*
展示会当日がやって来た。わたしは楓ちゃんと一緒に買いに行った服を着用して、駿人くんを待っていた。新しい服というのはやはり緊張をする。水色のトップスにその上にはピンクのカーディガン、黄色のプリーツスカートを着用している。駿人くんにかわいいって思ってもらいたくて、わたしは背伸びをした。似合ってないって言われないだろうか。もし言ってしまったら楓ちゃんが黙ってないかもしれないけれど。楓ちゃんがわたしのために一生懸命に服を選んでくれたのだから。そしていつも二つ結びにしている髪をキレイにハーフアップに結ってくれた。仕上げに、甘くてやさしい匂いがする香水をかけてくれた。いつもとは格好で、より心臓がバクバクと踊っている。駿人くんが来るまでにわたしは何度も深呼吸を行いキモチを落ち着かせた。
「駿人のやつ、遅すぎるんじゃない」
「か、楓ちゃん! まだ待ち合わせ時間じゃないから!」
楓ちゃんの急かす様子に、わたしは顔を赤くして、反論を行った。わたしの赤くした顔を見て、楓ちゃんは「わかってるよ」とケタケタと笑った。待ち合わせのときに女の子を言いたいのかもしれないけれども。「もう」と言いつつも、わたしはもじもじと駿人くんを待っていた。数分ほど待っていると、遠くから「おーい」と呼ぶ声がした。その声にわたしのドキッとして、より胸が躍るようになってしまった。駿人くんがわたしのもとに着くと、彼は「おぉ~」と声を漏らしていた。駿人くんは少し顔を赤くさせて、わたしのことをまじまじと見ていた。意識してくれたのならば作戦成功ということだろうか。
「ハルちゃん、いつもと雰囲気が違うね。普段も女の子らしい服着てたけど、いつもよりもおしゃれしているね」
「す、すみません。そ、その、に、似合ってないですよね」
「そんなことがないから! すごく似合ってるから! ハルちゃん、すごくかわいいよ!」
駿人くんはより顔を赤くし慌てた様子で、わたしのことを褒めている姿を見て、緊張がやわらいで行き、クスクスと笑みがこぼれた。完全に駿人くんはわたしのことを意識してくれている。それがすごくうれしい。
「駿人くん、そろそろ展示会に行きませんか?」
「そうだね」
わたしと駿人くんの二人で展示会場へと足を運んだ。バスを乗り継ぎ、開催されている市民会館へと辿り着くことが出来た。コンクール展の看板を見ると絵画と同時に写真の展示も行われており、わたしは駿人のほうへ目を向けた。駿人くんは涼しい表情を浮かべ、こちらへ見返した。
「実はねハルちゃん。僕も写真部門でコンクールに出していたんだ」
「えっ。どうして言ってくれなかったんですか?」
「うん。正直、賞を貰えるだなんて思っていなかったし。それにハルちゃんのこと驚かしたかったからさ」
驚いているわたしに対して、駿人くんはその反応が見たかったと言いたいような笑みを浮かべていた。
――駿人くんには敵わないな。
彼を驚かせてたくて、より認めてもらいたくて、やっていたことなのに、それを悠々と超えて来るのだから。肩を落とすわたしの手をそっと握られ、ドキッと胸が高鳴った。男の子と手を繋ぐだなんて、少女マンガの世界の中だけのように思っていた。まさか自分がその立場になることは考えもしていなかった。手汗ひどくないだろうか。緊張が高まっていく。
「繋いで行っちゃダメかな?」
「い、イヤじゃないです。でもそれならそうと、繋ぐ前に言ってほしいです」
ぷぅと頬を膨らませると、駿人くんは愛らしそうに笑みを浮かべて「ごめんごめん」と謝罪をしていた。本当に男の子はわからない生き物だ。
「ねぇ、絵画のほうから回ってもいいかな? 僕、ハルちゃんの絵を早く観たいな」
「べ、別にか、構いませんよ…」
「了解。じゃあ入ろうか」
「はい」
わたし達は市民会館へと足を踏み入れた。
