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放課後、まだ夕暮れに染まらない美術室。わたし達はスタンドを広げて絵を描き始めていた。仲のいい部員を描く人、窓から見える風景を描く人、画集の模写をする人がいる。わたしは、みんなと少し離れたところで美術部の様子を描いていた。部員達を観察しながら描いていると、とても楽しいキモチになる。真剣な表情で他生徒を観察して描いていたり、おしゃべりをしながらお互いを描いたり、静かに窓からの風景を描いている人達の表情やしぐさを見ていると、とてもキラキラしているように見える。だからわたしはその様子を絵に留めておきたいのかもしれない。ふと親友のことを思い出す。あの頃は、わたしも親友も二人で笑い合っていて、キラキラした時間を過ごしていた。もしもう一度、彼女と会えたなら、わたしは親友になりたいと願うことが出来るのだろうか。正直、恐いと思ってしまう自分がいる。もしかしたら本当にわたしのことがキライになってしまっていたんじゃないかと考えると、やはり辛い。わたしは彼女とどうなりたいのだろうか。今のわたしには答えを出せないでいる。わたしは心のモヤモヤを晴らすように黙々と鉛筆を進めていると、左側から誰かが覗き込んだため、思わず「ひゃあ」と悲鳴をあげて、椅子から転げ落ちてしまった。いたたとお尻を摩っていると、手を指し伸ばされて「何をやっているんだ」と呆気に取られた声で言われてしまった。顔を上げると、そこには野田先生が苦笑しながらこちらを見ていた。わたしは指し伸ばされた手を掴み、引っ張られるように立ち上がった。
「す、すみません」
「いやこっちも悪かった。突然覗き込んでしまって。手は痛めていないか」
「い、いえ…。だ、大丈夫です」
「そうかよかった。それにしても楓からも聞いていたが、よく描けているな」
「あ、ありがとうございま…ん? 楓?」
「あれ言ってなかったか。お前の母親と楓はあたしの部活の後輩だ」
「そうだったんですか。ということは野田先生、ここの」
「ああ、ここの卒業生だが」
野田先生はそう言って、にやりと笑った。
楓ちゃんからも、野田先生とは知り合いだと聞いていた。小さな町なのだから当然なことだと思っていたけれど、まさか同じ部活の先輩後輩の関係だとは考えもしなかった。わたしは野田先生の顔をまじまじと見てしまった。母さんと楓ちゃん、そして野田先生が同じ校舎で共に絵を描いて来たと思うと考え深く感じる。
「そんなに見つめるな。照れるだろう」
「す、すみません…」
謝るわたしに対し、野田先生はフッと笑った。そして野田先生は全体を見渡した。何か思いついたことがあるのだろうか。不思議そうにわたしは野田先生を見た。正直、この人が何を考えているのかが、わからない。厳しいのに穏やかで、クールかと思えばほんわかしたところがある。とても不思議な人だなと思うのだ。野田先生はポンッと手を叩き、口を開いた。
「皆の衆、明日の活動は野外での写生会を行おうと思う。異論がある者は挙手したまえ」
急な野田先生の提案に、みんな驚いた表情を浮かべたが、すぐに喜びの表情へと変わっていった。
確かに、美術部の活動はほとんどが美術室か校内のどこか行われている。当然のことと言えば当然なのだけれど、代り映えがしていなかった。そう言うわたし自身も、教室を変えることはせず、窓からの風景や美術室の様子を描いていることが多かった。だからこそ、野田先生は野外の活動を提案したのだろう。
放課後、まだ夕暮れに染まらない美術室。わたし達はスタンドを広げて絵を描き始めていた。仲のいい部員を描く人、窓から見える風景を描く人、画集の模写をする人がいる。わたしは、みんなと少し離れたところで美術部の様子を描いていた。部員達を観察しながら描いていると、とても楽しいキモチになる。真剣な表情で他生徒を観察して描いていたり、おしゃべりをしながらお互いを描いたり、静かに窓からの風景を描いている人達の表情やしぐさを見ていると、とてもキラキラしているように見える。だからわたしはその様子を絵に留めておきたいのかもしれない。ふと親友のことを思い出す。あの頃は、わたしも親友も二人で笑い合っていて、キラキラした時間を過ごしていた。もしもう一度、彼女と会えたなら、わたしは親友になりたいと願うことが出来るのだろうか。正直、恐いと思ってしまう自分がいる。もしかしたら本当にわたしのことがキライになってしまっていたんじゃないかと考えると、やはり辛い。わたしは彼女とどうなりたいのだろうか。今のわたしには答えを出せないでいる。わたしは心のモヤモヤを晴らすように黙々と鉛筆を進めていると、左側から誰かが覗き込んだため、思わず「ひゃあ」と悲鳴をあげて、椅子から転げ落ちてしまった。いたたとお尻を摩っていると、手を指し伸ばされて「何をやっているんだ」と呆気に取られた声で言われてしまった。顔を上げると、そこには野田先生が苦笑しながらこちらを見ていた。わたしは指し伸ばされた手を掴み、引っ張られるように立ち上がった。
「す、すみません」
「いやこっちも悪かった。突然覗き込んでしまって。手は痛めていないか」
「い、いえ…。だ、大丈夫です」
「そうかよかった。それにしても楓からも聞いていたが、よく描けているな」
「あ、ありがとうございま…ん? 楓?」
「あれ言ってなかったか。お前の母親と楓はあたしの部活の後輩だ」
「そうだったんですか。ということは野田先生、ここの」
「ああ、ここの卒業生だが」
野田先生はそう言って、にやりと笑った。
楓ちゃんからも、野田先生とは知り合いだと聞いていた。小さな町なのだから当然なことだと思っていたけれど、まさか同じ部活の先輩後輩の関係だとは考えもしなかった。わたしは野田先生の顔をまじまじと見てしまった。母さんと楓ちゃん、そして野田先生が同じ校舎で共に絵を描いて来たと思うと考え深く感じる。
「そんなに見つめるな。照れるだろう」
「す、すみません…」
謝るわたしに対し、野田先生はフッと笑った。そして野田先生は全体を見渡した。何か思いついたことがあるのだろうか。不思議そうにわたしは野田先生を見た。正直、この人が何を考えているのかが、わからない。厳しいのに穏やかで、クールかと思えばほんわかしたところがある。とても不思議な人だなと思うのだ。野田先生はポンッと手を叩き、口を開いた。
「皆の衆、明日の活動は野外での写生会を行おうと思う。異論がある者は挙手したまえ」
急な野田先生の提案に、みんな驚いた表情を浮かべたが、すぐに喜びの表情へと変わっていった。
確かに、美術部の活動はほとんどが美術室か校内のどこか行われている。当然のことと言えば当然なのだけれど、代り映えがしていなかった。そう言うわたし自身も、教室を変えることはせず、窓からの風景や美術室の様子を描いていることが多かった。だからこそ、野田先生は野外の活動を提案したのだろう。