次のターゲットがどこにいるのかは丸分かりだ。というわけで目的地にすぐについた。
 初めてここに来た時には知らなかった部屋みたいだな。隠し部屋なのか、今までの部屋と違ってどこにあるのか分からない。王宮内をぐるりと回ってもその部屋が見つからないようになってある。

 しかし俺には無意味だ。俺の「気配感知」からは逃れられない。王宮内の中央階にある何も無いところに向けて拳を振るう。すると、目の前の空間がパリンと割れて、大きな扉が現れた。

 「結界でこの部屋を隠していたのか」

 並みの感知能力ではここに辿り着けなかっただろうが、相手が悪かったな。躊躇いなく大きな扉を蹴りで壊して、中に入る。
 そこには、国内トップレベルであろう兵士が数人と、部屋の奥にある謁見の間で見た椅子に座っている人物がいた。
 
 「またそうやって、偉そうな態度で俺を出迎えてくるのかよ、クソ国王…!」

 奥にいる人物―—カドゥラ・ドラグニア国王に向かって、俺は侮蔑を込めてそう言い放った。





 「ここでは3回目での謁見、になるのかなぁ。クソ老害国王さんよぉ?」

 避難場所として設えた隠し部屋で、大きな椅子に腰かけ、驚愕の顔でこっちを凝視しているクソ国王…カドゥラに向かって俺は不敵に微笑む。

 「やはり貴様は、1か月程前の実戦訓練で死んだとされていたカイダだったか...!?まさかここの結界を破って入ってくるとは... 兵団に何かしたのも貴様だな?」

 驚きしつつも、国王たる威厳さを失くすことなく俺を睨みながら発声する。奴の問いかけに俺は不敵な笑みで答えた。それを見た老害王は怒りの表情を浮かべながら、近くにいる兵士に問いかける。あいつは、兵団長のブラットだったな。

 「ブラットよ、やはりあの時の報告は間違いだったようだな?先月の実戦訓練でカイダコウガは死んだとのことのはずだったが?」
 「私も目を疑うばかりで...。確かにあの時は、私を含む兵士と救世団のメンバーで廃墟を破壊して、彼、カイダコウガは奈落の底へ落ちていったはずです。それ以前に、彼は深手の傷を負っていて、あの状況で助かるなど、あり得ないと断言しますが...」
 「だが、現にあ奴がここにいるではないか。我はその現場にはいないから、傷が深かっただのと言われても釈然とせぬ」
 「それは...」
 「あのさぁ!俺が死んだとか、生きてたとか、どうでもよくね?今、テメーらが考えることは、俺がここに来たということが一体何を意味するのでしょうか、とかだろ?」

 老害王とブラットがどうでもいいことで言い合っていたので、俺が横槍を入れる。

 「そうだな。カイダよ。あの時もそうやって我を下に見るような態度をとっていたな。今もそうして不遜で舐め腐った態度でいる…実に不愉快だっ」
 「俺も、テメーのその誰でも見下した態度、謝罪とは言えない謝罪の仕方、全身からにじみ出ている感じの悪さ全部、胸糞だと思ってるよ」

 俺のレスポンスに、クズ王の額に青筋が立つ。人を見下す人間は、逆に見下されることへの耐性が0だ。怒らせやすい単純な相手だ。

 「それで……信じがたいことだが、救世団を壊滅させてこの国を脅かしているのは、貴様だな?貴様がここに来た目的は、大体予想がつく。自分を死に追い詰めたこの王国への復讐といったところだろう」

 煽りに反応していた割には、俺が襲撃犯で、その目的が自分たちへの復讐だというところまで言い当てて来た。さすがに、ただ歳をくっているだけじゃないみたいだ。

 「さーすが国王さん。あの愚かで脆いゴミ王子とは違うなぁ。じっくり苦しめることができそうだ」

 だが、俺のこの発言にはさすがに動揺が隠せなかったようで、クズ王は椅子から立ち上がって俺を睨みつけて怒鳴り声を上げる。

 「——何だと貴様ぁ!?マルスをどうしたのだ!?先程から戻ってこないから変だと思っていたが...まさか!?」
 
 そういや、あのゴミ王子何で部屋の外にいたんだ?トイレか何かか?ここにはそういう設備が無いみたいだし。まぁ死んだ奴のことはもういいや。
 
 「へー。息子のことになると、そんなに動揺できるんだ?他人は見下しても身内は別だってか?」
 「答えろぉ!マルスはどこにいる―っがぁ!?」

 うるさく吠えてきてうざいので、重力魔法を使ってここにいる全員を地面に這いつくばらせる。
 中々に良い眺めだ。この国のいちばん偉いということになっているこの人間を、今は無様にひれ伏し、それを見下す俺。SNSに投稿したいくらいだぁ。