展示コーナーで応募された作品の数々が展示されている。花の絵や家族の絵、友人の絵など、それぞれ個性があって、もっとわたし自身も頑張らなきゃと思わされる。それぞれを観て歩き、ようやく次の作品がわたしの作品だ。いざ駿人くんに観られるとなると、息が出来ているのかわからないぐらい緊張をしてしまっていた。繋いでいる手が自然と強まってしまっていた。
「ハルちゃんらしい晴れやかな絵だね。神社の近くにある草原のところだよねこれ。すごくキレイだよ。雲一つもない空に鮮やかな虹がかかっていてそれを僕達が見ているんだよね」
「その通りです。みんなとこんな景色を見れたら素敵だろうなと思って。それに駿人くん達のおかげで、今のわたしがいるんです。駿人くん達のおかげで描けた絵だと思うんです」
「そんなことない。ハルちゃんが悩んで努力をした結果だよ。僕達は友達としてキミの傍にいただけだよ」
「そんなことないです。駿人くん達が手を指し伸ばしてくれていなかったら、わたし以前のように独りぼっち暗闇の中のままでした」
あの日、駿人くんが楓ちゃんの家に訪れなかったら、あの日、ヒナちゃんが声をかけてくれなかったら、藤堂くんが静かに見守ってくれていなかったら、ずっと暗闇の中、溺れているような感じであっただろう。だから今のわたしを作ってくれたのは楓ちゃんや駿人くん達なのだ。彼達がいなければ前に進むことなんて出来なかったと思う。
「あの、駿人くんの写真…観に行きたいです」
「あっ、そうだね。観に行こう」
わたし達は絵画部門から写真部門へと場所を移した。写真ということもあって、やはりリアルというか実体があるのだなと思わされる。一枚一枚観ているけれど、駿人くんの写真を見つけることが出来ないでいる。少しずつ焦りが出て来たところ、駿人くんはクスリと笑みを浮かべた。
「実はね。僕の写真、奥のほうにあるんだ」
「えっ、ということはもしかして」
「うん。金賞を貰えたんだ。本当に驚いたよ。行っても佳作ぐらいかなって感じだったから。でも僕なりにベストを尽くしたつもりだよ」
「そうだったんですね。やっぱり駿人くんはすごいです」
「ありがとう」
奥へ奥へと歩いて行く。そして金賞と書かれた表札に大きな写真が飾られていた。
その写真にはキレイな青い空に穏やかに流れる小川、通り道になっているところに生えるキレイな夏草達。一枚の写真に一夏の思い出を詰め込んだ素敵なモノだ。その写真にわたしの胸がときめいているのがわかった。彼だからこそ撮れた写真だ。
「駿人くん。すごいです。わたし、すごく感動をしてしまっています」
「うん。たぶんだけどさ。ハルちゃんは僕達がいたからあの絵を描けたって思っているでしょ。だけどね。それはハルちゃんだけじゃないよ。僕もキミがいたからこの写真を撮ることが出来た。キミがいなかったらコンクールに出すこともなかったと思う。だから、ありがとう」
「そんな、わたしなんか…」
「まったくキミは、どうしてそんなに自信を持てないかな」
駿人くんはそう言って、わたしのことを抱きしめた。突然のことで、頭の中がパニックに陥った。何が起きたのかすぐに理解することが出来ず、硬直してしまっていた。
「人が多いところでごめん。だけど、ここで言わせてほしい。ハルちゃん、好きだよ。世界で一番大好きだよ」
「しゅ、駿人くん…。わたし、わたしも駿人くんに伝えたいことがあったんです。でも駿人くんに先を越されてしまいました。わたし…、わたしも駿人くんのことが好きです。大好きです。世界で一番に大好きなんです」
自分の想いを彼に伝え、力いっぱい抱きしめ返した。
この場違いな光景とは言えども、周りにいた人達からパチパチと拍手を貰うことになり、わたし達二人、頬を微かに赤く染め笑みをこぼした。
