*
わたしは自室へ戻り、すぐに駿人くんからもらったミサンガを左手に結んだ。そのあとスタンドを立て、スケッチブックを広げた。
絵の構想を巡らせた。また一歩を踏み出すために。駿人くんに相応しくなるために。わたしは必死で頭の中を巡らせた。どんな絵にするか。どんな構造にしようか。部屋中を歩き回り、まっ白な背景に色彩をつけていく。そこから見えた一つの光。わたしは筆を取り、用紙に色をつけ始めた。この町に来て、世界の色が変わった。イジメがきっかけで黒く曇っていた世界が、徐々にキラキラと輝き始めていた。そしてわたしは前に進むことが出来た。それも楓ちゃんや駿人くん、ヒナちゃんや藤堂くんのおかげだ。今度はわたしがみんなに恩返しをする番だ。そしてみんなが自分の絵を観て、笑顔になってほしい。そして落ち込んだときこそ、空を見上げられるような絵を描きたい。わたしは懸命の想いで筆を進めた。今のわたしの全力を全て出し切る。それ以外、考えることはなかった。休むことを忘れ、用紙に色を染めていく。キレイな青、爽やかな緑。この町に来て、知ることが出来た世界をたくさんの人に知ってもらいたい
「よし出来た!」
コンクールに出展する絵を描き終えた。
今のわたしの全てを出し切れたと思える絵を描けた気がしている。その絵を観て笑みが零れる。その絵はわたしにとっても、すごく幸せな絵だ。今まで描いて来た中で、一番の出来だと思う。気がつけば、もう部屋が薄暗くなっていた。部屋の襖が少し開き、楓ちゃんが顔を覗かせた。
「ハル、描けたのかい」
「うん。今のわたしにとっての一番の絵かな」
「ねぇ、いつも自信なさげなハルが一番と言い切るなんて、珍しいね」
「わたし、今度のコンクールで金賞取りたいから。だから今出せる想いも力も全て出せたと思う」
「観に行ってもいいかな?」
「うん。いいよ」
楓ちゃんはわたしのとなりに立ち、絵をまじまじと観た。
正直、自分の絵を観られるのは恥ずかしいキモチになる。だけれど、この時間がとても楽しい。楓ちゃんと時間を共有しているようで、わたしはうれしく思える。楓ちゃんは、わたしにとって憧れの人であり、ヒーローのような存在だ。その人に今、自分の絵を観てもらえている。心の底からうれしい。楓ちゃんは一通り観終えると、クスリと笑みをこぼした。
「よく描けるじゃない」
「そうかな」
「描いたあんたが自信なくてどうすんのよ。もう」
「ご、ごめんなさい」
「謝らなくていいよ。でも本当にいい絵だと思うよ。あたしは好きだよ。この絵。ハルがこの町に来て、見つけたモノでしょう。観ている人も明るくなる絵だと思うよ」
「ありがとう。楓ちゃんにそう言われるとすごくうれしい」
「そう」
わたしは楓ちゃんに抱き寄せられ、やさしく頭を撫でられた。
楓ちゃんの腕の中は、心地よくてとても穏やかなキモチになる。自然を笑みがこぼれる。本当にこの人はお日さまのような人だ。わたしの心をいつもやさしく温めてくれる。そんな楓ちゃんが大好きだ。
「それにしてもどうして急にコンクールの絵を?」
「え、えっと、それは…」
「わかった。駿人がきっかけだな」
「それは、その…。うん」
顔を赤くし、小さく頷いた。
駿人くんに、彼に振り向いてほしくて、好きになって欲しくて、わたしはコンクールに出展しようと考えたのだ。だからこそわたしはこの絵を描きあげることが出来た。これからの人生を歩んで行く上でのみちしるべ。そしてたくさんの笑顔と出会うために。わたしは静かに描き上げた絵に目をやり、にこりと笑った。
わたしは自室へ戻り、すぐに駿人くんからもらったミサンガを左手に結んだ。そのあとスタンドを立て、スケッチブックを広げた。
絵の構想を巡らせた。また一歩を踏み出すために。駿人くんに相応しくなるために。わたしは必死で頭の中を巡らせた。どんな絵にするか。どんな構造にしようか。部屋中を歩き回り、まっ白な背景に色彩をつけていく。そこから見えた一つの光。わたしは筆を取り、用紙に色をつけ始めた。この町に来て、世界の色が変わった。イジメがきっかけで黒く曇っていた世界が、徐々にキラキラと輝き始めていた。そしてわたしは前に進むことが出来た。それも楓ちゃんや駿人くん、ヒナちゃんや藤堂くんのおかげだ。今度はわたしがみんなに恩返しをする番だ。そしてみんなが自分の絵を観て、笑顔になってほしい。そして落ち込んだときこそ、空を見上げられるような絵を描きたい。わたしは懸命の想いで筆を進めた。今のわたしの全力を全て出し切る。それ以外、考えることはなかった。休むことを忘れ、用紙に色を染めていく。キレイな青、爽やかな緑。この町に来て、知ることが出来た世界をたくさんの人に知ってもらいたい
「よし出来た!」
コンクールに出展する絵を描き終えた。
今のわたしの全てを出し切れたと思える絵を描けた気がしている。その絵を観て笑みが零れる。その絵はわたしにとっても、すごく幸せな絵だ。今まで描いて来た中で、一番の出来だと思う。気がつけば、もう部屋が薄暗くなっていた。部屋の襖が少し開き、楓ちゃんが顔を覗かせた。
「ハル、描けたのかい」
「うん。今のわたしにとっての一番の絵かな」
「ねぇ、いつも自信なさげなハルが一番と言い切るなんて、珍しいね」
「わたし、今度のコンクールで金賞取りたいから。だから今出せる想いも力も全て出せたと思う」
「観に行ってもいいかな?」
「うん。いいよ」
楓ちゃんはわたしのとなりに立ち、絵をまじまじと観た。
正直、自分の絵を観られるのは恥ずかしいキモチになる。だけれど、この時間がとても楽しい。楓ちゃんと時間を共有しているようで、わたしはうれしく思える。楓ちゃんは、わたしにとって憧れの人であり、ヒーローのような存在だ。その人に今、自分の絵を観てもらえている。心の底からうれしい。楓ちゃんは一通り観終えると、クスリと笑みをこぼした。
「よく描けるじゃない」
「そうかな」
「描いたあんたが自信なくてどうすんのよ。もう」
「ご、ごめんなさい」
「謝らなくていいよ。でも本当にいい絵だと思うよ。あたしは好きだよ。この絵。ハルがこの町に来て、見つけたモノでしょう。観ている人も明るくなる絵だと思うよ」
「ありがとう。楓ちゃんにそう言われるとすごくうれしい」
「そう」
わたしは楓ちゃんに抱き寄せられ、やさしく頭を撫でられた。
楓ちゃんの腕の中は、心地よくてとても穏やかなキモチになる。自然を笑みがこぼれる。本当にこの人はお日さまのような人だ。わたしの心をいつもやさしく温めてくれる。そんな楓ちゃんが大好きだ。
「それにしてもどうして急にコンクールの絵を?」
「え、えっと、それは…」
「わかった。駿人がきっかけだな」
「それは、その…。うん」
顔を赤くし、小さく頷いた。
駿人くんに、彼に振り向いてほしくて、好きになって欲しくて、わたしはコンクールに出展しようと考えたのだ。だからこそわたしはこの絵を描きあげることが出来た。これからの人生を歩んで行く上でのみちしるべ。そしてたくさんの笑顔と出会うために。わたしは静かに描き上げた絵に目をやり、にこりと笑った。