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夏と言っても、早朝はまだ肌寒さがある。
わたしはパジャマワンピースの上に、薄いピンクのカーディガンを羽織り縁側に足を運んだ。いつもよりも早めに目が覚めてしまい、なんだかキモチが落ち着かないのだ。縁側から見る風景はなんだか不思議だ。夏だというのにどこか別な季節のように見えてしまう。白い霧がまとい、ひんやりとした空気が流れてくる。二つの季節を味わっているような感じで得した気だ。早起きは三文の徳というのはこういうものだろうか。わたしは穏やかに目を細め、空を見上げた。白い雲が太陽を隠しているが、やさしい光が降り注いでいた。
「おやハル。いつにも増して早起きだね」
「おはよう。楓ちゃん。なんだか早く目が覚めちゃって」
「そっか。ハル、なんか飲むかい?」
「う~ん。じゃあ、ミルクティーにしようかな」
「了解」
楓ちゃんはやさしく笑みを浮かべ、キッチンへと向かった。彼女が淹れてくれる紅茶はどこかやさしい。インスタントの紅茶のはずなのにそれを感じさせないのだ。その秘密を聞いても、教えてはくれない。いつもいたずらげに笑ってごまかされてしまうのだ。まるでまだあんたは子どもだからと言われた気分になる。でもその通りなのだ。わたしはまだ中学生で年齢的にも子どもだ。これからいろんなことを経験して、少しずつ大人になって行けばいい。わたしは再び庭のほうへ目を向けた。少しずつ明るくなってくる外の風景に、わたしの心はなんとなく寂しく感じてしまう。お祭りが終わってしまうような感覚と似ている気がする。
「ハル、おまたせ」
「ありがとう。楓ちゃん」
「なんかいいね。こういう時間も」
「うん。でもなんだかさびしいというか」
「あー、確かに。そういうのあるかもね」
楓ちゃんはわたしにミルクティーを渡して、隣に座った。
彼女が隣にいると、とても安心する。彼女はいつだってわたしの味方でいてくれている。わたしが落ち込み挫けそうになったときも、いつだって手を差し伸べて、明るいほうへと導いてくれる。そのおかげもあって、駿人くんと出会うことが出来、そして彼に恋をした。楓ちゃんと駿人くんのサポートのおかげで、少しずつ明るいほうへと歩いて行けている。それがとても幸せに感じられる。
「ねぇ、楓ちゃん」
「ん?」
「楓ちゃんはさ。なんでイラストレーターになろうって決めたの?」
「進路相談かい?」
「そういうわけじゃないけど。どうしてかなって思って」
「そうだねぇ。絵を描くのが好きだからというのも大きいけれど。自分の絵で誰かを笑顔に出来たら凄いんじゃないって思ったからかな。そんな甘いというのはわかっていたけれど。好きだからこそがんばれたかな」
遠くの景色を眺めつつ、楓ちゃんはコーヒーを啜った。
彼女なりにきちんと進路を考え、自分の道を歩いて来た。来年になれば、受験も控えているということもあるし、少しずつ考えて行かなければいけない。自分も絵を描くことは好きだし、今後も続けて行きたい。だけれど、それだけでいいのだろうかと考えてしまう。
「将来、どんな仕事に就きたいかなんて。急いで決めればいいとわけではないけれど。早く見つけられることには越したことはないと思うよ」
「そうかもしれないけれどさ」
小さいとき楓ちゃんのような絵描きさんになりたいと言ったこともあった。楽しそうに絵を描く楓ちゃんがとてもかっこよく見えていて、わたし自身そうなりたいと感じていたのだ。今もそれは変わりはしていない。絵を描くことは好きだし、今後も描き続けたい。そして絵を描く楽しさを他のみんなにも教えてあげたい。わたしは思案した。これからのわたしは、どんな道を歩いて行くのだろう。不意に頭を撫でられ、胸がドキッとした。
「ねぇ、ハル。早起きしたんだからさ。朝ごはんを早く食べてさ。二人で散歩に出かけよう。もちろん、スケッチブックを持ってね」
楓ちゃんは二ッと笑って見せた。その笑顔につられて、わたしも笑みがこぼれた。彼女の笑顔は本当に救われる。わたしは楓ちゃんに身を寄せて「うん」と返事をした。
