コンクールの展示会は十月の末に行われる。
 楓ちゃんを誘うかと考えたのだが、仕事のほうが立て込んでしまっているということで謝られてしまった。そうなると誘えるとなると、駿人くん達になる。友達だと言っても自分の絵が展示されているから観に行きませんかと誘うとするのは緊張してしまう。ここ数十分、わたしはスマホの電源をつけたり消したりを繰り返していた。自分の奥手さに情けなくなってしまう。スマホを布団に置いたときに、一つ通知が届いた。確認をすると、それは駿人くんからのメッセージで、驚き過ぎてあたふたとお手球をしてしまった。ドキドキとしながら通知を開くと、それはコンクールの展示会についてのことであり、一緒に行かないかという誘いのメッセージであった。そのメッセージを少し眺め、返事を打ち込んだ。『同行よろしくお願いします』という短い文章。送信ボタンを押すのにかなりの緊張が走っていた。ギュッと目を瞑って、どうにでもなれというキモチで送信ボタンを押した。無事に送信されているのを確認し、一つ息を吐くと再びメッセージの通知がやって来た。駿人くんからの『やった』という喜びの返信であった。彼に対して、わたしは一つ悩みがあった。わたしはきちんと金賞という結果を出してから、彼に告白をしたいと考えていた。しかし惜しくも佳作という結果であった。決して悪くはない結果ではあるけれど、正直足踏みをしてしまっている状態であった。わたしは彼にキモチを伝える自信を持てずにいる。以前彼の部屋で共に観た楓ちゃんのイラスト集を手にし、ページを開いた。とてもキレイな絵が、一ページ一ページと描かれている。彼女がいたから絵を描くのが好きになることが出来た。彼女がいたから駿人くんと巡り逢えることが出来た。だからこそ、わたしは明るいところへと出て来れた。きちんと笑って恩返しをしたい。よしと覚悟を決め、イラスト集を本棚に戻した。

「駿人くんにかわいいって思ってもらいたい」

 わたしはクローゼットを開き、当日の服を選ぶことにした。彼はどんな服装が好きなんだろうか。やはり雑誌に載っているような服を見てかわいいって思うのだろうか。わたしにそのような服を買うおこづかいがあるわけでもなく、かつわたしに似合うという自信がない。自分がいいなと思った服をいくつかをベッドに並べて、思考を巡らせた駿人くんはどんな服を着たとしてもかわいいと言ってくれるかもしれない。だけれど、建前ではなく、心の底からかわいいって言ってもらいたい。そして一人の女の子として意識してほしい。わたしは懸命に思考を巡らせた。でも意識をすればするほど、どんな服がいいか迷ってしまう。

「迷っている様子だね。ハル」

 楽しそうな声音で声をかけられて、思わず肩がビクッと跳ね上がった。集中し過ぎて、ノックされたことも襖が開けられていることに気づくことが出来なかった。わたしは顔を赤くして、楓ちゃんを見た。彼女はわたしの様子を見て、微笑ましそうな表情を浮かべていて、心の底からはずかしいってキモチになり、顔がまっ赤に染まってしまった。

「デートに出かけるための服選びかい」

「ち、違うから。わたし達はまだそんな関係じゃないから」

「まだってことは…。そう」

 楓ちゃんはやさしく微笑み、わたしのもとやって来て抱きしめた。
 何が起きたのかわからず、目を見開いた。だけど彼女のやさしくて心地のいい温もりが、いつだってわたしのことを救ってくれていた。そんな彼女だから相談をしたいと思えるのだろうか。わたしは勇気を出して、駿人くんと展示会を観に行くこと、そして一人の女の子として意識してほしいことを、何一つ隠さずにすべて話した。自分の色恋の話しを人に話すのはやっぱりはずかしさはあるけれど、信頼出来る人に打ち上げることで、どこかすぅと軽くなった気がする。

「駿人のかわいいって思ってもらいたいんだ。ハルがそう考えるのは、まだ先だと思っていたけれど、あたしが思っているよりもハルは大人なんだよね。今度さ、一緒に服買いに行かないかい。一緒にかわいい服を選ぼうよ。あたしね、ハルとそういうの一度してみたかったんだよね」

「楓ちゃん、ありがとう。わたし、がんばるから」

「とびっきりかわいくして、駿人をドキッとさせてやろうじゃない」

「うん!」

 わたし達は楽しげに笑い合った。
 こうして楓ちゃんと恋の話しをするのは初めてかもしれない。なんだかとても新鮮で楽しい。絵の話しだけじゃなくて、こうした女の子らしい会話も出来たら、より楓ちゃんと楽しく過ごせるのかもしれない。かれまで楓ちゃんはどんな恋をして来たのかを知ってみたいから。わたしの胸のあたりがとても暖かくなって行った。