ミーシャ視点

 「コウガさん......やっぱり参戦していたのですね...!」


 数分前、ラインハルツ王国副兵団長のマリスさんから、遠く離れた場所からあり得ないくらい強大で恐ろしい戦気を感知したとの連絡が来て、私の固有技能でその正体を確認して欲しいといった申請が届いた。

 私は戦場となっている各地に、固有技能「遠見」が付与された水晶玉をとばして、それで各地の戦況の把握を可能にさせている。
 状況が動いて変わる度に最適な指示を水晶玉越しにとばして戦況を確認している。
 半年間の鍛錬で魔力をかなり増加させることが出来た私は、そういった小技を行うことが出来るようになった。
 私がここまで出来るようになったのは、コウガさんの色々な「姿」を見たお陰でもある。
 魔人族と必死に戦っていた時のコウガさん。その戦いの後彼と話をしたことで、私は彼から色々な刺激をもらった。 
 それを糧にこの半年間、自身の鍛錬にも時間を割くようになった。自分の固有技能の質を高めることに尽力し、魔力向上の特訓も行った。
 あの時、王国の訓練場で一人で必死に訓練していた「彼」のように…。  

 そういうわけで召喚したアイテムを自在にいくつも飛ばせるようになった私は、マリスさんが教えてくれた座標・方角を頼りに水晶玉を飛ばしていった。同盟国があるどの大陸方面ではなく、人が住んでいない孤島まで飛ばして、ようやく“彼ら”を発見した...!

 私が召喚した異世界人たちの一人、死んでゾンビとして復活したコウガさん。見た目は半年前と全く変わっていない。死んでいるからだろうか?
 もう一人はこの戦争相手の大将である魔人族の長。こっちは初めて見た時以上に背丈が伸びてゴツくなっていて、あまりの禍々しさに恐怖を感じた。画面越しでこれなのだから、実際会ったらまともでいられる自信が無い。

 そんな彼らが、己の力を存分に発揮してぶつかり合っていた。お互いどちらかが消えるまで終わらないのだろう、と直感した。

 「コウガさん......どうか負けないで、消えないで...!」

 誰もいない指令室で、私は無意識にそう口にした後、このことを全ての水晶を通して仲間たちに伝えた。だが最後の水晶玉に目を向けると、思わぬ人物が映っていた。

 「あの人は......!?」




 両腕両足に推進機を生やして、それらを稼働させて物理技の速度・威力を倍加させる。もの凄い速度で攻撃するが、修行した甲斐あって急所を常に正確に当てられてる。だがそれでもザイートにダメージを与えるのは少ない。ゴム性質化のせいでダメージをが減少させられているのだ。
 一人の力じゃダメだ...二人分の火力を常にくらわさないと奴は倒せない...!

 覚悟を決める...ここからはミリ単位のミスも許されない、技の戦いになる...!
 俺が脱力した様子を見たザイートは、同じように力を抜いて次の攻撃に備え出した。

 「やっぱり俺一人の力じゃ無理だ...テメーの分も込めた火力で、回復も間に合わないくらいに潰してやる...!」
 「フッ、丁寧に俺を倒す方法を喋ってくれたが、そう簡単にはやらせんぞ...。まぁここはあえて、俺から攻めるとしよう...この一撃で消せるかもしれないしな」

 お互い啖呵を切って、そして二人同時にニヤッと笑い、駆け出した!

 
 宣言通り、まずザイートが両手に多種類の属性を纏った鉤爪を出して、手を広げて攻撃してくる。炎、雷、風、水、闇...10本の指に5種類の属性を付与して切り刻んでくる。うーん、やっぱりそういう攻撃仕掛けてくるよなぁ。
 俺のカウンター技は主に打撃系専門。斬撃や魔法に関してはやりにくい。そう、やりにくいのであってできないわけじゃない。ただ攻撃の衝撃を上手く体内で受け流せないという欠点があって難し過ぎるのだ、特に魔法は無理。

 だからまずは「魔力防障壁」で全身にぴったり服のように張り付ける。体に鉤爪が触れる。斬撃からの多数の属性攻撃が襲いかかるが、障壁によって威力を弱める。俺にくるダメージはそれらから生じる衝撃...これをもらう!
 全身を旋回し、右足を軸足にしたローリングバット蹴りをかまして倍返しする!

