*
夢を見た。
わたしとシズが親友として生活をしていた頃だろうか。学校近くにある公園で、わたし二人、よく写生会を行っていた。色鮮やかなコンビネーション遊具やかわいらしいパンダや馬のスプリング遊具、ブランコなどがあって、子ども連れが多くにぎやかであった。その風景を描き合っては、二人で観せ合っていて、その時間がとても楽しくて幸せな瞬間であった。
「ハルは本当に絵が上手だよね。あたし、どんなに描いても,ハルのようには描けないよ」
「そ、そんなことないよ。わたし、シズの絵、すごく好きだよ。シズが描く人達の表情、すごく楽しそうなんだもん。たしとは見ているんだって思わされるもん。それにシズの絵はこっちまでもが笑顔になるんだよ。なかなか出来ないよ」
「ハルは本当にやさしい子だよね。そこがハルのいいところで、あたしの好きなところではあるけどね」
シズは切なそうな笑みを浮かべて、わたしの絵をまじまじと観ていた。今思えば、これが彼女と距離が出来てしまうきっかけになってしまったと思う。けれど、それからもわたし達二人は一緒に絵を描き続けていた。人間関係に不器用な二人だ。シズと出会ったのは美術部だった。当時はクラスも別々でお互いに初対面に等しかった。話すきっかけになったのはペアにになって似顔絵を描くことになって、わたし達はペアを組めておらず、気まずさを感じつつも、わたし達はペアとなった。シズは本当にキレイな絵を描いていた。わたし達は緊張しつつも会話をしながら交流を深めていった。最初はお互いに苗字に『さん』づけで呼び合っていたけれど、いつしかわたしのことを『ハル』と呼び、彼女のことを『シズ』と呼び合う仲になっていた。わたしにとって心から親友と呼べるのはシズが初めてだった。それが純粋にうれしかった。
二年生になると、わたし達は同じクラスになった。心の底からうれしかった。もっとシズと絵の話しが出来る。そのことで頭の中がいっぱいだった。でもそんな幸せな時間が長く続くことはなかった。わたしは佐倉さんのグループに目をつけられてしまったのだ。佐倉さんは見た目が派手で気の強いことで有名であった。最初は教科書に『バカ』とか『ブス』など落書きされたり程度で、シズも「気にすることはないよ」と声をかけてくれていた。シズだけがわたしの味方でいてくれていた。そのはずだったのに、シズは佐倉さんのグループと行動するようになっていた。佐倉さん達に便乗するように、わたしのヒソヒソと悪口を言ったり、階段から突き落とされることもあった。シズの裏切りが、絶望の淵へと突き落とされたのだ。そしてわたし学校に行けなくなった、一番の事件が起きた。わたしは佐倉さん達に無理やり人気のない裏倉庫へと連れて行かれた。わたしは彼女達に囲まれ、逃げ道がなく、ただただ恐くて震えることしか出来なかった。
「あんたさ、いつも目障りだったんだよね。男子達にさ媚び売るような話し方するところとかさ。はっきり言って上目づかいとかキモチ悪かったんだよねぇ」
「そ、そんな! こ、媚びなんて売ってないです! わ、わたし、ただ男の子と話すのが苦手なだけで…」
「うちらは、あんたの言い分なんて聞いてないんだよ」
佐倉さんはそう言って、わたしの左頬を叩いたのだ。わたしの怯える表情を見て、佐倉さんはいいことでも思いついたかのように笑みを浮かべた。佐倉さんはわたしの両側にいた女子生徒とアイコンタクトを取った。わたしはより恐くなって、やっとの思いで足を動かしたけれど、すでに時が遅く、わたしは二人の女子生徒に羽交いじめにされてしまい、逃げ出すことが出来なかった。
「月城、何ぼさっとしてんのよ。あんたがやるんだからね」
「や、やるって…、な、何を…」
「何をって。本当にどんくさいんだから。あんたが、こいつのブラウスを破くんだよ」
「は…?」
「いいから早くやれよ。あんたがやられたっていいんだぞ」
佐倉さんの言葉にシズは顔を青くさせて、首を横に振って、恐る恐るとこっちに足を運んでいた。
――お願い、やめて。あなただけにはそんなことをしてほしくない。やだやだ!
