「すごいね、甲斐田君...その通りだよ。私のオリジナル魔術は、相手のステータスや肉体を過去の状態に巻き戻すことができる。それで君を無力化させれば私たちの勝ち。この魔術を完成できたのは、君が教えてくれたライトノベルのお陰」
 「あーあマジか...あんたにそんな作品紹介するんじゃなかった...。最後にこんな邪魔されるなんて。で?時々撃ってくる高園の狙撃や雑魚兵をぶつけて俺に隙をつくらせて、魔術を発動させてフィニッシュ...ってところか?出来ればいいな?そのメンツで...今の俺を、討伐できるといいなぁ!?」 


 挑発しながら両腕を突き出して極太の赤い魔力光線を放つ。一瞬で雑魚兵をさらに減らした。


 「甲斐田君。曽根さんまで、殺してしまって......後悔は、本当に無いの? “砂風刃《さふうじん》” 」

 激情に駆られながら俺を罵倒するかと思いきや、意外にも静かな口調であいつらを殺したことに対して問いかけてきた。まぁその顔には悲しみと怒りが混じってるが。
 そして会話しながら嵐と大地の複合魔法...風と砂の刃が飛んでくる。


 「......言ったろ?あいつらは元の世界で俺を不快にさせた」
  “氷槍” 
 「この世界でもあいつらは俺に対するヘイトを溜め過ぎた。後悔などあるわけない」
  “闇雷《あんらい》” “黒炎槍” 

 水魔法で藤原の魔法を撃ち消し、黒い雷と炎で周りの雑魚兵も巻き込んで反撃する。そしてさっきからやたら来るようになった狙撃弾にも対処する。奴の狙撃には慣れてきている。「危機感知」を強化させたことで、より回避しやすくなった。水・風・雷・土の属性しか撃ってこないところ、使える魔法はこの4つだけらしい。弾丸・矢を交互に撃ってくる。

 前者は威力はあるが直線的、後者は軌道が読めない、面倒だ。どっちでくるのかは当たる寸前にならないと分からないようになってる。高園の狙撃の腕が人間離れしていることがよく分かる。ゾンビ属性とこの身体能力がなければ死んでたかもな。
 前に藤原の魔法、後ろから高園の狙撃という挟み撃ちをくらう形だが、痒い程度だ...実際は痒みも感じられないが。

 突如、藤原の魔力がグンと跳ね上がった。おおマジか、8桁乗ってる!だが体力がかなり減っている。無理してるようだな。


 「甲斐田君にとってよっぽどのことだったんだね...でも殺してほしくなかった!こんな戦争起こしてほしくなかった!君が魔人族の長を討伐した時点で全て終わりにしてほしくなかった!!残った私たちで...和解してほしかった...!!」

 “粘水牢獄《スライムプリズン》”

 スライムでできた牢獄に閉じ込めて、その中に聖水を流し込む俺キラーの魔法がきた。これだけでも無力化されるじゃん。

 “1億V雷玉”

 超高電圧の玉を爆発させて強引に突破。狙撃をいなす。


 「そうしたかったのなら、俺を屈服させて従わせるべきだったな。これも以前言ったよな?自分のしたいことを押し付ければ良いって。まぁ力不足のようだが」
 
 “大刃竜巻”

 もの凄いデカい刃が混じった竜巻を周囲に発生させ切り刻んで殺しまくる。...まだ雑魚は消えないか。邪魔だね......こいつら、ウザい。全員邪魔する気らしいし、本当に全滅させちゃて良いか。「王毒」以外にも大規模殺人魔術は俺にはある。あの“オリジナル魔術”を、また使ってやろう。


 「もう雑魚がいて良いステージじゃねーんだよ......全員死ね」

 “悪食” 

 「...!?甲斐田君、それは―!?(魔力防障壁!!)」
 「ガビル様!あなたは生き残って下さい!!」
 「な...!?お、お主ら――」

 危険を察知した藤原は咄嗟に障壁を発動、良い判断だ。ただ周りの雑魚兵どもは予想通り間に合わず、魔術の餌食となった。
 俺の全身から闇色の触手(先端は禍々しい口腔)が超音速で飛び出していき、兵士たちを“捕食”していった。

 俺の固有技能「過剰略奪」「早食い」を暗黒魔法に付与させたオリジナル魔術「悪食」。もの凄い速さで敵をたくさん食い散らかす。大量殺戮魔術だ。

 約10秒後、数万いた兵士はほぼ全滅した。この戦場で残っている主な敵は...藤原と、今まで隠れていた米田のみだ。これで狙いやすくなったな。

 「あ...あ...ああ...!!」

 米田は声にならない叫び声を途切れ途切れ漏らして尻もち着いて震えている。あの分ではもう魔術をまともに放つことは無理そうだ。後で殺そう。まずはいちばんの脅威から抹殺する。


 「甲斐田君...!わたしは命を懸けてでも、君を更生させるから!!」

 藤原はまだ折れることなく、俺に勝つつもりでいる。同時に魔法杖を捨てて...?で、両手に青白い魔力が尋常じゃないくらいこめられている。杖を放棄しての魔法...いや、アレは魔法じゃない...!もしかしてアレが......
 