展示会当日がやって来た。わたしは楓ちゃんと一緒に買いに行った服を着用して、駿人くんを待っていた。新しい服というのはやはり緊張をする。水色のトップスにその上にはピンクのカーディガン、黄色のプリーツスカートを着用している。駿人くんにかわいいって思ってもらいたくて、わたしは背伸びをした。似合ってないって言われないだろうか。もし言ってしまったら楓ちゃんが黙ってないかもしれないけれど。楓ちゃんがわたしのために一生懸命に服を選んでくれたのだから。そしていつも二つ結びにしている髪をキレイにハーフアップに結ってくれた。仕上げに、甘くてやさしい匂いがする香水をかけてくれた。いつもとは格好で、より心臓がバクバクと踊っている。駿人くんが来るまでにわたしは何度も深呼吸を行いキモチを落ち着かせた。
「駿人のやつ、遅すぎるんじゃない」
「か、楓ちゃん! まだ待ち合わせ時間じゃないから!」
楓ちゃんの急かす様子に、わたしは顔を赤くして、反論を行った。わたしの赤くした顔を見て、楓ちゃんは「わかってるよ」とケタケタと笑った。待ち合わせのときに女の子を言いたいのかもしれないけれども。「もう」と言いつつも、わたしはもじもじと駿人くんを待っていた。数分ほど待っていると、遠くから「おーい」と呼ぶ声がした。その声にわたしのドキッとして、より胸が躍るようになってしまった。駿人くんがわたしのもとに着くと、彼は「おぉ~」と声を漏らしていた。駿人くんは少し顔を赤くさせて、わたしのことをまじまじと見ていた。意識してくれたのならば作戦成功ということだろうか。
「ハルちゃん、いつもと雰囲気が違うね。普段も女の子らしい服着てたけど、いつもよりもおしゃれしているね」
「す、すみません。そ、その、に、似合ってないですよね」
「そんなことがないから! すごく似合ってるから! ハルちゃん、すごくかわいいよ!」
駿人くんはより顔を赤くし慌てた様子で、わたしのことを褒めている姿を見て、緊張がやわらいで行き、クスクスと笑みがこぼれた。完全に駿人くんはわたしのことを意識してくれている。それがすごくうれしい。
「駿人くん、そろそろ展示会に行きませんか?」
「そうだね」
わたしと駿人くんの二人で展示会場へと足を運んだ。バスを乗り継ぎ、開催されている市民会館へと辿り着くことが出来た。コンクール展の看板を見ると絵画と同時に写真の展示も行われており、わたしは駿人のほうへ目を向けた。駿人くんは涼しい表情を浮かべ、こちらへ見返した。
「実はねハルちゃん。僕も写真部門でコンクールに出していたんだ」
「えっ。どうして言ってくれなかったんですか?」
「うん。正直、賞を貰えるだなんて思っていなかったし。それにハルちゃんのこと驚かしたかったからさ」
驚いているわたしに対して、駿人くんはその反応が見たかったと言いたいような笑みを浮かべていた。
――駿人くんには敵わないな。
彼を驚かせてたくて、より認めてもらいたくて、やっていたことなのに、それを悠々と超えて来るのだから。肩を落とすわたしの手をそっと握られ、ドキッと胸が高鳴った。男の子と手を繋ぐだなんて、少女マンガの世界の中だけのように思っていた。まさか自分がその立場になることは考えもしていなかった。手汗ひどくないだろうか。緊張が高まっていく。
「繋いで行っちゃダメかな?」
「い、イヤじゃないです。でもそれならそうと、繋ぐ前に言ってほしいです」
ぷぅと頬を膨らませると、駿人くんは愛らしそうに笑みを浮かべて「ごめんごめん」と謝罪をしていた。本当に男の子はわからない生き物だ。
「ねぇ、絵画のほうから回ってもいいかな? 僕、ハルちゃんの絵を早く観たいな」
「べ、別にか、構いませんよ…」
「了解。じゃあ入ろうか」
「はい」
わたし達は市民会館へと足を踏み入れた。