そんな願いも儚く、シズはわたしのブラウスに手をかけ、力いっぱいに引きちぎった。わたしの上裸が露わとなり、手を離されるまま床へと崩れ落ちた。声を殺しながら泣いているわたしに対し、佐倉さん達は嘲笑いながら写真を撮っていた。そのとき、わたしの中で何かが切れてしまった。周りがまっ暗になっていった。わたしは独りぼっちになってしまったのだ。あのときの様子を見れば、シズが自分の意志でやって来ていないということはわかっている。だけれど、それでも彼女がしたことは許されることではない。どんな理由があったとしても、彼女がした行為は裏切りだ。
わたしは暗い空間の中、独り塞ぎ込んでしまった。そんなとき、わたしに一つの手が指し伸ばされた。顔を上げると、そこ立っていたのは楓ちゃんだった。わたしに絵を描く楽しさを教えてくれて、そしてわたしが独りぼっちにならないように駿人くん達に出会わせてくれた人。指し伸ばされた手を掴むと、まっ暗の世界に光が差しかかり、少しずつ明るくなっていった。今のわたしの周りにはたくさんの人がいる。楓ちゃんだけではない、駿人くんやヒナちゃん、藤堂くん、野田先生、そして美術部のみんながいる。もう独りぼっちなんかじゃない。たくさんの人に支えられている。だからもう大丈夫だといのは知っている。わたしは少しずつでも前に進むことが出来ている。
わたしはゆったり目を覚まし「シズ」と届くことない名前を呟いた。
もうあの頃の関係には戻れないわたし達。でも心のどこかで彼女と繋がりたいと思っている自分もいる。あのとき、どんなキモチでわたしを抱きしめたのだろう。シズもわたしと繋がりたいと思ってくれていたのかもしれない。わたしはぐったりと体を起こし、窓から見える空を見た。もう夜になっていて、幾千の星がキラキラと光らせていた。その光がどことなく切なくて、今のわたしの感情と似ていた。手を伸ばせば届きそうなのに届くことのない距離。わたしは深く息を吐いた。
夢を見た。
わたしとシズが親友として生活をしていた頃だろうか。学校近くにある公園で、わたし二人、よく写生会を行っていた。色鮮やかなコンビネーション遊具やかわいらしいパンダや馬のスプリング遊具、ブランコなどがあって、子ども連れが多くにぎやかであった。その風景を描き合っては、二人で観せ合っていて、その時間がとても楽しくて幸せな瞬間であった。
「ハルは本当に絵が上手だよね。あたし、どんなに描いても,ハルのようには描けないよ」
「そ、そんなことないよ。わたし、シズの絵、すごく好きだよ。シズが描く人達の表情、すごく楽しそうなんだもん。たしとは見ているんだって思わされるもん。それにシズの絵はこっちまでもが笑顔になるんだよ。なかなか出来ないよ」
「ハルは本当にやさしい子だよね。そこがハルのいいところで、あたしの好きなところではあるけどね」
シズは切なそうな笑みを浮かべて、わたしの絵をまじまじと観ていた。今思えば、これが彼女と距離が出来てしまうきっかけになってしまったと思う。けれど、それからもわたし達二人は一緒に絵を描き続けていた。人間関係に不器用な二人だ。シズと出会ったのは美術部だった。当時はクラスも別々でお互いに初対面に等しかった。話すきっかけになったのはペアにになって似顔絵を描くことになって、わたし達はペアを組めておらず、気まずさを感じつつも、わたし達はペアとなった。シズは本当にキレイな絵を描いていた。わたし達は緊張しつつも会話をしながら交流を深めていった。最初はお互いに苗字に『さん』づけで呼び合っていたけれど、いつしかわたしのことを『ハル』と呼び、彼女のことを『シズ』と呼び合う仲になっていた。わたしにとって心から親友と呼べるのはシズが初めてだった。それが純粋にうれしかった。
