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晩ごはんを食べ終えたあと、わたしは椅子に座って、スケッチブックを開いた。誰かに観せるわけではないけれど、自然と絵が描きたくなったのだ。今日仲よくなったヒナちゃんの似顔絵や教室の風景を鉛筆で描き進めた。以前だったら、親友の女の子と絵を観せ合っていたのに、今はそれを行うことが出来ない。彼女は今、元気にしているのだろうか。彼女に裏切られてからは、連絡を取っていなかった。何度かメッセージが送られて来たこともあったけれど、それを開くことはなかった。わたしは彼女のことを許すことは出来なかった。逆らうことが出来なかったことは理解しているけれど、キモチでは許すことが出来なかった。彼女がいたから学校に行けていた。それなのにわたしを絶望の海へと背中を押したのは彼女だった。信じていた味方からの裏切りが一番辛かった。これからもわたしはヒナちゃんと友達でいられるのだろうか。また離れて行ってしまうんじゃないか。自分に自信をもてないわたしがすごくキライだ。この不甲斐なさを紛らわせるように、下唇を噛んだ。
「ハル、絵を描いているのかい?」
突然、声をかけられて、肩を震わせた。襖のほうへと視線を向けると。少しだけ襖を開けて、顔を覗かせる楓ちゃんがいた。彼女のことを見て、ホッとする自分がいた。
「うん。楓ちゃん、観てくれるかな?」
「もちろんだとも。ハルのお願いだからね」
楓ちゃんはやさしく微笑んで、スケッチブックを受け取って、似顔絵と風景画を観てくれていた。以前にも観てもらっていたころもあったけれど、やはり人に観てもらうのは緊張をしてしまう。楓ちゃんはスケッチブックを閉じ、わたしの頭をやさしく撫でてくれた。
「よく描けているじゃない。てかヒナちゃんって、瀬戸内ひなたのことか!」
「そ、そうだよ。フルネームで言ってなかったっけ? 楓ちゃん、ヒナちゃんのこと、知ってたんだ」
「そりゃね。駿人とよく遊んでいたところを見ていたからね」
「やっぱり二人、幼なじみなんだ」
「そういうことになるか」
「なんだか少女マンガみたい」
「へぇ、ハルもそういうの興味あるんだ」
「そ、そういうわけじゃないけれど…」
わたしは顔を赤く染め、うつむいた。
恋なんて、よくわからない。男の子を好きになるということは、どういうことなんだろう。いつかわたしも恋を知るときが来るのだろうか。いささか見当もつかない。
「そういえばハル…」
「何、楓ちゃん」
「さっきさ、何か考え込んでいる様子だったけれど、大丈夫かい?」
「うん、大したことじゃないけれど。わたし、これからヒナちゃんと友達でいられるのかな? また離れて行っちゃうじゃないかって心配になっちゃって…」
「そうだよね。恐いよね。心配になっちゃうよね。だけれどさ、大丈夫だよ。ひなたは明るくて思いやりのある子だよ確かに突っ走ってしまうところはあるけれど、人を簡単に裏切ってりはしない子だよ。それはあたしが保証する」
不安そうな表情を浮かべていたわたしを、やさしく包み込んだ。どうしてなんだろう。この人に包み込まれると、いつも安心することが出来るのは。
「ハルはハルのペースでいいんだよ。焦らなくたっていい。少しずつ心の傷を癒して行けばいい。そしたらさ新しい光が見えて来るから。それに駿人があんたのことを独りにはさせないからさ」
「ありがとう楓ちゃん。わたし、そう言ってくれる楓ちゃん大好きだよ」
「うれしいことを言ってくれるじゃない。あたしもハルのことが大好きだよ」
わたし達は顔を見合って、フフフと笑い合った。
ゆっくりでもいいんだ。自分のペースで前を歩いて行けば、いつかは虹を見つけることが出来るのだから。
晩ごはんを食べ終えたあと、わたしは椅子に座って、スケッチブックを開いた。誰かに観せるわけではないけれど、自然と絵が描きたくなったのだ。今日仲よくなったヒナちゃんの似顔絵や教室の風景を鉛筆で描き進めた。以前だったら、親友の女の子と絵を観せ合っていたのに、今はそれを行うことが出来ない。彼女は今、元気にしているのだろうか。彼女に裏切られてからは、連絡を取っていなかった。何度かメッセージが送られて来たこともあったけれど、それを開くことはなかった。わたしは彼女のことを許すことは出来なかった。逆らうことが出来なかったことは理解しているけれど、キモチでは許すことが出来なかった。彼女がいたから学校に行けていた。それなのにわたしを絶望の海へと背中を押したのは彼女だった。信じていた味方からの裏切りが一番辛かった。これからもわたしはヒナちゃんと友達でいられるのだろうか。また離れて行ってしまうんじゃないか。自分に自信をもてないわたしがすごくキライだ。この不甲斐なさを紛らわせるように、下唇を噛んだ。
「ハル、絵を描いているのかい?」
突然、声をかけられて、肩を震わせた。襖のほうへと視線を向けると。少しだけ襖を開けて、顔を覗かせる楓ちゃんがいた。彼女のことを見て、ホッとする自分がいた。
「うん。楓ちゃん、観てくれるかな?」
「もちろんだとも。ハルのお願いだからね」
楓ちゃんはやさしく微笑んで、スケッチブックを受け取って、似顔絵と風景画を観てくれていた。以前にも観てもらっていたころもあったけれど、やはり人に観てもらうのは緊張をしてしまう。楓ちゃんはスケッチブックを閉じ、わたしの頭をやさしく撫でてくれた。
「よく描けているじゃない。てかヒナちゃんって、瀬戸内ひなたのことか!」
「そ、そうだよ。フルネームで言ってなかったっけ? 楓ちゃん、ヒナちゃんのこと、知ってたんだ」
「そりゃね。駿人とよく遊んでいたところを見ていたからね」
「やっぱり二人、幼なじみなんだ」
「そういうことになるか」
「なんだか少女マンガみたい」
「へぇ、ハルもそういうの興味あるんだ」
「そ、そういうわけじゃないけれど…」
わたしは顔を赤く染め、うつむいた。
恋なんて、よくわからない。男の子を好きになるということは、どういうことなんだろう。いつかわたしも恋を知るときが来るのだろうか。いささか見当もつかない。
「そういえばハル…」
「何、楓ちゃん」
「さっきさ、何か考え込んでいる様子だったけれど、大丈夫かい?」
「うん、大したことじゃないけれど。わたし、これからヒナちゃんと友達でいられるのかな? また離れて行っちゃうじゃないかって心配になっちゃって…」
「そうだよね。恐いよね。心配になっちゃうよね。だけれどさ、大丈夫だよ。ひなたは明るくて思いやりのある子だよ確かに突っ走ってしまうところはあるけれど、人を簡単に裏切ってりはしない子だよ。それはあたしが保証する」
不安そうな表情を浮かべていたわたしを、やさしく包み込んだ。どうしてなんだろう。この人に包み込まれると、いつも安心することが出来るのは。
「ハルはハルのペースでいいんだよ。焦らなくたっていい。少しずつ心の傷を癒して行けばいい。そしたらさ新しい光が見えて来るから。それに駿人があんたのことを独りにはさせないからさ」
「ありがとう楓ちゃん。わたし、そう言ってくれる楓ちゃん大好きだよ」
「うれしいことを言ってくれるじゃない。あたしもハルのことが大好きだよ」
わたし達は顔を見合って、フフフと笑い合った。
ゆっくりでもいいんだ。自分のペースで前を歩いて行けば、いつかは虹を見つけることが出来るのだから。