学校から帰宅し、普段着に着替えたあと、わたしは楓ちゃんが作った料理を次々とテーブルへと運んで行った。ご近所さんからもらった野菜で作られたサラダや煮つけモノから香るおいしそうな匂いが食欲を誘い、お腹からぐぅと音が鳴り、二人顔合わせて笑い合った。暖かな時間。誰かと笑い合うということは、本当に幸せのことなのだろう。当たり前の日常で、忘れてしまうこともあるだろう。親友と笑い合っていたあの時間も、確かに幸せだと感じていた。この時間が永遠に続けばいいと願ったこともあった。それはもう昔のことで叶うこともないだろう。でもわたしは今、新しい学校で前に進んでいけたらいいと思っている。

「ハル、転校初日はどうだった?」

「うん。すごく楽しかったよ。ヒナちゃんって子と友達になれたし、野田先生にね、美術部に誘われて、入部したんだ」

「へぇ、よかったじゃない。ハルは新しい一歩を踏み出したんだね」

「うん。楓ちゃんのおかげだよ。わたし、今すごく楽しいよ」

「よかった。またハルが笑顔になってくれて。それだけでも安心だわ」

 楓ちゃんは安心したように頬を緩ませた。今日一日わたしのことを心配してくれていたのだろう。また悲しみに暮れてしまうんじゃないかと。本当にやさしい人だなぁと思う。楓ちゃんは、いつだってわたしが明るいほうへと導いてくれる。それが純粋にうれしい。わたしには心強い味方がそばにいてくれるのだから。楓ちゃんだけではない。今は駿人くんやヒナちゃんだって、いてくれる。まだ落ち込みやすいわたしだけれど、支えてくれる人がたくさんいる。だから今は安心をして生活を送って行ける。

「さて、ご飯食べようか」

「うん。今日もおいしそう」

「おいしそうじゃないよ。おいしいの」

「そうだね」

 わたし達は笑い合って椅子に座り、二人手を合わせて「いたたきます」と言った。楓ちゃんのご飯はどれもやさしくて安心する味がしておいしい。そしてどこか懐かしさを感じさせてくれる。幸せの味と言えばいいのだろうか。心が暖かくなっていく。楓ちゃんは本当にすごいなって思う。わたしは箸をとめることもなくご飯を食べ続けた。

「本当にハルはおいしそうに食べるから、作りがいがあるなぁ」

 楓ちゃんはうっとりとした表情を浮かべて、わたしは見つめた。わたしは顔を赤く染めて「楓ちゃんのご飯がおいしいからだよ」と返した。楓ちゃんはクスっと笑って「うれしいことを言ってくれるねぇ」とみそ汁を啜った。この暖かい時間がいつまでも続いて行けばいい。それはとても難しいことなのかもしれない。けれど、わたしはそうなって行ければいいなと思う。そして心の底から『この町に来てよかった』って言えるようになりたい。時に躓いてしまうこともあるだろう。だけれどそれでいいのかもしれない。少しずつでもいい。その度に強くなればいいのだから。前に進んで進んで行こう。わたしはそっとみそ汁を啜った。甘酸っぱさが心地よい。わたしはクスリと笑った。楓ちゃんもわたしのその表情を見て微笑んでくれていた。