二年生になると、わたし達は同じクラスになった。心の底からうれしかった。もっとシズと絵の話しが出来る。そのことで頭の中がいっぱいだった。でもそんな幸せな時間が長く続くことはなかった。わたしは佐倉さんのグループに目をつけられてしまったのだ。佐倉さんは見た目が派手で気の強いことで有名であった。最初は教科書に『バカ』とか『ブス』など落書きされたり程度で、シズも「気にすることはないよ」と声をかけてくれていた。シズだけがわたしの味方でいてくれていた。そのはずだったのに、シズは佐倉さんのグループと行動するようになっていた。佐倉さん達に便乗するように、わたしのヒソヒソと悪口を言ったり、階段から突き落とされることもあった。シズの裏切りが、絶望の淵へと突き落とされたのだ。そしてわたし学校に行けなくなった、一番の事件が起きた。わたしは佐倉さん達に無理やり人気のない裏倉庫へと連れて行かれた。わたしは彼女達に囲まれ、逃げ道がなく、ただただ恐くて震えることしか出来なかった。
「あんたさ、いつも目障りだったんだよね。男子達にさ媚び売るような話し方するところとかさ。はっきり言って上目づかいとかキモチ悪かったんだよねぇ」
「そ、そんな! こ、媚びなんて売ってないです! わ、わたし、ただ男の子と話すのが苦手なだけで…」
「うちらは、あんたの言い分なんて聞いてないんだよ」
佐倉さんはそう言って、わたしの左頬を叩いたのだ。わたしの怯える表情を見て、佐倉さんはいいことでも思いついたかのように笑みを浮かべた。佐倉さんはわたしの両側にいた女子生徒とアイコンタクトを取った。わたしはより恐くなって、やっとの思いで足を動かしたけれど、すでに時が遅く、わたしは二人の女子生徒に羽交いじめにされてしまい、逃げ出すことが出来なかった。
「月城、何ぼさっとしてんのよ。あんたがやるんだからね」
「や、やるって…、な、何を…」
「何をって。本当にどんくさいんだから。あんたが、こいつのブラウスを破くんだよ」
「は…?」
「いいから早くやれよ。あんたがやられたっていいんだぞ」
佐倉さんの言葉にシズは顔を青くさせて、首を横に振って、恐る恐るとこっちに足を運んでいた。
――お願い、やめて。あなただけにはそんなことをしてほしくない。やだやだ!
そんな願いも儚く、シズはわたしのブラウスに手をかけ、力いっぱいに引きちぎった。わたしの上裸が露わとなり、手を離されるまま床へと崩れ落ちた。声を殺しながら泣いているわたしに対し、佐倉さん達は嘲笑いながら写真を撮っていた。そのとき、わたしの中で何かが切れてしまった。周りがまっ暗になっていった。わたしは独りぼっちになってしまったのだ。あのときの様子を見れば、シズが自分の意志でやって来ていないということはわかっている。だけれど、それでも彼女がしたことは許されることではない。どんな理由があったとしても、彼女がした行為は裏切りだ。
わたしは暗い空間の中、独り塞ぎ込んでしまった。そんなとき、わたしに一つの手が指し伸ばされた。顔を上げると、そこ立っていたのは楓ちゃんだった。わたしに絵を描く楽しさを教えてくれて、そしてわたしが独りぼっちにならないように駿人くん達に出会わせてくれた人。指し伸ばされた手を掴むと、まっ暗の世界に光が差しかかり、少しずつ明るくなっていった。今のわたしの周りにはたくさんの人がいる。楓ちゃんだけではない、駿人くんやヒナちゃん、藤堂くん、野田先生、そして美術部のみんながいる。もう独りぼっちなんかじゃない。たくさんの人に支えられている。だからもう大丈夫だといのは知っている。わたしは少しずつでも前に進むことが出来ている。
わたしはゆったり目を覚まし「シズ」と届くことない名前を呟いた。
もうあの頃の関係には戻れないわたし達。でも心のどこかで彼女と繋がりたいと思っている自分もいる。あのとき、どんなキモチでわたしを抱きしめたのだろう。シズもわたしと繋がりたいと思ってくれていたのかもしれない。わたしはぐったりと体を起こし、窓から見える空を見た。もう夜になっていて、幾千の星がキラキラと光らせていた。その光がどことなく切なくて、今のわたしの感情と似ていた。手を伸ばせば届きそうなのに届くことのない距離。わたしは深く息を吐いた。