしの頭にポンッと手が置かれた。本当にどうしてこの人の手はこんなにもやさしいのだろう。不思議で仕方がない。
「悪い奴じゃなかったでしょ。駿人の奴」
「う、うん。駿人くん、すごくやさしい人だった。なんとなくどこか暖かいというか…」
「もしかして、好きになっちゃった。やるなあいつ」
「ち、違うから! もう」
赤くなった頬を隠すようにして、わたしは家の中へと入っていった。楓ちゃんもいたずらげに笑みを浮かべて、中に入り、玄関を静かに閉めた。
これからどんな出会いをするかは、まだわたしには想像することは出来ない。だけれど、彼女達と一緒ならば、再び前に進むことが出来るかもしれない。どこかそんな期待をしていた。
夜空に光る星達はそのことを知る由もないだろう。