*駿人視点
ハルちゃんのことを家まで送り届けたあと、僕が田舎道に広がるオレンジ色に染まった空をぼんやりと眺めていた。初めて出会ったときから、少しずつではあるけれど笑顔が増えてきて、徐々に口数も増えているように思える。前の中学校でイジメにあっていたことは彼女からは聞いていないが、楓さんからはなんとなく聞いていた。引っ込み思案で自分に自信を持てない彼女が、イジメの標的になり、人との関わりにより恐怖を抱いてしまってしまったとのことだった。初めて会ったときもまるで小動物のように縮こまり怯えた表情で楓さんの背中に隠れていたのを覚えている。二つ結びがよく似合うかわいらしくて百五十センチぐらいの小柄で華奢な女の子。まるで童話の世界から飛び出て来たんじゃないかと思ったくらいだった。昼食を食べながら、怯えつつも頑張って話している彼女のことを救い出したいという想いが生まれた。それから僕は彼女が過ごしやすくなるようにサポートするようした。出来るだけ声をかけるようにし、独りぼっちにならないようにそばで寄り添うにようにしていた。幸いなことにヒナも協力もあって、彼女が孤立することはなかった。少しずつ彼女の心が開いていくのがわかった。この町が彼女の拠り所になってくれていたのならば、それでいい。夏休みに入り、彼女が帰省することになった。そのまま彼女が帰って来ないんじゃないか、そして僕達のことを忘れてしまうんじゃないかと不安になってしまっていた。この不安は的中することはなく、彼女はこの町に戻って来た。ハルちゃんはすっきりした表情で、どこか晴れやかな様子であった。彼女の中で、振り切れたモノがあったのだろう。より絵に打ち込むようになっていた。うれしいことのはずなのに、なぜだがさびしさを感じるようになっていた。
「僕、置いてかれているよな…」
彼女のことを支えなくちゃと思っていたはずなのに、いつの間にか自分の足で、前へ前へと進んでいた。そして僕のほうが置いて行かれている気になっていた。とても情けないキモチになる。彼女は自分を変えたいという想いで挑戦をしたというのに、僕は何かしたのだろうか。まだ中学生ということを言い訳に挑戦することから逃げていたのではないだろうか。大きく溜め息を吐き、髪を雑に掻いた。
「駿人、珍しく悩んでいる様子じゃないですか?」
急に声をかけられて、ドキッとした。声の主なんて顔を見なくてもわかる。姉の綾香だ。小さいときからよくからかわれて来た。かと言って仲が悪いってわけではない。どちらかと言うと良好と言えるだろう。よく一緒にゲームで遊んだりしている。ときどきムカつくこともあるけれど、悲しんでいる人がいればその人に心から寄り添い支える姿を見て来たから、素直にかっこいいと思っている。僕自身も見習わくちゃいけないところだ。看護師をしているからか。人のことをよく見ている。僕が悩んでいることすらお見通しだ。息を深く吐き肩を落とした。
「お察しの通り、悩んでいるよ」
「そっか~。あんたも女の子のことで悩む時期が来たってわけかねぇ。お姉ちゃん、うれしいなぁ」
「うるさいなぁ。姉ちゃんには関係ないだろ」
「いいじゃない。聞かせなさいよ」
姉は肩を組み、いたずらげに笑みを浮かべた。
姉弟で恋バナをするなんて、はずかし過ぎる。笑みを浮かべる姉に対して、僕は顔を赤く染めて、そっぽ向いた。
「僕はハルちゃんに何かしてあげられているのかな。出会ったときはさ。すごくか弱そうな印象だったのに、どんどん強くなって行くんだ。それがなんだか置いて行かれている気がしているんだ」
「大丈夫だよ。ハルちゃんは駿人がそばにいてくれたから、強くなれたと思うよ」
「それだけでいいのかな。ハルちゃんにとって、僕は余計なおっせかいなんじゃないかって思っちゃうんだよね」
「あんたさ。いろいろと難しく考えているかもしれないけれど、もっと気楽になりなさいよ。あたしが見る限り、ハルちゃんは――」
「姉ちゃん、それ以上言わなくていいよ。わかってるから。だけど、今の自分に彼女のキモチに応えることは出来ない。彼女に偉そうなことを言ってたクセに、自分のことは中途半端になってた。彼女を言い訳にしていたんだ。だからさ、姉ちゃん。僕、挑戦してみるよ。写真のコンクール。必ず結果出してみるから」
僕は姉と目を合わせ、自分の意志を伝えた。
中途半端な自分から脱するために、そして自分に信頼を寄せてくれているハルちゃんのために。ちゃんと結果を出して、僕は彼女に自分のキモチを伝えたい。
――ハルちゃんのことが好きだって。
