わたし達は公園で待ち合わせをした。そこはわたし達がよく似顔絵を描き合った、一番の思い出の場所。ここでわたしは、シズときちんと向き合わなくちゃいけない。もう逃げ出す行為はしたくはない。わたしは待ち合わせ時間よりも大分早く着いていた。正直に言えば、恐くて仕方がない。今でも足がぶるぶると震えている。天気は快晴。気持ちのいい青い空。爽やかな風が吹き、木の枝を揺らす。

「おまたせ」

 シズは気まずそうな表情を浮かべ、わたしが座るベンチのもとにやって来た。
 こうして二人で会うのは、本当に久しぶりだ。二年生に上がってから、ほとんど無くなってしまった。わたしは独りになって、絵を描くようになっていた。さびしいというよりも苦しかった。自分はこの世界に存在してはいけない人間なのかとも考えたことがある。わたしは逃げるように部屋で自分の殻にこもるようになった。でももうそんなわたしはイヤだ。だからこそ、かつての親友と向き合うことを決めたのだ。

「全然待っていないよ」

「そう言って、待ち合わせ時間より数十分前には来ていることわかってるよ」

「そ…だよね」

「ハル…」

「ん?」

「昨日、あたしが言ったことはウソじゃないからね」

「うん。わかってる。シズがウソをつける人じゃないって知っている。だけれど、もうあの頃の関係には戻れないんだよ。わたし達。わたし達はもう別々の道を歩いているの」

「ハル、あたし、あの頃の関係に戻れるとは思ってない。だけれど、もう一度、あなたと友達になりたい。もう一度親友なりたいって思っているの。今すぐには無理かもしれないけれど、あたし、ハルじゃないとダメなの。ハルがそばにいないとダメなんだ」

「わたしもね。シズの明るさに救われているときがあったんだ。だけれど、シズがわたしから離れて行って、佐倉さん達の陰口に合わせたり、一緒になって教科書とかを隠されたりするのが辛かった。そうせざるを得なかったのはわかる。だけど、わたしは、シズに味方でいてほしかった」

「ハル…」

 わたしはシズの目を逸らさなかった。そして話しを続けた。

「でもね。わたし、シズのことを忘れたいって思えなかったの。許せないとは思えても忘れたいとは思えなかった。だって、シズはわたしにとってすごく大切な存在だったから。今は難しいかもしれないけれど、わたし、もう一度、シズと親友になりたい」

「ハル、本当にいいの? だってあたし、あなたを傷つけたんだよ」

「わたしは、シズのこと、今でも大切だから。だから簡単に許すことは出来ないし。それでもわたしはあなたと親友になりたいと思えるの」

 わたしはシズの手を掴んだ。小さく繊細な手。そして共に絵を描いた手だ。もう離してはいけない手。一度壊れてしまった関係だけれど、また築いて行けばいいのだ。どれだけ月日がかかっても構わない。簡単ではいけないのだ。わたし達はまだまだ中学生だ。これからじっくりと関係を修復していけばいい。また共に笑い合える日が来ることを信じて。