ドラグニア王国の近くにある、歓楽街として有名なハラムーン。その近くにある村、ゾルバ村。
 現在この2か所に、異世界召喚した若者たちで構成された組織「救世団」のメンバー8名と通常の兵士約70名を派遣し短期間在住させている。
 今日はその最終日ということで、そろそろ最後の定期連絡の時間だが、どちらからも連絡が来ない。
 兵士団長のブラット・フレイザーは不審に思い、召喚魔法で使い魔の鳥2羽を飛ばして様子を見ることに。

 途中で派遣された兵士たちが隊列を組んで王国に向かっているのを発見したので、使い魔越しに先頭の兵士に何故連絡を寄越さなかったのかを問う。
 だが先頭の兵士は何も答えない。虚ろな目で前を見つめたまま王国へ歩を進めていた。よく見ると他の兵士たちも同様に続いていた。
 その異様な光景に嫌な予感がしたブラットはすぐに2つの拠点に使い魔たちを向かわせた。
 そして2つとも、目を背けたくなるような光景が映っていた。
 抉れた地面に破壊された建物。何より目に映ったのが、夥しい死体の山。娯楽で賑わっていた歓楽街が地獄絵図として映っていた。
 もう一方のゾルバ村は、村民は無事だったが、兵の駐屯地がハラムーンと同様に悲惨だった。

 「...馬鹿な!?」

 何より信じられない光景だったのは、それぞれの拠点に、派遣されていた救世団のメンバーの死体があったのだ。
 ハラムーンに大西雄介、山本純一、片上敦基、安藤久美、鈴木保子の死体が。ゾルバ村には里中優斗、小林大記の死体が確認された。
 須藤賢也がどこにも見当たらないが、彼は無事なのだろうか。
 とにかく、この国いちばんの戦力である救世団の、それも実力がある方の彼らがあんなに無惨に殺されたことは由々しき事態だ。彼らを殺したのはモンストールか、それとも魔物か。いずれにしろ災害レベルの敵が現れたというわけだ。
 だが...

 「彼らの致命傷であろう傷の痕が妙だ...。モンストールや魔物にしては、傷の大きさが小さい。まるで、人の拳大の武器で刺したような痕が見られる...奴らにあんな繊細な攻撃ができるものなのか...?」

 ブラットはこの時ある出来事を思い出していた。それはひと月程前、異世界召喚組の初の実戦訓練の時のことだ。
 大西が単独で地下に降りた時、Gランクモンストールと遭遇した。奴の攻撃は繊細とは大きくかけ離れた攻撃ばかりだった。そもそもサイズが大きく、人族など踏み潰せるくらいに大きいのだ。
 そんな化け物が人の首を折ろうとすると頭を握り潰してしまうだろう。腹に穴を空けようとすると拳大ではなく指で貫通した痕が残るはずだ。
 つまり、救世団の彼らを殺したのは、モンストールではないということだ。
 犯人は全く分からない。今はこの大惨事を国王様に伝えなくてはならない。
 ブラットはすぐにカドゥラ・ドラグニアへの報告に向かった。

 
 数分後、王宮内でいちばん派手で高級感漂う大部屋にて。
 ティータイムを楽しんでいたカドゥラ国王とマルス王子のもとにブラットが入ってくる。
 ただならぬ様子を察した国王は何事かと問う。

 「緊急の報告です!先日派遣された救世団の彼らが、死体となって発見されました!!」

 慌てて飛び出したため、ブラットは気付かないでいた。滅んだ歓楽街の方にいる使い魔の目には、異国の女性兵士が一人映っていることに...。











 クィン視点

 エルザレス族長が屋敷に泊めさせてくれるという話がついた後、コウガさんは国外にある歓楽街や他の場所へ探検すると言ってサラマンドラ王国を出た。
 この時から何となくだが嫌な予感がしていた私は、彼について行こうと思ったのだが、アレンさんに竜人族の文化を見て回ろうと誘われて、そのまま国の観光に連れて行かれてしまった。
 竜人族の文化...人族と違ってあまり娯楽要素が無く、闘技イベントがあちこちで開かれていて、そこに出る戦士たちを対象とした賭け事も行われていた。この国は、武闘系の施設がたくさんあるらしく、竜人族の強さはそこにあるのだろうと思わされた。
 闘技場で戦士たちの闘いを観戦していると、アレンさんが話しかけてくる。

 「ちょっとは、息抜きできた?何だか、思いつめた様子だったから、気分転換にって思ったんだけど...」

 若干心配そうにこちらを見つめてくる彼女を見て、私は優しく微笑む。

 「ええ、楽しめてますよ。気を遣ってくれてありがとうございます。魔族の文化に触れる機会は滅多に無いので、新鮮な気分です」

 私の返事を聞いたアレンさんは、良かったと微笑んで再び闘いに目を向けた。
 アレンさんが私を気遣って観光に連れてきたのは本当だろう。けれど、他に意図があるようにも思えたのだ。
 まるで、私をコウガさんから遠ざけるように、思えたのだ。

 闘技場を出ると空は夕陽に染まっていた。屋敷に帰ってアレンさんにはこれからサント王国に定期連絡をすると言って別れることに。アレンさんはどうやら竜人族の戦士たちに稽古をつけてもらうそうだ。
 彼女が道場へ行ったのを確認してから、私は足早に国を出て、コウガさんがいるであろう歓楽街へ向かった。





 そして、歓楽街「ハラムーン」に着いた私が目にしたのは―


 「そ、んな...これは......」

 歓楽街とはかけ離れた、まるで戦争が起きたかのような惨状だった。
 崩壊した建物は数えきれない、人の死体も、数えきれないものだった。
 思わずその場で膝をついて顔を覆った。今まで何度もこういった光景は見てきた。モンストールによって滅ぼされた村や町をいくつも見てきた。どれも悲惨なものだった。ここも例外ではない。
 しかし違う点があるとすれば、この惨状をつくりあげたのが誰かということ。私は、兵士や少し派手だが戦士であるだろう格好をした人の死体を調べてみた。どれも、あのモンストールたちがつけたとは考えられない傷痕だった。
 これはどう考えても、人がつけたものだ。両脚のきれいな切断面、剣で突き刺したあとに見える刺し傷、首の骨が折れた痕跡など。今までモンストールによって殺された人たちは、そんな殺され方はしていなかった。
 この歓楽街を襲撃したのは、人族によるもの...!?
 ならば、その犯人は.........

 「...コウガさん...!まさか.........」

 信じたくない。あって欲しくない。そう頭の中で叫ぶが、目の前の現実はどう見ても変わらない。
 確かめなければならない。私はそう決心して、滅んだ歓楽街を去った。