作戦が決まり、俺たちはロンソー村というまだエーレの被害に遭っていない村に来た。
サント王国周辺にある村は3つあり、うち2つの村は既にエーレの被害に遭っているとの報告があった。よって、必然的にロンソー村で張り込むことに。
時間はまだ午前中。安宿を借り一休み。
その間アレンとは何も無かった。無いったら無い。
そして1時間後、することがなく、この村の人々の生活をただぼ~っと眺めていると、明らかに人目に立つ集団がやってきた。村長らしきおじさんがそいつらに挨拶をして、何やら話している。
もしかして、あれが王国が出した討伐隊か?だとしたら面倒だなー。俺らでこっそり討伐したかったんだが。ま、これも想定していたことだし。ターゲットが現れたら、あいつらより先に接近しなきゃ。幸いターゲットは普通の冒険者にとってくそ強いらしいから、すぐ討伐されることはないと思うが。
と、討伐隊に対する対抗心を燃やしていると、その討伐隊の一人がこっちにやって来た。
黄色いボブカットの髪をした女性兵士だ。腰に剣を2本携帯していると思いきや、よく見ると片方のは魔法杖っぽいものだった。剣と杖を携帯...?斬新な武器装備だ。服装は、俺ら程じゃないがやや軽装だ。動きやすさを重視していることから、近接戦を得意としているな。
なぜこの女の身なりを分析しているのかというと、アレンが少し警戒態勢に入っているからだ。彼女がそうするくらいには、そこそこできるみたいだ。
女兵士が俺らの前に立つと、挨拶形式のお辞儀をしてから自己紹介をしてきた。
「突然失礼します。私は、サント王国直属兵団の兵士の、クィン・ローガンといいます。私とあそこに見える彼らとで≪エーレ≫を討伐するためこの村に立ち寄りました。お尋ねしたいのですが、あなた方は幻獣≪エーレ≫討伐クエストを受けた冒険者さんですか?」
やっぱり王国の兵士だ。近くで見ると、美人と呼べるルックスだ。お姉さんな雰囲気もある。が、その佇まいは、一般兵士よりも強いと思わされる。こいつは一流クラスの実力はありそうだ。気になるので、「鑑定」発動。
クィン・ローガン 23才 人族 レベル48
職業 戦士
体力 1000
攻撃 950
防御 600
魔力 1050
魔防 600
速さ 1000
固有技能 縮地 剣聖 火魔法レベル5 水魔法レベル5 風魔法レベル5 魔力障壁
剣士と魔術師の両刀型かー。戦士ってかなりの攻撃特化の職業だな。その反面耐久性はイマイチときた。
ところで魔法レベルだが、レベルが6を超えると、それぞれ属性の名称も変わってくる。火は炎熱に、風は嵐に、土は大地に、水は氷も発生できるようになる等、上位互換の魔法に進化する。ま、こいつのはレベル5、あと一歩ってところだ。
さて、どうやら俺たちが冒険者、しかもエーレを討伐しにきたというところも気付かれているみたいだ。ここは正直に答えるか。
「ああ、その通りだ。こんな身なりだが、このクエストを受けるに値するだけの実力は俺も彼女も十分にある。今は、そのエーレを釣るために、ここに滞在しているというわけ。次に奴が現れるとしたら、ここだと思ったんでね」
「どうして、エーレが次にここに現れると?」
「あ~。それは―」
その後、クィンと名乗った女兵士との問答がいくつか続き、俺から本題に切り出す。
「俺たちは、お金目当てで今回のクエストを受けたんだ。冒険者の中では俺たちしか受けてる奴はいねーんだが、お前ら兵団どもが来たってことは、報酬は兵団と山分けすることになるのか?だとするなら、手は出して欲しくねーんだけど」
お金の部分に少し反応したが、特に言及することなく答える。
「私たち兵団は、王国にはターゲットを討ったという事実を報告さえすれば良いので、あなた方冒険が欲しがる素材などは全てお譲り致します。ですので、私たちが最終的にターゲットを倒したからといって、そちらの報酬は減りません」
「へー。それを聞いて安心した。兵団は国から、冒険者はギルドからそれぞれ貰えるということか。山分けしなくていいんだな!」
「...というより、あなた方2人だけで倒せる程、エーレは甘くないですよ...?」
「普通の冒険者ならな。ま、俺たちは違うんで。ホントは力を見せたくはないんだけど」
「そうは言われましても...やはり2人だけというのは...」
と困っている表情を浮かべるクィンのもとへ残りの兵団が来る。ひときわゴツいスポーツ刈りの男が俺と向かい合って挨拶をする。
「この兵士たちをまとめているコザという者だ。君たちが村長が言っていた冒険者だね?何やら、ローガン君と話していたようだが...」
と、ここでクィンが先程の話内容を伝える。それを聞いたコザという兵士は俺に説得するように言う。
「本来、今回の討伐任務は、我ら兵団だけで遂行する前提で、冒険者の介入はあまり考えていなかったのだが...。冒険者の生死は自己責任となっているが、我らとしては人々を守るのが本職だ。だから、できれば無茶をして命を危険にさらす行為はしないでほしいのだが」
「心配しなくて大丈夫だ。俺たちは危ないことはするつもりはないし。何なら、俺たちは見ているだけにしようか?素材が手に入れば、文句は無いし」
アレンの少し驚く様子をよそに、適当に妥協案を出してみる。コザは俺の言葉に少し思案し、やがてそれなら、と首肯する。
「ま、いざという時は君たちにも戦ってもらうよ。では、村民に避難を促しに行くとするよ」
そう言って兵士たちを率いて俺のもとを去った。後から続こうとするクィンに声をかける。
「あんたは、何で俺らがクエストで来たと思ったんだ?自分が言うのもなんだが、冒険者の服装からして、Gランクの討伐に来た奴とは思えないんじゃないのか?」
「それは、この村で魔物やモンストールによる被害が全く無いから、冒険者の身なりをした人がいることはまずないんです。だから、あなた方が今回の討伐対象のクエストを受けて来たのでは、と思ったのです」
「ふーん、そっか。引き止めて悪い。討伐頑張って」
「...お互いに、ですよね?」
最後にクスっと笑いクィンは後に続いて行った。誰もいなくなったタイミングで、アレンが尋ねてくる。
「いいの?あの人たちにやらせて」
「あいつらが倒したところで、報酬が減ることがないし、楽できていいんじゃないか?それに、サント王国の兵力を知るいい機会だしな」
と答えて、宿に入ってのんびりする。
その30分後、遠くから生物とは思えない甲高い鳴き声が響いてきた。不審に思い、「気配感知」を発動すると、数キロ先からスゴい速さで村に近づく生物が引っかかった。
「コウガ。来るよ、ここに...」
アレンも感知したようだ。間違いない。エーレが釣れたみたいだ。彼女に頷き、声のする方へ顔を向ける。さぁ、初仕事だ!