王女エッダの留守中に城の寝室に愛人を招いた王サーディンは、ベッドの上で女性が馬乗りになった状態で、絶頂に達して愉悦(ゆえつ)の表情を浮かべたまま木炭のように固まって最期を迎えた。

 愛人も局部の周辺から腐り、尻と乳房まで炭黒くなって息絶えていたが、肩から上の頭部と腕先の肌は正常な状態を保ち、股間の精液が毒液となり体を蝕んだと疑われる。

[王が愛人と腐って、全裸でフリーズしている。]

 そのニュースはベッドメイキンの為に寝室へ入って悲鳴を上げた召使いから、世話役、女官長、王国専任の錬金術師アルダリに伝わり、旅先の王女エッダへ白い伝書鴉が飛ばされた。

 アーズランド王国の城。塔の上にサーディン[イワシの紋章]の旗がはためき、南東には巨石と森と水の精霊の地がある。額にオスのマーク記号がある白カラスが上空を旋回して、受取人の分泌物を嗅ぎ取りながら巨石の山へ向かった。(異性のフェロモンの匂いで手紙を届ける白カラスをエロガラスと呼ぶ者もいるが、愛の配達人だと商人は高値で売っている。)


 王女エッダは妖精の地へクラウドの台座を調査しに訪れていたが、白カラスが空から舞い降りて王女の肩にとまり、胸元を覗いてからその谷間に鳴き声と共に嘴から書簡を吐き出して落とした。

「ブェッ」

 唾液で粘って丸まった紙片を王女が指で摘んで広げると[王死す。しかもアソコを腐らせ、お恥ずかしい死に様。]と書いてある。

「クラウドの予兆が当たったようですわ」

 王女エッダがスカートの中に潜り込もうとするエロガラスを足で蹴り払い、美しい顔を(しか)めて妖精の族長と四人の侍女と一緒にクラウドを遠巻きに眺めた。

 森と川の望める巨石の連なる窪みに瑪瑙(めのう)の台座があり、1メートル程宙に浮かんでいる。上部は平面で雲の紋様があり、割れない筈の表面には黒い血脈のひび割れが走っていた。