春がやって来た。
 まだ肌寒さはあるけれど、どこか風が心地よく感じる。わたしはいつもの神社で絵を描いていた。ここは眺めのよく、風通しがいいからかキモチがいい。わたしのお気に入りの場所だ。空は微かに白くかかっているけれど、青く色づいている。春うららという言葉が似合う季節になったということだろう。どこからか香ってくる花の匂いが、わたしの心をいたずらげにくすぐり、うぐいすやスズメの鳴き声や飛び立つ音が新たなときめきを運んで来る。
 わたしはこの町にやって来て、本当によかったと思える。楓ちゃんに誘ってくれていなかったら、今ではわたしは自分の殻に閉じこもっていたかもしれない。そして駿人くんとも出会い、人の暖かさややさしさに触れることで、わたしの冷え切った心を少しずつと溶かしていった。わたしはそんな駿人くんに恋をし、今では恋人として付き合っている。今でも夢なんかじゃないだろうかと心配になってしまう。彼と手を繋ぎ、夢じゃないのだと実感することが出来る。幸せ過ぎて、死んでしまいそうだ。今ではあのときのような息苦しさはなくなっていた。今ではもう独りぼっちではないことは知っているから。わたしが悲しみに溺れてしまいそうになっても、誰かが手を差し伸べてくれる。わたし自身も誰かが悲しんでいたら、差し伸べられるようになりたい。

「ハールちゃん」

 聞き慣れた暖かく心地よい声。描く手をとめて、わたしは顔を上げた。駿人くんはやさしい笑顔を浮かべて、わたしを見つめていた。彼の存在がとてもうれしい。自然と笑みがこぼれてしまう。もし彼がいなかったら、今ごろわたしはどうなっていただろうか。きっと今でも独りぼっちのままだったかもしれない。本当に感謝しかない。わたしにとって、駿人くんは太陽そのものだ。わたしがつらいとき、わたしのそばにいてくれて、いつもやさしく見守ってくれていた。駿人くんがいてくれてたから、わたしは成長することが出来た。

「ハルちゃん、本当にここが好きだよね」

「はい。すごくお気に入りの場所なんです」

「わかる気がする。ここからの眺めもよくてキモチいいもんね。僕もここが好きだな」

「おそろいですね。うれしいです。」

 二人、顔を合わせて笑い合った。
 今では、もう溺れている感じはしていない。もし同じようになっても、きっと大丈夫だろう。溺れそうになっても、わたしのことを見つけて手を掴んでくれる人達がいる。もう独りぼっちではないことを知っているから。わたしのことを大切にしてくれているように、わたし自身もみんなのことが大切な存在だ。

――みんなの心の中に、虹がかかりますように。

 みんなにも明るい未来が来ることを信じている。
 これからもわたし達は未来へと歩いていく。