チーネは卒業試験ではなく普通にSEXを申し出れば良かったのにと、ソングの想いを摘み取る事を残念に思い、表情には出さずに心の中で呟く。

『そしたら、してあげたのに……』

 鋭い剣先の襲撃が止み、ソングは剣を地に這わせてチーネの足を払ったが、軽くジャンプして躱され、チーネが表情を引き締めて蜜蜂の構え直すのを見る。

「ソング。もう手加減はしないから、覚悟しなさい」
「それはこっちのセリフだぜ」

 二十センチ幅の岩橋を走って背後のゴールへ向かえば、身軽なチーネが勝利する確率が高い。しかしチーネはきっちりとソングを這いつくばらせて、卒業試験を失敗に終わるつもりだ。

 蜜蜂の剣のグリップを両手で握り締め、胸元に引き寄せてから、柄頭(ポンメル)に息を吹き込むと、(ガード)からプクッとした膨らみが剣先まで移動して、細い剣がグリャっと波打ってからピーンと張る。

「蜜蜂の剣を生き返らせたか?」
「ソング、これでちょっと刺されただけで毒がまわるよ。もちろん、死なない程度に弱めてあげるね」
「いやいや、背中見せなきゃ刺されはしないぜ。それより、妖精の羽を用意しておけ」

 ソングはここが勝負の分かれ目と、パワーでチーネを押し倒し、岩橋から落とす作戦に切り替えた。スリムだが全身の筋肉にパワー送ると、谷底から風が湧き上がり、黒髪がハリネズミみたいに跳ね上がった。

『剣のラリーでは、蜜蜂の毒針に刺されてしまう……』

 楕円形のスペースに足を広げ、剣を斜め下に振り下ろした瞬間、素早く体を回転させて背中を向け、バックスピンソードをチーネの胸に突き出した。

 チーネはソングが興奮するとハリネズミみたいに頭髪がとんがるのは知っていたが、アソコまでもがキルトの布を突っ張らせている。

『ソコも?』とチーネはソングの股間に目を奪われて油断した。

 バックスピンソードの一撃が甲虫の胸当ての真ん中に当たり、ガツッと緑色のカップが割れて弾け飛ぶ。

 チーネはバランスを崩して背後に倒れ、蜜蜂の剣をソングの剣に巻き付かせて堪えるが、片足を狭い足場から踏み外して落下してゆく。

「あっ……」

 ソングは剣を巻き取られ、チーネが仰向けになって目の前から消えたので、逆に驚いて楕円形のスペースから前に乗り出して谷底を見下ろす。

 妖精は危機に直面すると、特殊な分泌物を発して耳の花冠(かかん)が開き、メシベがオシベに受粉して体が縮小し、蝶の羽で飛ぶと聞いているが、ソングは見た事はなかった。

「チーネ!」と、谷底へ落ちたかと心配して四つん這いになって叫んだ。

 しかしその時、岩橋の下から蜜蜂の剣先が伸びてきて胸をチクっと刺す。

「呼んだ?ソング」

 チーネは両足のつま先を岩の突起に引っ掛け、逆さまになってぶら下がっていたのである。ソングの剣を左手に持ち、右手に持った蜜蜂の剣でソングが下を覗き込んだ瞬間に突き刺した。

「い、いや。呼んでねー。空耳だ……」

 チーネが見上げる微笑みと、谷底の景色がぼやけてソングの瞳に歪んで映り、蜜蜂の毒で神経が麻痺し、ソングは焦って首を振って振り返る。

『ま、まだ負けてない。絶対、先にゴールしてやる……ぜ』