夏と言っても、早朝はまだ肌寒さがある。
わたしはパジャマワンピースの上に、薄いピンクのカーディガンを羽織り縁側に足を運んだ。いつもよりも早めに目が覚めてしまい、なんだかキモチが落ち着かないのだ。縁側から見る風景はなんだか不思議だ。夏だというのにどこか別な季節のように見えてしまう。白い霧がまとい、ひんやりとした空気が流れてくる。二つの季節を味わっているような感じで得した気だ。早起きは三文の徳というのはこういうものだろうか。わたしは穏やかに目を細め、空を見上げた。白い雲が太陽を隠しているが、やさしい光が降り注いでいた。
「おやハル。いつにも増して早起きだね」
「おはよう。楓ちゃん。なんだか早く目が覚めちゃって」
「そっか。ハル、なんか飲むかい?」
「う~ん。じゃあ、ミルクティーにしようかな」
「了解」
楓ちゃんはやさしく笑みを浮かべ、キッチンへと向かった。彼女が淹れてくれる紅茶はどこかやさしい。インスタントの紅茶のはずなのにそれを感じさせないのだ。その秘密を聞いても、教えてはくれない。いつもいたずらげに笑ってごまかされてしまうのだ。まるでまだあんたは子どもだからと言われた気分になる。でもその通りなのだ。わたしはまだ中学生で年齢的にも子どもだ。これからいろんなことを経験して、少しずつ大人になって行けばいい。わたしは再び庭のほうへ目を向けた。少しずつ明るくなってくる外の風景に、わたしの心はなんとなく寂しく感じてしまう。お祭りが終わってしまうような感覚と似ている気がする。
「ハル、おまたせ」
「ありがとう。楓ちゃん」
「なんかいいね。こういう時間も」
「うん。でもなんだかさびしいというか」
「あー、確かに。そういうのあるかもね」
楓ちゃんはわたしにミルクティーを渡して、隣に座った。
彼女が隣にいると、とても安心する。彼女はいつだってわたしの味方でいてくれている。わたしが落ち込み挫けそうになったときも、いつだって手を差し伸べて、明るいほうへと導いてくれる。そのおかげもあって、駿人くんと出会うことが出来、そして彼に恋をした。楓ちゃんと駿人くんのサポートのおかげで、少しずつ明るいほうへと歩いて行けている。それがとても幸せに感じられる。
「ねぇ、楓ちゃん」
「ん?」
「楓ちゃんはさ。なんでイラストレーターになろうって決めたの?」
「進路相談かい?」
「そういうわけじゃないけど。どうしてかなって思って」
「そうだねぇ。絵を描くのが好きだからというのも大きいけれど。自分の絵で誰かを笑顔に出来たら凄いんじゃないって思ったからかな。そんな甘いというのはわかっていたけれど。好きだからこそがんばれたかな」
遠くの景色を眺めつつ、楓ちゃんはコーヒーを啜った。
彼女なりにきちんと進路を考え、自分の道を歩いて来た。来年になれば、受験も控えているということもあるし、少しずつ考えて行かなければいけない。自分も絵を描くことは好きだし、今後も続けて行きたい。だけれど、それだけでいいのだろうかと考えてしまう。
「将来、どんな仕事に就きたいかなんて。急いで決めればいいとわけではないけれど。早く見つけられることには越したことはないと思うよ」
「そうかもしれないけれどさ」
小さいとき楓ちゃんのような絵描きさんになりたいと言ったこともあった。楽しそうに絵を描く楓ちゃんがとてもかっこよく見えていて、わたし自身そうなりたいと感じていたのだ。今もそれは変わりはしていない。絵を描くことは好きだし、今後も描き続けたい。そして絵を描く楽しさを他のみんなにも教えてあげたい。わたしは思案した。これからのわたしは、どんな道を歩いて行くのだろう。不意に頭を撫でられ、胸がドキッとした。
「ねぇ、ハル。早起きしたんだからさ。朝ごはんを早く食べてさ。二人で散歩に出かけよう。もちろん、スケッチブックを持ってね」
楓ちゃんは二ッと笑って見せた。その笑顔につられて、わたしも笑みがこぼれた。彼女の笑顔は本当に救われる。わたしは楓ちゃんに身を寄せて「うん」と返事をした。