ハルちゃんのことを家まで送り届けたあと、僕が田舎道に広がるオレンジ色に染まった空をぼんやりと眺めていた。初めて出会ったときから、少しずつではあるけれど笑顔が増えてきて、徐々に口数も増えているように思える。前の中学校でイジメにあっていたことは彼女からは聞いていないが、楓さんからはなんとなく聞いていた。引っ込み思案で自分に自信を持てない彼女が、イジメの標的になり、人との関わりにより恐怖を抱いてしまってしまったとのことだった。初めて会ったときもまるで小動物のように縮こまり怯えた表情で楓さんの背中に隠れていたのを覚えている。二つ結びがよく似合うかわいらしくて百五十センチぐらいの小柄で華奢な女の子。まるで童話の世界から飛び出て来たんじゃないかと思ったくらいだった。昼食を食べながら、怯えつつも頑張って話している彼女のことを救い出したいという想いが生まれた。それから僕は彼女が過ごしやすくなるようにサポートするようした。出来るだけ声をかけるようにし、独りぼっちにならないようにそばで寄り添うにようにしていた。幸いなことにヒナも協力もあって、彼女が孤立することはなかった。少しずつ彼女の心が開いていくのがわかった。この町が彼女の拠り所になってくれていたのならば、それでいい。夏休みに入り、彼女が帰省することになった。そのまま彼女が帰って来ないんじゃないか、そして僕達のことを忘れてしまうんじゃないかと不安になってしまっていた。この不安は的中することはなく、彼女はこの町に戻って来た。ハルちゃんはすっきりした表情で、どこか晴れやかな様子であった。彼女の中で、振り切れたモノがあったのだろう。より絵に打ち込むようになっていた。うれしいことのはずなのに、なぜだがさびしさを感じるようになっていた。
「僕、置いてかれているよな…」
彼女のことを支えなくちゃと思っていたはずなのに、いつの間にか自分の足で、前へ前へと進んでいた。そして僕のほうが置いて行かれている気になっていた。とても情けないキモチになる。彼女は自分を変えたいという想いで挑戦をしたというのに、僕は何かしたのだろうか。まだ中学生ということを言い訳に挑戦することから逃げていたのではないだろうか。大きく溜め息を吐き、髪を雑に掻いた。
「駿人、珍しく悩んでいる様子じゃないですか?」
急に声をかけられて、ドキッとした。声の主なんて顔を見なくてもわかる。姉の綾香だ。小さいときからよくからかわれて来た。かと言って仲が悪いってわけではない。どちらかと言うと良好と言えるだろう。よく一緒にゲームで遊んだりしている。ときどきムカつくこともあるけれど、悲しんでいる人がいればその人に心から寄り添い支える姿を見て来たから、素直にかっこいいと思っている。僕自身も見習わくちゃいけないところだ。看護師をしているからか。人のことをよく見ている。僕が悩んでいることすらお見通しだ。息を深く吐き肩を落とした。
「お察しの通り、悩んでいるよ」
「そっか~。あんたも女の子のことで悩む時期が来たってわけかねぇ。お姉ちゃん、うれしいなぁ」
「うるさいなぁ。姉ちゃんには関係ないだろ」
「いいじゃない。聞かせなさいよ」
姉は肩を組み、いたずらげに笑みを浮かべた。
姉弟で恋バナをするなんて、はずかし過ぎる。笑みを浮かべる姉に対して、僕は顔を赤く染めて、そっぽ向いた。
「僕はハルちゃんに何かしてあげられているのかな。出会ったときはさ。すごくか弱そうな印象だったのに、どんどん強くなって行くんだ。それがなんだか置いて行かれている気がしているんだ」
「大丈夫だよ。ハルちゃんは駿人がそばにいてくれたから、強くなれたと思うよ」
「それだけでいいのかな。ハルちゃんにとって、僕は余計なおっせかいなんじゃないかって思っちゃうんだよね」
「あんたさ。いろいろと難しく考えているかもしれないけれど、もっと気楽になりなさいよ。あたしが見る限り、ハルちゃんは――」
「姉ちゃん、それ以上言わなくていいよ。わかってるから。だけど、今の自分に彼女のキモチに応えることは出来ない。彼女に偉そうなことを言ってたクセに、自分のことは中途半端になってた。彼女を言い訳にしていたんだ。だからさ、姉ちゃん。僕、挑戦してみるよ。写真のコンクール。必ず結果出してみるから」
僕は姉と目を合わせ、自分の意志を伝えた。
中途半端な自分から脱するために、そして自分に信頼を寄せてくれているハルちゃんのために。ちゃんと結果を出して、僕は彼女に自分のキモチを伝えたい。
――ハルちゃんのことが好きだって。