 「成功だ... “廻烈”!」

 ザイートの攻撃をも乗せたカウンター蹴りを、奴に叩き込む―!
 が、奴は待っていたかのように、腕を大きく広げて大の字のポーズをとったまま、腹で蹴りを受けた。そして触れた瞬間、全身をベリーロールの要領で猛回転させて、その勢いとダメージを全て乗せた右拳を振り下ろしてきた―!

 (やっぱり真似てきた!倍返しのさらに倍返し...!これをくらえば全身破裂、俺は無力化してジ・エンドだ。躱せる速度じゃない。防御なんてもってのほか。ならば......上乗せして返してやれば良いだけ!!)

 即死級の振り下ろし拳を額で受けてその勢いを活かして、さっきと同じ跳び宙返りからの踵落としをおみまいしてやった!
 倍返しの倍返しを更にまた倍返しした一撃...これはもう誰にも止められない!...と思っていたのだが、俺は迫りくるカウンター技になお余裕の表情で笑っているザイートの顔を目にした。

 「さぁ―どちらが最後にくらうか、とことんやり合おうか!!」
 
 奴がそう吼えた直後、俺の踵を両腕で受け止めた。腕→体幹→股関節へと衝撃を流していって...全ての威力を脚にパスして、計5人分の火力が込められた蹴りを放ってきた!!

 (そうか...野郎、この倍返しがどこまで続けられるか勝負仕掛けてきやがった...!!ミスった方がこの爆弾をモロにくらってジ・エンドって言いたいようだな......やってくれるじゃねーか!!いいぜ、この技をつくった本人として、負ける訳にはいかねぇ!!)
 「やってやろうじゃねーかあああああ!ザイートおおおお!!」

 俺も大きく吼えてカウンター蹴りを受けてさらにまた倍返しした!
 そこから、お互い熾烈な倍返し合戦が始まった...!

 


 何回か倍返しし合った後......

 「魔法や剣、爆弾といった武器兵器がたくさんあるこの世界で!俺たちのいちばんの武器はこいつ(素手)っていうのは、随分と原始的なものだと、そう思ったことはないか!?カイダぁ!」
 
 サマーソルトキックを頭で受けて、バック宙返りからヤクザキックを繰り出したザイートは、いきなり俺に話を振ってきた。

 「あぁ!?何を今さら!だが奇遇だな、俺もついさっき同じことを思ってたよ!ファンタジー世界だってのに、戦い方が完全にジ原始的だってことにな!俺だって本当はカッコいい魔法や魔術を放って派手に兵器を使いたかったんだよぉ!」

 ヤクザキックを右方の横腹で受けてすぐ旋回、とてつもない遠心力に負けないよう下半身にも力を入れて体を正確に動かして、隕石を思わせる程の左肘を振り下ろす。その最中、興が乗った俺はザイートの振りに応じて会話した。

 「ファンタジー?幻想的な...つまり夢の世界を期待してたってか?随分メルヘンなところがあったんだなお前!それにしても、俺たち魔人族の復権するって時にお前のようなイレギュラーが登場したせいで、随分予定が狂わされた!どうせならせめてこの世界が俺たちのものになってから来てくれば良かったのになぁ!そうすればその力を手にする前に殺せていたのだから!!」

 俺が超音速で振り下ろした肘を右掌底で受け止め、そこから衝撃を体内でパスし続けて、最後に左フックでフィニッシュ。

 「はっ、こっちとしても勝手に召喚されて迷惑してたんだよ!しかもテメーがつくった化け物に殺されるというホント最悪な仕打ちまでくらわせられたわクソが!予定が狂ったぁ?テメーの都合なんて今更どうでもいい、むしろ全部ぶっ壊してくれるわアホがぁ!!」