展示コーナーで応募された作品の数々が展示されている。花の絵や家族の絵、友人の絵など、それぞれ個性があって、もっとわたし自身も頑張らなきゃと思わされる。それぞれを観て歩き、ようやく次の作品がわたしの作品だ。いざ駿人くんに観られるとなると、息が出来ているのかわからないぐらい緊張をしてしまっていた。繋いでいる手が自然と強まってしまっていた。
「ハルちゃんらしい晴れやかな絵だね。神社の近くにある草原のところだよねこれ。すごくキレイだよ。雲一つもない空に鮮やかな虹がかかっていてそれを僕達が見ているんだよね」
「その通りです。みんなとこんな景色を見れたら素敵だろうなと思って。それに駿人くん達のおかげで、今のわたしがいるんです。駿人くん達のおかげで描けた絵だと思うんです」
「そんなことない。ハルちゃんが悩んで努力をした結果だよ。僕達は友達としてキミの傍にいただけだよ」
「そんなことないです。駿人くん達が手を指し伸ばしてくれていなかったら、わたし以前のように独りぼっち暗闇の中のままでした」
あの日、駿人くんが楓ちゃんの家に訪れなかったら、あの日、ヒナちゃんが声をかけてくれなかったら、藤堂くんが静かに見守ってくれていなかったら、ずっと暗闇の中、溺れているような感じであっただろう。だから今のわたしを作ってくれたのは楓ちゃんや駿人くん達なのだ。彼達がいなければ前に進むことなんて出来なかったと思う。
「あの、駿人くんの写真…観に行きたいです」
「あっ、そうだね。観に行こう」
わたし達は絵画部門から写真部門へと場所を移した。写真ということもあって、やはりリアルというか実体があるのだなと思わされる。一枚一枚観ているけれど、駿人くんの写真を見つけることが出来ないでいる。少しずつ焦りが出て来たところ、駿人くんはクスリと笑みを浮かべた。
「実はね。僕の写真、奥のほうにあるんだ」
「えっ、ということはもしかして」
「うん。金賞を貰えたんだ。本当に驚いたよ。行っても佳作ぐらいかなって感じだったから。でも僕なりにベストを尽くしたつもりだよ」
「そうだったんですね。やっぱり駿人くんはすごいです」
「ありがとう」
奥へ奥へと歩いて行く。そして金賞と書かれた表札に大きな写真が飾られていた。
その写真にはキレイな青い空に穏やかに流れる小川、通り道になっているところに生えるキレイな夏草達。一枚の写真に一夏の思い出を詰め込んだ素敵なモノだ。その写真にわたしの胸がときめいているのがわかった。彼だからこそ撮れた写真だ。
「駿人くん。すごいです。わたし、すごく感動をしてしまっています」
「うん。たぶんだけどさ。ハルちゃんは僕達がいたからあの絵を描けたって思っているでしょ。だけどね。それはハルちゃんだけじゃないよ。僕もキミがいたからこの写真を撮ることが出来た。キミがいなかったらコンクールに出すこともなかったと思う。だから、ありがとう」
「そんな、わたしなんか…」
「まったくキミは、どうしてそんなに自信を持てないかな」
駿人くんはそう言って、わたしのことを抱きしめた。突然のことで、頭の中がパニックに陥った。何が起きたのかすぐに理解することが出来ず、硬直してしまっていた。
「人が多いところでごめん。だけど、ここで言わせてほしい。ハルちゃん、好きだよ。世界で一番大好きだよ」
「しゅ、駿人くん…。わたし、わたしも駿人くんに伝えたいことがあったんです。でも駿人くんに先を越されてしまいました。わたし…、わたしも駿人くんのことが好きです。大好きです。世界で一番に大好きなんです」
自分の想いを彼に伝え、力いっぱい抱きしめ返した。
この場違いな光景とは言えども、周りにいた人達からパチパチと拍手を貰うことになり、わたし達二人、頬を微かに赤く染め笑みをこぼした。