 「これで君を終わらせる、全て...!」
 「それが...さっき言ってた切り札(究極の回帰)か...。だがそれが何だ?あんたの身体能力で俺に当てられるのか?俺の最高速度は光速の約2分の1に達する。捉えられるか?というかその前にあんたを即殺して終いだ」
 「関係無い!私は君を“回復”させてみせる...!命と引き換えに君を無力化できるなら本望よ!!」

 覚悟ありか...こんな先生ばかりの学校だったら、さぞマシなスクールライフを送れていたのだろうなぁ......おっと、何らしくないこと考えているんだ俺。一瞬だ。奴が反応する間もなく頭を消し飛ばして終わらせる。奴の切り札など絶対くらってはやらない。奴が死ぬだけの結末で、終了だ...。

 数秒睨み合う。障壁を身に張っているから魔法では死なない。だから素手で殺す。手刀の構えをとって後ろに隠す。体を前傾させてスタートの構えをとる。


 『なっ...!?コウガっ!ヤマタワタルの姿が突然消えて...!!』
 (......!?)


 カミラの狼狽した叫び声が聞こえて、それによって俺の中で迷いが生じた...!
 消えた?突然...?確かに感知出来ない。奴は今、索敵範囲にいるはずなのに...。

 (――いや、今は奴のことはいい!今は、目の前の敵だ...!)

 カミラに小さく分かったと答えて、俺は......



 (オン ユア マーク   セット.........)

 ドン!――と心の中で叫んでスタートを切った!光の速度に近づくスピードで駆ける...駆けて行く!藤原には俺の姿が見えていない。当然だ。そしてあと数歩まで近づいて手刀を振りかざして――


 「私は......」


 終わりだ......!!


 「君を更生させること、まだ諦めてないからっっ!!」

 




 “朧霞《おぼろかすみ》”

 「な......ぁ!?」

 その奇襲を...俺は簡単に許してしまった。突然のことだった。何も感知できないまま...気が付けば俺の体が真っ二つになっていた。そしてたった今そこに現れたその男に目を向けて問う。



 「......何であんたがそこにいるんだよ.........先輩」
 「俺の“気配遮断”の熟練度を甘く見たな......後輩」



 八俣倭は、そう言って俺を斬り捨る。そして直後に......


 「私たちの勝ちだよ――“時間回復(リバース・ヒール)” 」


 俺の頭に手を乗せながら、藤原が静かにその名を口にした。青白い光が強まり、視界がそれに埋め尽くされる。直後、俺の体に異常が起きた...!

 (力が、減っていってる感覚が...魔力が減っていく...!)

 ヤバい......このままだと本当にヤバい!脳は消し飛んでいない。解除できるだけ全部今すぐ解除だ!上半身だけでも動かして藤原から離れるんだ!!

 ズパンッ!!「っ!...あっ、ぅく...!!」
 
 ギリギリのところで藤原の腕を斬って回帰から逃れる。すぐさま俺を追おうとする彼女だが、捕まってやるもんか。上半身だけになっても、まだ音速以上で動ける!数秒後には元通り、すぐにあの二人を殺しに行って、今度こそ終いだ!!



 「あんたらは本当に手強かった!ナイス連携プレイ!だけど最後は俺が―――














 ――ドスッ


 ―――え......?」



 それはまた突然のことで......感知も予測も全くできなかった。音すら聞こえなかった。というか、刺さったことすら気付かなかった。あまりにも正確で高精度で射抜かれて寸分の狂いもなく目標に刺さったから。胸に生えた《《その矢》》を見て、ようやく気付いた。
 
 その矢には、藤原の回帰魔術と同じ、青白い魔力が込められていた。
 そしてこの時俺は、こんな幻聴が...聞こえた......気がした――



 “私たちの勝ちだよ......甲斐田君”

 (高―――園―――)

 呆然として動かないでいる俺に追いついた藤原が、再び体に触れた魔術を再発動する。
 再度失っていく俺の力...いや、巻き戻っていく。
 俺の肉体が。時間が。若返っていく...回復《ヒール》されて、いく...。


 (......!!俺の、ステータスが...!)


カイダ コウガ 17才 屍族 レベル11
職業 片手剣士
体力 1/40
攻撃 40(390)
防御 40(350)
魔力 20(160)
魔防 20(200)
速さ 40(400)
固有技能 全言語翻訳可能 逆境強化 五感遮断 自動再生 略奪 感染    制限解除

 
 見間違いだと思いたかった。夢であってほしかった。だが紛れもない現実だ...!
 俺の今のステータスは、瘴気まみれの地底に落ちて、死んで復活したばかりのあの頃の自分にまで巻き戻ってしまっていた...。
 この最終決戦の局面で、はじめからプレイ時のステータスになるとか、これ何て言うクソゲー??


 「米田、さん...!!お願い...!今なら、あなたの魔術で...!」
 「え?...あ、はい! “死霊操術”!!」


 藤原の指示に我に返った米田が死霊魔術を唱えて俺を縛る。


 「あーあ......今度は全く抗えねー。本気出しても呪縛を振り解けなくなってらぁ...」

 下半身が再生しつつある体をいくら捩っても、脳のリミッターを解除しようにも、能力値不足だ。というか解除率の限界が早い。500%くらいで脳が弾ける音がした。体の耐久性も完全に初期化してやがる。



 もう......詰みだ。

 俺は―――敗けたんだ.....................