 カウンターフックを胴体で受け止める、そしてまた倍返し。

 「とことん傲慢で自分勝手だなお前は!そんな規格外でイレギュラーな力を持てば無理も無いか!ならば俺も自分勝手に、思うがままにやらせてもらおう!人族と魔族全てを根絶やしてこの世界を魔人族による魔人族の為だけのより良いものに変えてくれる!その為に!邪魔するお前を完全に消すとしよう!!」

 俺の胴体回し蹴りを、相手も腹筋で受け止めて...からのさらなる倍返し。

 「そうかよ、なら勝手に滅ぼしてろよ!俺は俺で、復讐したい奴をぶっ殺す為に勝手に動くから!!目の前のテメーを最初になぁ!!ああけど、アレン...鬼族のあの娘をも殺すってんなら、テメーの仲間にも容赦しねーぞ?全員ぶち殺す!!」

 倍返し。

 「知るか!俺たちはただ全部滅ぼす、それだけだ!というか、同胞を殺すだと?俺を殺した後にか?調子に乗るな!邪魔者がああああああ!!」

 また倍返し。

 「テメーこそ邪魔なんだよぉ!さっさと死んで消えろおおおおおお!!」
 
 さらにまた倍返し...。

 「死ねぇ!」
 「お前が死ねぇ!」
 「テメーが死ねってんだ!!」
 「お前こそが死ぬべきだ!!」

 「「テメー(お前)が死ねえええ!!!」」

 ......!......!!......!!!


 お互い荒い言葉を吐いて、お互い死ね死ねと罵り合いながら、倍返しによるぶん殴り合いを続けていく。その世界一危険な回転扉のようなやりとりから発生されたエネルギーはどんどん増大していき、その余波もえげつなくなっていった。俺たちは拳と蹴りを交互に放ち合いながら島と海を渡っていき、通り過ぎた跡には山サイズの抉れた痕がいくつも残っていた。

 今や俺たち二人が、世界滅亡規模の“天災”そのものと化していた。近づくもの全てが消し炭となり、灰となり、塵となっていく。島がいくつも消滅し、海が割れて、空気が震える。人族も魔族も、魔物もモンストールも、そして魔人族さえもそこに入ればタダでは済まないくらいの死の余波が、俺たちの殴り合い・蹴り合いで生み出されていった...。
 



 もう幾十、いや百にまで達したか?数えきれないくらいに交互に殴り・蹴り返しを続けている。これだけ繰り返したこの膨大な力...くらったら文字通り消えるだろうな...。

 「しぶとい、なっ!素体が人族のくせに、よく壊れないものだ!」
 「もうとっくに人としての機能なんか超えてんだよこっちは...いや、死んでるから壊れるもクソもねーんだよ!テメーこそ即席でこの技をよく続けられるぜ!スペックどんだけだよクソがぁ!!」

 だがどんなことにもやがて終わりが来ると決まっている。この世界一危険な回転扉の応酬、世界を滅ぼしかねない天災も終わる時が来た。

 「ここだぁ!!!」
 「な―!?ぁ―」

 いったい計何百人分の打撃が乗っているのか、お互いその打撃をいつまでも受けきれるのはやはり無理があったらしく、ついに《《その時》》がきた...。

 「残念だったな.........」

 ―そいつは打ち負けした......






 「カイダ」
 
 ―俺、甲斐田皇雅が...。

 ゴッ―――――ドオオオオオオォン.........!!!

炸裂音とともに、俺の体と周囲の陸地・海・島・生物が、全てぶっ壊れた。

 (く......そ.........負け、た!)


 最後は数百人分の拳や蹴りが積もったザイートの角頭突きで、この打ち合いは終了した。そして、俺は意識を手放した......。



 ..............................。