新学期が始まり、再びわたし達は学校生活へと戻っていた。
 元気な人や眠たそうにしている人、楽しそうにおしゃべりをする人、たくさんの表情があってとてもキラキラとした世界が広がっていた。おはようのあいさつが飛び交う爽やかな日常。この生活がどれだけ素敵なことだろうか。独りぼっちになってしまったあのとき、本当に苦しい日々であった。もし楓ちゃんがこの町に誘ってくれていなかったら、駿人くん達に出会わせてくれていなかったら、わたしはずっと暗闇の中だったかもしれない。本当に感謝しかない。彼女のためにもわたしは幸せになって恩返しをして行きたい。そのためにも今を大切にして行こう。いつかまた挫けそうになったとき、乗り越える糧になるだろう。前よりも今、そして未来。前へ前へと歩いて行く。少しずつ大人になって行く。
 わたしは強くなれただろうか。まだ自信はない。だけれど、少し違うところはわかる。以前感じていた息苦しさはなく、もう溺れているような感覚はもうない。きちんと息をすることが出来ている。もう殻に閉じこもっているだけのわたしではない。

「おはようヒナちゃん」

「おはようハル。おや、なんだかいつもより爽やかだね」

「そ、そうかな。い、いつも通りだよ」

「え~、そうかなぁ。夏休みの間になんかあったんじゃない」

 彼女の純粋な視線に耐えられず、わたしはヒナちゃんにすべてを白状した。以前通っていたときの親友と話しをし、いつかまた親友なろうと約束したこと、駿人くんの部屋で共に楓ちゃんのイラスト集を観たことを隠さず、ヒナちゃんに話しをした。ヒナちゃんは真剣なまなざしでわたしの話しをうんうんと聞いてくれていた。ヒナちゃんはわたしがやさしい言葉を望んでいないことを察しってくれているようで「話してくれてありがとう」と口にしてくれていた。それだけでもすごくうれしい。わたしはイジメを受けていたことは話すつもりはなかった。だけれど今だったら。ヒナちゃんはもちろん彼にも、わたしは話さなくてはいけない気がしていた。隠しごとをしているのは、やはり心苦しいキモチになってしまう。わたしはもっと彼に自分のことを知ってもらいたい。その上でもっと彼のことを知りたいと思うのだ。いつもやさしく見守ってくれている駿人くん。そんな彼にわたしは初恋をしたのだ。報われないかもしれない。だけれど、後悔はしたくない。

「ヒナちゃん、あと、その…、あのね。わたし…」

「ん?」

 わたしはヒナちゃんに耳を近づけてもらい、ぼそぼそと告げた。

「わたしね。駿人くんのこと好きになっちゃったんだ」

 わたしの言葉に、ヒナちゃんは大きく目を見開いた。そして彼女は頬を緩ませて、わたしの頭をわしゃわしゃと撫で始めた。とてもやさしくて暖かい。心が徐々に暖かくなっていく。ヒナちゃんと友達になれて本当に良かったと思える。彼女がいなければ、わたしは女の子の中で孤立してしまっていたかもしれない。そう考えると本当に感謝しかない。心強い友達だ。彼女と一緒にいると晴れやかな気分になる。自然と笑みがこぼれた。

「ハル、本当に変わったもんね。明るくなったよ。転校して来たときは内気でずっと怯えててさ。少しずつ笑顔を見せてくれるようになってさ。好きな人が出来たことの報告を聞けるなんて、ウチ、すごくうれしいよ」

「ひ、ヒナちゃん。こ、声大きいよ」

「ごめんごめん。うれしくてさ」

 拗ねるわたしと必死で手を合わせて謝るヒナちゃん。何げない日常が流れ行く。二人目を合わせクスクスと笑い合った。

「おはよう二人共。とても楽しそうだね」

 聞き慣れた声であいさつをされ、わたしとヒナちゃんは声の主のほうへと目を向けた。そこには楽しそうな笑顔の駿人くんが立っていた。久しぶりの制服姿にドキッとしてしまう。

「お、おはようございます」

「おはようボンちゃん」

 それぞれ彼にあいさつを交わし、再び笑みをこぼした。
 こうして彼女と友達になれたのは、駿人くんのおかげかもしれない。わたしはたくさんの人に助けられている。楓ちゃんが誘ってくれていなかったら駿人くんとも出会えていなかったし、楓ちゃんとも友達になることも出来なかった。そしてこうして誰かと笑い合うことも恋をすることもなかっただろう。幸せ過ぎて胸がいっぱいだ。

「二人共なんの話しをしていたんだい?」

「乙女の秘密よ」

「なんだよ教えろよ」

「いーだ」

 二人の会話がおかしくて、わたしは堪えきれず笑い始めた。その様子を見た二人も曇りのない笑みを浮かべた。