お昼ごはんを食べ終えたわたし達は、少しだけリビングで食休みを行い、それぞれの時間に過ごすことになった。楓ちゃんの計らいで、絵はわたしの部屋で観ることになり、駿人さんを自室へ案内をした。男の子を部屋に入れるのは、やはり緊張する。地味とか変とか思われないだろうかと心配してしまう。それに男の子との二人きりのだ。余計に緊張をしてしまう。その心配をよそに駿人さんは「なんかホッとする」と言ってくれていた。その言葉にわたしはそっと胸を撫でおろした。駿人さんに椅子へ座ってもらい、わたしはカラーボックスからスケッチブックを取り出した。絵を見せると約束したのだから、守らなかったら彼に失礼だろう。緊張のせいか体がとてつもなく熱い。わたしは恐る恐る彼にスケッチブックを渡した。人に見せるのは、久しぶりだ。評価されるわけではないのに、胸がドキドキと踊っている。この音が彼に聞こえてしまっていないだろうか。聞こえてしまっていたら、わたしは耐えられずここから消え去りたくなる気分になってしまうだろう。駿人さんは絵を一枚一枚じっくりと観てくれていた。とても真剣な目をしていて。声をかけるだなんて愚かな行為に等しいだろう。わたしはただ絵を観る駿人さんをジッと眺めることしか出来なかった。さっきまで気にしていなかったけれど、肌白でまつ毛がとても長い。体格だって肩幅が広く逞しくてすごく男の子らしい。身長だって、わたしなんかより遥かに大きい。わたしなんて平均身長すら届いておらずかつ華奢な体格だ。コンプレックスというわけではないけれど、体格差に落ち込んでしまう。駿人さんは一通り観終えて、フーと息を吐いた。穏やかな表情を浮かべて、わたしのことを見つめた。

「いやー、ハルちゃん、すごいね。僕、感激しちゃったよ。同い年の子でこんなにキレイな絵を描けるだなんて、すごいよ」

「そんなことないですよ。わたしよりも上手に描ける人なんてたくさんいますし」

「それはそうかもしれないけれど、でもやっぱり尊敬しちゃうな。僕、こんなにキレイな絵描けないよ。それに僕にはない視点を持っているし。きっと心がキレイな人なんだろうなって思わされたよ。やっぱりハルちゃんはすごいよ」

 どうしてこんなことを言ってくれるんだろう。わたしなんて、尊敬に値するほどではないのに、自分ができないことだからと言ってくれている。それが心の底からうれしく思えた。はじめて言われ、この湧き出される感情はなんだろうか。心が徐々に暖かくなっていく。なんでか視界も滲んで来て、次第には泣き出してしまった。彼は少し困った様子を見せたけれど、やさしく微笑んでわたしの頭を撫でてくれていた。まだ出会って間もない男の子に、こんな姿を見せるだなんてはずかしくて仕方がないのに、泪をとめることが出来なかった。わたしはただただ泣き続けた。男の子の前だというのに、そんなことに気にすることなく泣いたのは初めてのことだ。わたしは駿人さんの暖かいやさしさに触れながら、心のままに泪を流した。また立ち上がって、前に進む一歩を踏み出すために。少しだけ、溺れている感じがなくなった気がした。わたしの心の中は、まるで悲しみの海から顔を出して、キレイな青い空が広がっていた。