 「これ、あのゴミ王子が得意とする属性だったよなぁ。ま、あいつの魔法のセンスにはあくびが出るほどに退屈なゴミレベルだったが」
 「......!!」

 どうにか顔を上げて俺を睨むのに必死になっているクズ王。その目に先程までの余裕は無いようだが。今は重力によって顎の筋肉を動かすことすら困難になっている。

 「ああ、質問の答えがまだだったな。テメーのゴミカス息子なら、俺がぶち殺した」

 平坦な声で、淡々と、お風呂沸かしといたよーというようなノリでそう告げる。同時に重力を元に戻してやる。

 「き、さまあああああああ!?よくもおおおおおお!!」
 「ああ、でも安心しろ。もう一人の方にはまだ会ってすらいないし、奥さんも同様だ。どこにいるのかも知らねーし。けど、俺の元クラスメイト...救世団だっけ?そいつらはほとんど復讐して殺したぜ。あと他の王族と貴族もな」

 王国に来てから、王女のミーシャや王妃にはまだ会っていない。王妃に至っては顔すら知らない。どちらにしろ、異世界召喚に賛成はしたんだろうから、殺すか。

 「我が妻には絶対に殺させんぞ!貴様ごときに!ここで即処刑だ!!」

 クズ王が叫ぶと同時に、奴の護衛兵士たちが一斉に俺を斬りにくる。さて、開戦だ。

 とはいえ、これから行うのは戦いですらない。ただの駆除だ。雑兵に用は無い。暗黒魔法を唱える。

 『死ね』

 そう唱えた瞬間、かかってきた兵士全員が力なく倒れる。そいつらの顔は死体と同じ―つまり死んでいる。

 今俺が唱えたのは、暗黒魔法「絶対の死(デッドエンド)」。並みの戦力しか持たない奴は、これを唱えれば最後、即死する。まさに死の魔法だ。これを使うと、魔力がごっそり減るようだが、ゾンビの俺は、無尽蔵の魔力持ちだから、乱発できる。というか、暗黒魔法マジで強い。これを極めた奴は世界最強を名乗れるだろうな。

 とにかく、今ので護衛兵士は、一人を除いて全滅した。最後に残ったのは、ブラット兵団長だ。彼は俺を仇敵を見る目で睨んでいる。

 「何だよその目は?テメーも、俺を殺したようなものだ。ちゃんと復讐対象に入れてるぜ?」
 「……俺程度では、お前を倒すことなど、無理だろう。だが、ここにおられる国王様を最後までお守りするのが俺の役目だ!!」

 自分に言い聞かせるように叫んで、風魔法と火魔法を放ち、同時に剣を抜いて駆け出す。こいつもクィンと同じ、職業が戦士やもしれない。興味無いので「鑑定」は使わないが。

 「俺は、テメーにかつては訓練に付き合ってほしいと頼んだことがある。だが、テメーも他の兵士も、ハズレ者の俺を相手にしようとしないで、才能豊かな奴ばかり相手にしていた。雑魚は放置。そんなので、国の戦力が上がるわけがない。テメーらカスどもが、モンストールに勝とうとするなら、個の力より数の力に目を向けるべきだったな。
 だから、こうして窮地に陥っているんだよ...」

 そう言いながら、魔法を避けて、目の前に斬りかかってくるブラッドを力いっぱいぶん殴る。剣ごと、ブラッドの顔は砕けた。
 これまでの奴らとは違い、こいつはひと思いに殺した。あいつら程に恨み憎しみはなかったしな。

 「さて、ここにはもうテメーだけ―—「うおぉおおおおお!!」

 クズ王に目を向けた瞬間、あいつは即座に魔法を放った。光の塊みたいなのを飛ばしてきたが、俺はそれを素手で弾いた。
 だがそれは目くらましのつもりらしく、次の瞬間には、俺の眼前に巨人が現れた!