光り輝く海原をカワゲラが滑空し、水を掻き分けて海面に浮き上がったソングがチーネに手を振り、(モリ)先を上げて獲った青魚を見せつける。

「ごめんチーネ。早く帰ってこれ、食べようぜ」
「いいけど。今度、変なことしたら叩きのめすからね」

 チーネがそう注意してから、手を伸ばすソングを引っ張り上げてカワゲラの背中に乗せ、魚を籠に入れたソングの濡れた手を自分の腰にまわし、カワゲラを急上昇させて海風を受けながら陸地へ向かう。

「しっかり掴まってなさい」
『甘い小麦の香りがすんだよな』

 ソングはチーネの黄金色の髪の匂いにうっとりして、さっきの胸の柔らかな感触と、今朝滝で戦った時に重なり合って落ちて見上げたチーネの可愛い唇を想像した。

 妖精は年齢を気にしないので不明だが、チーネはソングより身長では5センチ程高く、何かと先生としてのプライドをソングに見せ付けた。

 黄金色の髪は編み込んでハーフアップスタイル。スレンダーで妖精の中でも一番強くて可愛い。ソングは年頃なのか、恋と欲情でチーネを求めていたのである。

『なによ……?』

 チーネは上空で少し揺れ、後ろから腰に手を回すソングの股の辺りが硬くなって、お尻に時々当たるのを感じたが、気づかないフリをしてカワゲラの飛行をゆっくり楽しんだ。

 妖精は精霊の地の森に住んでいるが、チーネは昼食と授業を兼ねて崖の中腹にある岩室が連なるスクールへ向かう。

 数百年前から妖精の子供が減り、現在、生徒はソングしかいないが、昔はこの岩室が満室になるほど勉強と剣術のトレーニングをする生徒がいたらしい。

 深い渓谷が巨石の山へと続き、奥へ進むと垂直の崖が左右から迫って狭くなり、初めてソングを連れて来た時はチーネの背中にしがみ付いて目をつぶって震えていた。

「ソング、もう怖くないのか?」
「俺に怖い物なんてねーよ」

 チーネの後ろで立ち上がり、両手を広げて風を全身に受けて濡れた服を乾かしているソングを見て、チーネは『少しは成長したわね』と思った。

 それはある意味、性的な意味合いも含めて、ソングを男の子として意識し始めたということである。

 崖から突き出た岩場にカワゲラが近寄り、空中でソングとチーネが飛び降りると、カワゲラは向きを変えて川の住処へ帰って行く。

 チーネとソングはいつも使用している上階の岩室へ入り、清水が流れる炊事場で食事の用意を始めた。薪が積んであって、煉瓦を積んだ(かまど)がある。

「ねっチーネ。なんで妖精は女性しかいないんだ?」
「教えたと思うけどなー。再度レクチャーしますか?」